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上昇らせん/ねじガール6年(1)「男の職場」に風穴 好循環刻んだ新戦力

2018/12/29(土) 14:00配信

@S[アットエス] by 静岡新聞SBS

 静岡市清水区興津の海に程近い国道沿いに、「興」の字をほうふつさせるカニと十字穴が目印の町工場が見えた。ねじメーカーの興津螺旋(らせん)。吹き抜けの天井にこうこうとともる照明の下、200台もの機械がせわしなく動く。規則的な金属音に、シューッと鋭い空気音が入り交じる。何台もの蒸気機関車が一斉に走っているかのようだ。

 機械のふたを開け、稼働前の調整をしていた新人の鈴木優莉亜(25)が、コンベヤーから1本のねじを拾った。左手で軸をくるくると回しながら、右手で頭部に計測器を当てる。「直径がまだ小さい」。調節を繰り返して基準値に収まったが、今度は十字穴の位置ずれに気付く。設定を終えるまでに、30本以上の失敗作が並んだ。「機械は正直者。私が施した結果が、そのまま製品に表れる」

 全従業員77人のうち、鈴木のように機械を操作するオペレーターは27人。そのうち女性が11人を占める。2011年までは全員が高卒の男性だった。12年、地元の大学を卒業して事務職で入社した女性が、研修中に製造現場に興味を持ち、オペレーターを志願した。

 高卒男子の人材不足に直面していた社長の柿沢宏一(46)にとって、まさに「渡りに船」。歓迎する柿沢とは対照的に、現場の男性陣は敬遠する雰囲気が強かった。「女子にできるのか。どうせすぐ辞めるだろう」。職人かたぎの「男の世界」に部外者が入り込む違和感を抱き、内心舌打ちした社員もいた。

 彼女が開けた小さな風穴が、いずれ会社全体に、ねじのような“大きな上昇らせん”を刻むとは、誰も想像しなかった。感性や着眼点の異なる女性が増えるにつれて、男性陣の後輩への指導法は変わり、社内のコミュニケーションも円滑になった。清掃や作業ルールの順守が徹底され、化学反応が連鎖するかのように、職場は変わっていった。

 その一端が、数字に表れている。12年と17年を比べると、品ぞろえは2割近く増える一方、出荷前に見つかる不良品は6割も減った。社外からのクレームも半減した。

 「彼女たちが加わって、製造現場一人一人の気持ちや行動が、自然と良い方に向かっている」。別の工場で検品を担当する望月明子(50)は「だからこそ、不良品やクレームの減少が加速しているのではないか」と話す。検品歴13年。ねじは単純な作りに見えて、オペレーターの癖や調子の良しあしまで素直に映し出す「繊細な製品」だと知っている。(敬称略)

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 興津螺旋の女性オペレーターは、社内外から「ねじガール」と呼ばれている。男性が圧倒的に多い職場での女性活躍のモデルケースとして知られる。この6年、同社は不良品発生に伴う廃棄率を減らすなどして収益力を伸ばした。受注内容も、規格品から付加価値の高い特殊品へとシフトしている。ねじガールの誕生が、どのように会社全体に好循環をもたらしたのか。社員と経営者の、思考と行動の変化を追った。

静岡新聞社

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