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「宮型霊きゅう車」残したい 最期の旅を演出する職人たちの思い乗せ走る

2018/12/29(土) 20:07配信

AFPBB News

【12月29日 AFPBB News】白木作りの「宮型霊きゅう車」が、東京・大田区の池上本門寺の近くを駆け抜ける。瓦ぶき屋根の寺院、昔ながらの商店街、しゃれた住宅が立ち並ぶ坂道。なめらかなブレーキ操作と安定した走りを見せる運転手は、居住まい正しくシートに深々と座りハンドルを握る。都内を中心に20営業所を展開する、業界大手の東礼自動車(TOUREI)が所有する26台のうちの1台だ。

【関連写真(全18枚)】霊きゅう車といえばこの形だった。懐かしさも。

「宮型霊きゅう車」とは、寺院建築などに見られる唐破風をあしらった輿(こし)のある霊きゅう車のことだ。屋根を外し、後部の長さを継ぎ足すなど改造した大型乗用車に、木材で組み立てた宮を載せる。ひつぎを納める「宮」には極楽浄土を表す精密な彫刻が施されたり、金箔(きんぱく)や漆で覆われたりと、職人の技が光る。「走る寺院」さながらだ。

 50代の男性運転手は、霊きゅう車を20年以上運転してきたベテラン。「亡くなり方や年齢、ご遺体の状態などによって、施主様の様子も一通りではありません」と恭しく話す。「どのように接したら良いのか、現場で仏様から教わるようなものです」

 車内で泣き崩れる人もいれば、緊張が解けたのか開口一番に車中での喫煙許可を求める人や、親戚の愚痴を言う人、故人との思い出を語る人…。施主たちは、霊きゅう車の中でさまざまな胸の内をさらけ出していく。

■「宮型」vs「洋型」

 宮型のルーツは、遺体を輿に入れて担いで送った「野辺の送り」だとされる。交通網の発達や社会の変化に応じて、輿の葬列は宮型霊きゅう車に姿を変えていった。金色に輝く絢爛(けんらん)な「金沢型」、ひときわ宮が大きく高級木材の黒檀をぜいたくに使った「名古屋型」など、地域色を競い合った時代もあったという。

 こうした、きらびやかな霊きゅう車を都会で見かけなくなって久しい。かつては、遺体を乗せてクラクションとともに荘厳に出棺する様子は、故人を送り出す儀式のフィナーレに欠かせないものだったが、一見して霊きゅう車と分かる目立つ外観が、住宅地で敬遠されるといった事情もあるようだ。

 かつては個人宅で営まれていた葬儀が、葬祭場で行われるようになった。葬祭場の近隣住民とのあつれきを避けるために、人目を引く宮型よりも目立たない「洋型霊きゅう車」が好まれる傾向があるという。「洋型」とは、宮型同様に改造されるが装飾のない黒い屋根だけのタイプのことだ。

 東礼自動車では、保有する212両の霊きゅう車のうち26両が宮型だ。同社でも宮型霊きゅう車の出番は減っており、現在の稼働率は3パーセント程度。それでも、いつでも出動できるように整備・点検を怠らない。同社の城南営業所(大田区)にも、丁寧に磨かれた2両の宮型が待機している。

 宮型にかかるコストも、洋型に比べてはるかに高くつく。価格は1台あたり1000万円を下らないことも多く、金箔や漆などを使用しており維持費もかかるため、宮型を保有しない事業者も増えた。しかしその一方で、東礼自動車のように宮型霊きゅう車を大切に思い、半ばコスト度外視で手放さずにいる事業者もわずかながら存在する。

「宮型は、日本の葬送文化と伝統の象徴なんです」。全国霊柩自動車協会(東京・新宿区)部長の勝基宏さん(57)はそう語る。死出の旅を見送る気持ちが、職人技の粋を凝らした宮に込められているのだ。

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最終更新:2018/12/30(日) 0:14
AFPBB News

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