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芸術と地場産業がタッグを組む街・明石 ピアニストが唯一無二の公演を継続中

2018/12/27(木) 9:00配信

デイリースポーツ

 年の瀬になると「ふるさと」を思う。故郷を離れている間に、家族が離散し、風景や人の移ろいで喪失感を抱く人も少なくないだろうが、ただ懐かしむだけでなく、自身の原点に気づかせてくれる場でもあるはずだ。その場を獲得した1人の表現者に焦点を当て、この1年の歩みと新年にかける思いを聞いた。

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 牧村英里子、国際的に活躍するピアニストにしてパフォーマー。兵庫・明石に生まれ、神戸で育つ。京都市立芸術大・大学院からドイツ・ベルリンに留学し、デンマーク・コペンハーゲンで童話作家のアンデルセンが住んでいた家でコンサートサロンを経営した。昨年は欧州ツアーなどで年間30万キロ、地球約7周分を移動。「現住所・地球」という、さそり座の女である。

 そんな牧村が明石に原点回帰するきっかけは昨夏、神戸公演後に幼なじみである神戸新聞の金山成美記者から手渡された一冊の本だった。連載記事をまとめた「あかし本」(ペンコム発行、神戸新聞明石総局編)。牧村は金山記者と共に、「まち」の魅力を音楽や演劇、舞踏などの要素を取り入れた総合芸術として表現する「コンサートパフォーマンス ときはいま」を企画。自ら出演し、水産など地場産業と一体化した舞台を作り上げた。

 2017年11月3日の第1弾では明石城のやぐら横の展望台にグランドピアノを運び、明石5漁協の組合長が生きた魚をその場で競(せ)りにかける演出を敢行。牧村も人魚として競りにかけられた。明石で海苔の研究所、青果市場、神社などを回り、漁船に乗り、地元の人との出合いを重ねた牧村だが、「間違いなく一番の衝撃」が競りだったという。

 「年間100以上のコンサートで劇場に通っていても、あれだけのライブパフォーマンスを見たのは初めてでした」。その衝撃とコペンハーゲンでの体験がリンクした。「アンデルセンと明石を結ぶキーワードが人魚。これは自分にしかできないと」。第1弾での度肝を抜いたパフォーマンスにつながった。

 18年3月の第2弾では築107年の中崎公会堂で開催。6月の第3弾は兵庫県水産会館で催され、聴覚と視覚だけでなく、水槽の中のタコを調理するなど、地元食材を通して味覚、嗅覚、触角を加えた五感を刺激した。

 9月、明石港の近くにある岩屋神社で行われた第4弾を鑑賞した。神事と共に、人魚の牧村がドビュッシー、サティ、坂本龍一などの楽曲をピアノで奏でつつ、牧村の舞が水音と絡み合う。台風接近による激しい雨の中、観客を車で送迎した明石浦漁協の戎本裕明組合長は「金山記者と牧村さん、“パシリ”の自分との三人四脚です」。地場産業とのタッグが定着していた。

 19年1月19日には初めて明石を離れる第5弾「青の玻璃球(はりだま)子午之巻」を神戸新聞松方ホールで開催。「今年の夏、35日間の欧州ツアーで初めてホームシックにかかった。『帰りたい』と思った場所が明石の風景だったことに自分でも驚いた」という牧村。「こんなに面白いプロジェクトはないので、つなげていきたい」。第5弾は総集編であると同時に新たな挑戦の始まりだという。(デイリースポーツ・北村泰介)

最終更新:2018/12/27(木) 9:05
デイリースポーツ

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