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“歩くドラクエ”だった『テクテクテクテク』が『ポケモンGO』と共存する“一生歩けるRPG”になるまで──『不思議のダンジョン』生みの親・中村光一×麻野一哉が贈る“リアルな冒険”の開発秘話

2018/12/29(土) 11:30配信

電ファミニコゲーマー

 ゲームクリエイターの中村光一氏と麻野一哉氏といえば、『弟切草』『かまいたちの夜』『街~運命の交差点~』といったサウンドノベルシリーズや、『不思議のダンジョン』シリーズを生み出してきたコンビである。

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 このふたりが久々にタッグを組んで開発したのが、現在好評配信中のスマートフォン向けRPG『テクテクテクテク』だ。

  しかも、近年はスパイク・チュンソフトの会長としてゲーム作りを支える側に回っていた印象のある中村光一氏が、本作ではプロデューサーとしてゲーム開発の最前線に立っているという。

 『テクテクテクテク』の正確なジャンル名は“歩いて地図を塗りつぶすRPG”である。つまり本作はスマートフォンのGPS機能を活用した、いわゆる“位置ゲーム”となっているわけだ。

 位置ゲームといえば、世界的に大ヒットしている『ポケモンGO』や『Ingress』をはじめ、ガラケー時代から多数のソフトがリリースされている。そのなかで、中村氏と麻野氏は“位置ゲーム”のどんなところに新たな可能性を見出したのだろうか。
 そしてそれは、かつてふたりが生み出した『弟切草』や『トルネコ』のように、既存のゲームのイメージを大きく変えるようなものなのだろうか。

 そこでこのインタビューでは、『テクテクテクテク』が生まれた経緯について、中村氏と麻野氏に直接お話を伺った。そこで明らかになったのは、麻野氏個人が“趣味として”楽しんでいたある遊びが、このゲームの中核になっているという事実だった。

文/伊藤誠之介
編集/クリモトコウダイ
聞き手/TAITAI
写真/佐々木秀二

■「東京をすべて回る」ために地図帳を塗っていたのが、そもそものはじまり

──まずは、どういった経緯で地図を使ったゲームを作ろうと思ったのか、というところからお聞きしたいです。

麻野一哉氏(以下、麻野氏):
 僕はもともと『Ingress』にハマっていまして。すごく面白かったんですけど、あれってレベル8ぐらいで一通りやることが終わってしまって、その後はマンネリ化しちゃったですよ。僕としてはこの面白さを持続するために、自分で何か工夫しないといけないだろうと思ったんです。

 そこで思いついたのが、東京制覇でした。僕は関西出身なんですけど、東京に来たときに、できれば東京のすべてに行きたいと前々から思っていたんです。
 ただ、「東京を制覇する」といっても、何を基準にすべて行ったことにするか、というルールを決めようがなくて。四つ角を全部制覇したらいいのか、駅を全部制覇すればいいのか……でも駅だと駅周辺だけしか行かないので、あまり意味がないな、と。それで結局、諦めていたんですよ。

 だけど『Ingress』にはポータルがあるじゃないですか。あれはその街の有名どころのポイントを押さえているので、東京にあるポータルを全部ハッキングすれば、それは行ったことになるだろう、と思いまして。

──かなり壮大な発想ですね。

麻野氏:
 ただ問題は、『Ingress』で言うところのユニークポータル、つまり自分が一度でも行ったことのあるポータルなのか、そうでないかというのを、ゲーム上で判別することができないんですね。
 だからしょうがないんで、地図帳を買ってきて、自分が行ったエリアは地図に色を塗るということをはじめたんですよ。その現物を今日、持ってきたんですけど。

──ええっ! これはかなりインパクトがありますね。この作業はあくまで趣味としてやられていたんですか?

麻野氏:
 もちろん趣味としてです(笑)。「これをやれば東京の何かがわかるかもしれない」と思ってやりはじめたら、副産物でゲーム──『テクテクテクテク』ができちゃったんです(笑)。

中村光一氏(以下、中村氏):
 全部塗ってあるから、あんまりよくわからないよ(笑)。

麻野氏:
 じつはもう東京23区は全部行っちゃって、勢いで武蔵野とか三鷹とか狛江とか、23区外のところまで行っちゃったんですけど。

 最初は一瞬、躊躇したんですよね。本当に23区を全部塗れるのか? というところで。
 それが2、3年で終わるのか、それとも20年ぐらいかかるのかすらわからなくて。でも、途中で止めても誰にも迷惑はかからないし、とりあえずやってみようと。

 それで、こうやって地図に色を塗って遊んでいたら、あるとき、知人が『Ingress』のイベントを開くことになって。「ゲームデザイナーの人を何人か呼ぶから、麻野さんも来てよ」と誘われたんです。
 そこで友人の飯田和敏と、あと何人かと一緒にイベントに出て。ナイアンティックの川島優志さんにもゲストに来てもらったりして、楽しくやったんですけど。

 そのイベントを、田村君という僕の後輩がたまたま見に来てくれていまして。じつは田村君は前々から「GPSを使った位置ゲーを作りたい」と言っていたんです。
 それでイベントを見た田村君が、「麻野さんは『Ingress』の何が面白いの?」と聞いてきたので、「『Ingress』そのものには飽きちゃって、今はこんなことをやっているんだ」と地図帳を見せて説明したら、「こんな変な人は他にいないから、一緒に組みたい」と言われて(笑)。

 そこからじゃあ、2人でどんなゲームを作ろうかと考えはじめたのが、『テクテクテクテク』の発端ですね。

──別のインタビューでは「最初は歩く『ドラクエ』というコンセプトだった」とのお話がありましたよね。 

麻野氏:
 そもそものはじまりは、この地図帳なんです。でも、田村君とふたりで初めて打ち合わせをしたときに、「これはいくらなんでもマニアックすぎて、受け入れられないだろう」と言われて(笑)。「じゃあ、田村君は位置ゲーで何をしたい?」と聞いたら、「メジャーなものを作りたい」と言ったので、それなら『ドラクエ』かなと。

 そこで“歩く『ドラクエ』”というテーマを看板に掲げて、プログラマーなどのスタッフに声をかけたりしながら、1年半ぐらいかけてプロトタイプを作っていました。

 いろんな会社に営業活動をしたり、知人にちょっとした参考意見を聞いたりするときも、“歩く『ドラクエ』”と説明するとイメージしやすいので、そのときはそういうコンセプトでずっとやっていましたね。
 中村さんに初めて見せたのも、そうやって作ったプロトタイプです。

──プロトタイプ版はどういうゲームだったんですか?

麻野氏:
 今の『テクテクテクテク』でいうところの、すでに塗られている状態ですね。地図がすべてファンタジー化されているところをモンスターが徘徊していて、そこを歩いて冒険するという。

──現実の世界が冒険のフィールドになっていて、そこを歩いて探索する形、ですか。

麻野氏:
 そうですね。だからプロトタイプだと『ポケモンGO』のほうがむしろ近いかもしれませんね。

 ただこのときは、「リアルな場所で冒険しているのがわかりづらい」と言われたことがあって。そこで地図が出てくるというのを考えたんです。

中村氏:
 ボタンを押すと、自分のいる場所から周囲に丸く広がって、覗き窓みたいに現実の地図が見えるようになっていたんですよ。

麻野氏:
 それで自分のいる場所の地図が見えるんです。なぜこれを入れたのかというと、外を歩き回ってゲームを遊んで、「さぁ、家に帰ろう」と思ったときに、駅がどっちにあるのかわからないんですよ(笑)。今の『テクテクテクテク』だと、ファンタジー化された世界の下に現実の地図が透けて見えているから、今いる場所がわかるんですけど。でもプロトタイプのときは、完全にファンタジー世界になっていたんです。

 でも地図を使ったゲームを遊びながら、「駅はどこにあるんだっけ?」と、Googleマップを開くのもアホらしいじゃないですか(笑)。そこでボタンをポンと押したら、現実の地図が開くというのを作ったんです。

 この地図を切り替えるというのが当時、中村さんをはじめ、誰に見せてもウケたんです。

中村氏:
 最初に見せられた画面は、すごく出来のいいRPGの場面だったんですよ。プロトタイプとはいえ、プログラムもけっこうちゃんと作られていて。それで話を聞くと、「このマップって、じつは今いるここなんですよ」と。今まで見ていたゲーム画面から急に現実の地図が開いて、「あそこのコンビニがここにあって」と説明されて、「これは面白い!」と思ったんです。

──まさにリアルの現実世界でRPGをやろうとしたわけですね。

中村氏:
 ええ。それでこれを見た瞬間に、自分の子どもの頃を思い出したんです。小学生から中学生へとだんだん大きくなるにつれて、自分の行動範囲が次第に広がっていくじゃないですか。途中で自転車を買ってもらったりして。そうすると、こんなところに神社があるとか、池があるとか、自分の知っている場所がどんどんと広がっていくことに、ワクワクしましたよね。

 今まで行ったことのない山に行ったり、川に行ったりして、そこで新しい遊びを見つけてワクワクするのとまったく同じ感覚で、このゲームではモンスターを見つけたり宝箱を見つけたりできるんだと思うと、これはたまらないなと。

 特に大人になると、自分の家から駅に行くまでの通勤経路なんかはほとんど決まっていて、ふだん住んでいる街でもすべての道を歩いたことはないというのが、現実だと思うんです。だからこのゲームをきっかけにして、自分の住んでいる街をウロウロしながら冒険できるというのは、すごく面白いなと思って。

 「これは面白いからぜひやりましょう!」と伝えたのが、麻野さんたちがはじめて1年半ぐらい経ってからですから……もう2年半、3年ぐらい前のことになるんですかね。

麻野氏:
 だから、最初に企画してからちょうど丸4年ぐらいですね。中村さんに最初に見せたときに、今いる場所がゲームフィールドになるんだという、シンプルなところに共感してもらえたのは、ラッキーだったと思いました。あの時点でもし難色を示されていたら、すべてが終わっていたので。

■自分の足で直接その場所まで行く、“現地塗り”原理主義者です

──おふたりとしては『テクテクテクテク』をどういう風に遊んでもらえるのが理想だという想定で作られているのですか?

麻野氏:
 僕と中村さんとでは、想定がたぶん違うと思うんですけど。なにしろ僕は“現地塗り”原理主義者なので。

──“現地塗り”原理主義者ですか。

麻野氏:
 『テクテクテクテク』では、自分の足で現地まで行ってその街区を塗るだけではなくて、塗った街区に接している隣の街区を、毎日歩いて集めたTTP(テクテクポイント)を使うことで、直接行かなくても塗ることができるんです。これを“となりぬり”と呼んでいるんですけど。

 でも僕としては、自分がまだ行ったことのない場所に、自分の足や自転車を使って実際に行くのが、いちばん楽しいので。だからひたすら現地に行って、塗って塗って塗って塗って、どこまでも塗るという。
 僕みたいに現地塗りが好きな人は、とにかく現地へ行くことにこだわると思うんですよ。

 全員が全員そうだとは思わないですけど、たぶん何割か、何パーセントかは僕のような人間がいると思うので。そういう人たちには、ものすごく響くんじゃないかと思います。

──編集部でも「どういう風に遊んでる?」という話をしていたんですけど、僕は効率厨なので、オブジェクトがあるところを“となりぬり”でピンポイントに塗っていく、というやり方をしていたんです。
 ところが別の編集部員は、自分の家の周りをじわじわと広げていくために“となりぬり”を使っているというので、けっこう使い方が違うねと。

麻野氏:
 じつは設定を切り替えると、現地塗りで塗った街区はカラーで、“となりぬり”で塗った街区は白黒で表示させることもできるんです。自己満足なんですけど(笑)。

中村氏:
 それである一定のレベルになると、白黒で塗られているところに後から実際に行くと、そこをカラーに、つまり現地塗りに変えることができるんですね。いったん“となりぬり”で塗っちゃったからといって、後から変えられないわけではないので。

 じつを言うと、現地塗りで広げていくことがこのゲームで有利になるところも、ちゃんと設定されているんです。麻野さんは自分を「“現地塗り”原理主義者」と言っていましたけど、僕も『テクテクテクテク』のいちばんの醍醐味は、現地塗りだと思っているので。

麻野氏:
 ”現地塗りにはじまり現地塗りで終わる”と、僕は思っていて。途中、いろいろあるんですけど、結局どこかで「現地塗りがいちばんだ」という風になるはずなんですよ。

──『Ingress』や『ポケモンGO』と、『テクテクテクテク』の違いは何だろうかと考えたときに、『Ingress』や『ポケモンGO』はまず目的地があって、そこに向かって歩いていくじゃないですか。
 つまり、歩くのはあくまで過程だと。
 それに対して『テクテクテクテク』は、歩くことそのものが目的であり、ゲームの面白さになっているので、そこが決定的に違うと思いました。『テクテクテクテク』は歩くことに快感があるんですよね。

麻野氏:
 ありますね。いろんなところに歩いていくので、最初はお金がかからないんですよ。そのうち電車を使いはじめると、お金がかかるんですけど(笑)。とはいえ、大人だったらそこまでお金のかかる趣味でもないので。

中村氏:
 いやいや、けっこうかかるよ(笑)。

麻野氏:
 あなたは日本中を回っているから(笑)。

 『Ingress』ってすごく面白いんですけど、僕にとっては遊んだ甲斐がないというか。僕は緑(Enlightend)なんですけど、自分のエリアを緑にしてもひっくり返されたりするし、2週間ぐらい経つと結局、すべてが砂の上に書いた文字みたいに消えちゃうので。
 僕に関して言えば、ゲームに自分の爪痕をずっと残しておきたいというのが、いちばん大きかったんです。

 『テクテクテクテク』には、自分のライフログみたいな要素もあるので。“予約ぬり”といって、現地に行ってから24時間以内にその街区をタップすれば、後から塗れるんです。
 だから、旅行に行ったときのついでに、スマホをポケットに入れて普通に観光して、旅館に帰ってからゆっくりと塗ることもできるんですよ。そういう意味では、旅行の楽しみがこれでひとつ増えると思います。

 あとは、旅行したあとによく、地図を眺めて振り返ったりするじゃないですか。このゲームだと、それに近いことが勝手にできてしまうんです。
 旅行の道のりがプレイの記録として残るので。人間というのは、場所に対しての記憶を覚えているものじゃないですか。ゲーム画面で地図を見たときに、「ここに行ったときはあんなことをした」というのが、思い出とともに蘇ってくるんですよ。

 そういう意味でも『テクテクテクテク』は、いったんハマると一生モノのアプリだと、僕は思っています。自分の人生……というと大げさなんですけど、自分の生活と地続きで遊べる感覚が、僕にはすごくあるんです。

──麻野さんの地図に対するこだわりが、『テクテクテクテク』の原点になっているのがよくわかりました。では麻野さんのそのこだわりは、どこから生まれたものなのでしょうか?

麻野氏:
 ものすごく簡単にいうと、“一種の征服欲”だと思うんですよね。自分の土地や陣地を広げていくゲームというのは。たとえば『信長の野望』とか、『シヴィライゼーション』とかもそうですけど。

 ただ、そうしたゲームで陣地を広げても、それはゲームが終わったら消えてしまうじゃないですか。でも『テクテクテクテク』の場合は自分が歩いたというシンプルな結果が、ちゃんと一生残るんです。
 それって大げさにいうと、「自分の生きてきた証しが残る」ということ。もちろんそのためには、サーバーを維持しないといけないですけど。

 そんなに旅行はしないという人でも、自分のふだん歩いた距離が変換されて、それを使ってたとえば横浜市を全部塗り切ったというような形で、可視化することができますから。自分が移動したことが形になって残れば、それは今までにはなかった喜びなんじゃないかと思います。

──大ヒットするゲームには、人間のプリミティブな欲求や欲望を満たす部分があると思うんです。たとえば『ポケモン』なら虫取りの楽しさですね。
 『テクテクテクテク』で歩いて地図を塗るのも、そういうものであると思うんです。

麻野氏:
 我々もそう思っています。プリミティブな欲求なんだけど、今まではルールがなくて満たすことのできなかったものが、このゲームによってルールを作れたので。だから「自分はこれだけ歩いたんだ」と、誰に対しても自慢できるものになったと思います。

■『ポケモンGO』を遊びながら、一緒に遊んでほしい

──“予約ぬり”に関してなんですが、今後のアップデートで、アプリをバックエンドで起動していれば“予約ぬり”してくれるようになるのでしょうか。 

中村氏:
 わりと早々に、極端にいうとこのアプリを立ち上げていなくても構わないという形になる予定です。それは今、プログラム的には仕込み中でして……。デバッグ云々の問題があるので、ローンチ時には止めておこうか、という判断です。

 自分で遊んでいると、新しいところに行ったのに起動するのを忘れていて「あっ、しまった!」みたいなことがけっこうあったんですよ。そのダメージが案外デカくて、しばらくイライラしちゃったりして(笑)。
 なので、そういうことが起きないようにしたいと思っています。

麻野氏:
 現状でも“スリープしない”という設定があるので、これでたとえば、スマホをポケットに入れて自転車で走り回ったり、車の助手席に放っておいたりすることもできますから。

 最終的にはもう、『ポケモンGO』を遊びながらできるゲームにしたいので(笑)。『テクテクテクテク』を1回立ち上げてもらったら、あとは外を歩き回って『ポケモンGO』を遊んで、家に帰ってから今日歩いた分の予約塗りをするという。
 ぜんぜん共存ウェルカムなゲームですよ(笑)。

──それってオフィシャルに話してもいいんですか?

麻野氏:
 大丈夫ですよ。こちらとしては、向こうを敵に回す気はぜんぜんないので(笑)。

──昔、MMORPGが流行したときに、『スカッとゴルフ パンヤ』というオンラインゴルフゲームが同時に流行ったんですよ。要するに、ひとりでMMOを同時に2タイトルも遊べないと。MMOを遊ぶのは1タイトルが限界なんだけど、そのおまけにゴルフゲームなら遊べるよという。セカンドゲームという言葉が当時あったんですけど、そういうセカンドゲームのポジションって、じつは穴場というか、狙い目な気がするんですよ。

麻野氏:
 そういう気がします。『テクテクテクテク』を発表した後にTwitterを見ていると、「でも今は『ポケモンGO』をやっているから、どっちをやろうかな」みたいなことを言っている人がいて。いや、どちらもぜひやってくださいと。ぜんぜん共存できますから。

──『テクテクテクテク』のゲーム内容は、比較的シングルプレイに寄っていますよね。オンライン要素が普通についているスマホゲームで、あえてマルチプレイにはしないという選択をしたんでしょうか。 

麻野氏:
 マルチプレイの要素も大事だと思うので。今後入れていく予定はあるんですけど。でもまずはシングルでプレイして面白いゲームというのを目指しました。

中村氏:
 ゲームがコンシューマーからスマホに移ってきて、無料で遊べることが前提になると、ほとんどのゲームは他の人と競ったり対戦したりすることが必須になって、負けたくないから課金する、みたいな構造になっているじゃないですか。そんななかで、ひとりでゆっくり落ち着いて遊べるものとして、麻野さんがさっき言った「地図に自分の爪痕を残す」というのがあるのかなと思うんです。

 とはいえ、すでに発表していますけど、最初のメジャーバージョンアップでレイドバトルを実装する予定です。めちゃくちゃ強いゴジラに対して、みんなで戦うという形ですね。

 あとは、現状だとモンスターを仲間にするところまでしか入っていないんですけど、今後は仲間にしたモンスターを牧場で育成できるようになるんです。そうしてレイドバトルがはじまると、仲間になったモンスターたちもバトルに参加できます。

──なるほど。ひとり遊びというところにフォーカスしながらも、オンライン的な盛り上がりというか、みんなが集まる仕掛けも用意されているんですね。

■新幹線で移動しながら塗るのは,ほとんどアクションゲームです

──先ほど“予約ぬり”の話が出ましたが、予約ぬりというのは訪れた街区がマップ上で予約されていて、24時間以内にそこをタップして塗る形ですよね。街区を訪れたら自動的に塗られるのではなくて、自分の手で塗ることにあえてこだわっているんですか?

中村氏:
 そこはすごく重要で。ゲームとしては、移動しているだけでどんどんデータが蓄積されていくんですけど、これを完全にオートで塗っちゃうと面白くないんですよ。

 ちょっと面倒くさい部分と、宝箱がどんどん出てきたりするワクワク感みたいな部分が凝縮されて、ふと気がつくと2時間ぐらい経っている。この時間というのがゲームにはすごく重要で。
 プログラム的にはオートで塗っちゃうこともできるんですけど、でもそれはあえてやっていないんです。

──僕はちょっと前に名古屋に行ったんですけど。新幹線に乗っているときに『テクテクテクテク』の画面を見ていると、ものすごい勢いで街区が予約されていくんですよ。
 それを片っ端からタップして、頑張って塗っていると、気付くと1時間ぐらい経っていて(笑)。

麻野氏:
 アクションゲームですよね、ほとんど(笑)。一周回ってアクションに戻ったみたいな感じになっちゃうんですよ。

──このあたりのゲームをプチプチ遊んでいる快感というか、手触り感みたいなものって、少なくともこれまでの他の位置ゲーにはなかったものだと思うんです。
 ちなみにプレイスタイルとしては徒歩だけではなくて、電車や自動車で移動しながら遊ぶことも想定されているんですよね?

麻野氏:
 もちろんです。『Ingress』でもバスとかに乗ったらハッキングがはかどるじゃないですか。あの感覚がすごく大事だと思ったので、時速制限とかは絶対に設けたくないと。

──自動車に乗っているときの速度でもちゃんと遊べるようにする、みたいな調整が行われているのですか?

麻野氏:
 特に調整はしてないですね。スマホの性能=ゲームの限界です(笑)。一応、飛行機の機内Wi-Fiでも塗れましたから(笑)。

──では飛行機に乗るとどうなるんでしょうか。 

中村氏:
 街区の予約がめっちゃ速いですよ(笑)。タップして塗るのがもうまったく追いつかない(笑)。iPhone XとiPhone SEの両方を機内に持って行ったんですけど、通信の電波を拾う関係なのか、Xだとなんとかプレイできたんですけど、SEはまったく追いつかなかったですね。開発段階のテストを兼ねていたので、最新版だとどうなっているのか、よく分からないですけど。

──歩いているときのゆったりした感じと、自動車や電車に乗ったときのちょっとズルしている感じのギャップが、素晴らしいなと思っていて。

中村氏:
 街区をタップできる範囲を表すサークルがあるじゃないですか。じつはあのサークルを大きくするアイテムがあるんです。アイテムを使ってサークルをどんどん大きくしていくと、最初の大きさの3倍近くにまでなるんですね。サークルの大きさを3倍にして新幹線に乗ると、ものすごい勢いでブワーッと街区が予約されていくので、天下を取ったような気分になりますよ(笑)。

──サークルを大きくできるというのは面白いですね。

麻野氏:
 実際の話、サークルを大きくしないと塗れないところがあるんですよ。たとえば自動車教習所の中に、道路がたくさんあるじゃないですか。あれが全部、街区として認識されるんです。ところが教習所の外からだと、中の街区までサークルが届かないんですよ。だから、ある程度サークルを大きくしないと塗れないんです。

 あとは女子大の敷地も、僕らは中に入れないので(笑)。自分で地図帳を塗っているときに、どうしても中に入れなくて塗れなかったのが、米軍キャンプと自衛隊の基地と女子大のキャンパスで(笑)。
 あとは皇居とか皇室関係。こういったところには入れないというのが、自分で東京を回ってわかりました。

──たとえば練馬区と朝霞市との境界のあたりは、自衛隊の基地がかなり広いので、中には入れないですよね。

麻野氏:
 そうなんですよ。あそこの基地の中に『Ingress』のポータルが2つぐらいあるので、たぶん自衛隊の人がやってるんだと思うんですけど(笑)。

 そういう場所に入れない悔しさをなんとかしたいと思って、『テクテクテクテク』ではアイテムを使ってサークルを大きくすれば、入れない場所でも外側から塗れるようになっているんです。

中村氏:
 『テクテクテクテク』を遊んでいると、この街区を塗りたいのにどこから行ってもギリギリで届かない、みたいなことが起きるんですよ。それで思わず駐車場の塀のところから、スマホを持った手を伸ばしてみたりとか(笑)。そういう行為をコンピュータゲームでやる自分が、それまではまったく想像できませんでしたから。その瞬間に「これはメチャクチャ面白いな!」っていう、そういう感動がありましたね。

 僕が“現地塗り”原理主義に目覚めたのは、横浜の港なんです。港のあたりって、道路はあるんだけど、その先が私有地というか、会社の敷地だったりするんですね。

 それで、ぜんぜん普通に入れるところもあれば、完全にゲートがロックされていて、その横に守衛さんが立っているようなところもあって。「この中を塗りたいんだけど、さすがに入れないよなぁ」と思いながらチラッと見たら、守衛さんもこっちを見ているんですよ。
 「なんか変なヤツがスマホを持ってウロウロしてる」と(笑)。

 あとは青果市場の中にある区画を塗りたいんだけど、青果市場も関係者しか入れないのかなぁと、周りをウロウロしたりとか。そうやって、あっちから行ったりこっちから行ったり、やっぱりダメだと引き返したり、そういうことをやっているときに「これが現地塗りの面白さなのか!」と思ったんです。

 麻野さんが言っていたのはコレなのかと。

麻野氏:
 そうなんですよ。

中村氏:
 麻野さんも、そういうことを体験談混じりでちゃんと説明してくれればいいのに。「塗りが絶対に面白い」って、それしか言わないから(笑)。

麻野氏:
 たぶん僕は言ったと思うんだけど、中村さんが覚えていないんですよ。実際に自分でやってみないと、伝わらないところがあって。

 簡単に言うと、それこそ『メタルギア』とか『アサシン クリード』のプチバージョンみたいなものなんですよ。あそこまで命がけではないですけど、こう、守衛さんの様子を伺ってサッと動いたりとか、駆け引きをしながら(笑)。

──もちろん不法侵入はダメですよ(笑)。

麻野氏:
 あとは廃屋みたいなところがあって、この敷地に入っていいものかどうしようかと迷っていたら、横でおばちゃんが近所の子どもに「入っちゃダメよ!」って怒っていたりとか(笑)。

 こういうのって、口で説明しても伝わるとは限らないので。「単なる変な人じゃん」で終わっちゃいますから。

中村氏:
 ゲーム開発の現場で、そんな体験って普通はできないので、もう、メッチャクチャ面白かったですね、いろんなことが。

 『テクテクテクテク』ではMap Fanという地図のデータを使っているんですけど、我々はすべてを目で見たわけでも、実際に歩いてきたわけでもないので、まったく想像できないことが起きるというか。
 現実のリアルな地図を利用することで、いろんな意味でかつてない体験ができると思うんです。

 たとえば、島に行って実際に塗ってみると、島の向こうにある小さな岩とか、「これはどうやって行くんだろう」みたいなところがあったり。

──それはさまざまなドラマが生まれそうですね。

■現実の地図を使って遊ぶことの“納得感”がほしかった

──最初は“歩く『ドラクエ』”をコンセプトに掲げていたのが、途中で麻野さんの”地図帳を塗る遊び”に回帰していったと思うのですが、地図が街区にわかれていて、そこを塗るというゲームの形は、ずっと一貫しているんでしょうか。 

麻野氏:
 もともとは、僕が地図帳で塗っている形が理想だったんですけど、これをプログラムでやるのは無理だろうと思っていたんですよ。なので、違う形で塗る方法をいろいろと考えていて。

 最初は自分が歩いて行くと、その周囲の半径がヌルヌルと、虫食いみたいな感じで塗られていくのをやろうとしたんです。でも、ぜんぜん気持ちよくないんですよ。

 これはアカンとなって考えたのが、『Ingress』みたいに、行った場所の3ヵ所を頂点にして、三角形に塗っていくというもので。すると中村さんが「三角形と聞いた瞬間に遊ぶのを止めちゃう人がいるよ」と(笑)。
 確かにそういう人も世の中にはいるだろうと。

中村氏:
 ほかにも、六角形のヘックスで塗られるとか、四角形で塗られるとかの話も出たんですけど、現実の地図を使っている感じがぜんぜん出なくて。

麻野氏:
 納得感がないんです。道路と関係なく真四角に塗られても、なんで現実の地図でこれをやる必然性があるのか、となってしまって。

中村氏:
 あとは、投げたら爆発する塗り爆弾みたいなのをやろうとかいう話も出ましたね。

麻野氏:
 塗り爆弾にしてしまうと、テロリストのゲームにしか見えないんですよ(笑)。『スプラトゥーン』にも似ちゃうし。

 それで結局は、道路に囲まれた最小区画をポンと押すと変わるというのが、いちばんわかりやすいというのに落ち着いたんですけど。

 プロトタイプを作ったときに、目の前の道路がわかれて、さらに向こうでまたつながっているのを見たときに、本物の地図だという納得感がスゴいんです。実感が違う。
 「やっぱりこれだな」と思いました。

──街区を分割するプログラムは、かなり苦労されたのですか?

麻野氏:
 メチャメチャ大変ですよ。イチから作りましたから。

──プログラムである程度判別するとして、その後に人間の手でちょっと調整したり、直したりというのをやっているのかどうかが、気になりました。

麻野氏:
 基本的にはやってないですね。できる範囲のところはやっていますけど、それも限界があるので。

 でも逆に言うと、それが面白さでもあると思うんです。たとえば川沿いに行くと、ものすごく細長い、よくわからない街区があったりするんですよ。
 「なんだ、この長いのは?」って(笑)。そこらへんはむしろ、人間の浅知恵でどうこうするよりも、世界の神秘に触れたほうが面白いと思うんですよね。

中村氏:
 街区を塗るごとに、宝箱が出たりモンスターが出たりといった判定を、毎回ランダムに決めているんです。自動車教習所みたいに狭いエリアに街区が密集しているところを一気に塗ると、ブワッと宝箱やモンスターが出てきたりして。そういうのも、想定していなかった面白さというか、驚きですよね。

──マップに配置されているショップなどは、全員共通のものなんですよね?

麻野氏:
 そうですね。全員共通です。

──そういったオブジェクトの配置みたいなものは、どのように調整しているのですか?

中村氏:
 マクロでの数の調整みたいなものはありますけど、普通のRPGみたいに、ここにはこれがあってとか、ガチガチに決めているわけではないですね。

──都市部と地方だと、遊び方が変わってきたりは?

麻野氏:
 若干変わるかもしれませんけど。“となりぬり”もあるので。そんなにものすごく大きく変わることはないと思います。

中村氏:
 都心だと街区が小さくて、田舎に行くと大きくなるんですね。街区の面積によって得られるポイントが変わるので、面積が大きいほど一気にランクが上がりやすくなるんです。

 奥多摩湖の周りとか、めちゃくちゃ街区がデカくて、ランクが5つ6つ、一気に上がりますよ。そのために僕は2回ぐらい、奥多摩湖まで行ったんですよ、車を飛ばして(笑)。
 初めて行ったときは夕方近くで、向こうに着いたらけっこう暗くなっちゃって。夜7時、8時くらいになるともう、誰もいないんですね。電気もついていなくて、めっちゃ怖いという(笑)。

麻野氏:
 リアルな冒険だからね。

──リアルな冒険というのはいいですね。これまでのゲームと違う遊び方がよく伝わってきて。

麻野氏:
 山奥とかだと道がないところもあるので、そういう場所は街区が大きくてもいいかなと。

中村氏:
 なにせ都心部の小さな街区と、日本でいちばん大きな街区だと、面積の差が10万倍くらいありますから。このでっかい街区を実際に塗れるどうか、リアルに試さないとダメだよねって、麻野さんとふたりで行ったんです。北海道のとある場所にあるんですけど。

 飛行機で札幌まで行って、そこで1泊して、ふたりでレンタカーを借りて行ったんですけど、これがぜんぜん着かない(笑)。4時間ぐらい走ってようやくその付近に着いたんですけど、後でよくよく調べたら、札幌からそこまで、東京から浜名湖まで行くぐらいの距離があるんです(笑)。

──さすがに北海道は雄大ですね。

中村氏:
 北海道を舐めてたらダメですよね(笑)。それでようやく現地に着いて、「このへんかなぁ?」とスマホを見たら、電波が届いていないという(笑)。「えーっ、塗れないじゃん!」みたいな(笑)。

 そういうこともリアルだからこそあり得る話で。

麻野氏:
 結果的には、なんとか電波を見つけて塗れたんですけど。

中村氏:
 今度は衛星電話を持っていくしかない(笑)。

麻野氏:
 最初は世界同時リリースをしたかったんです。でも無理だというので、まずは日本からにしたんですけど。世界を舞台にすると、シベリアとか、北海道どころじゃないとんでもないところがあると思うので(笑)。

中村氏:
 それは塗ってみたいね(笑)。

麻野氏:
 塗ってみたいでしょ。現地に行くと大変かもしれないけど(笑)。

■ジャンルを新しく作る仕事は、初めての体験が多くて面白い

──じつは今日、コンシューマーゲームを作っていたおふたりが、スマホでゲームを作ったり、現実のなかにスマホを持ち出して遊んだりするものを考えたときに、どういうところに面白みや新鮮さを感じてプロジェクトに取り組んだのだろうかというのを、お聞きしたいと思ったんです。
 『テクテクテクテク』を作るにあたっては、これまで作ってこられたゲームとは違う感覚や、違う面白みを感じながら、いろいろな判断があったのではないでしょうか。

麻野氏:
 スマホだからどうという感覚は、特になくて。どっちかというと、この地図帳がすべてですね。この地図帳を自分で塗るのって、楽しい反面、面倒くさいんですよ。実際、このゲームとは別に、地図を塗るためのアプリも自分用に作ったんですけど、極端なことを言うと、僕自身はそれで良かったんですよ。そのアプリは本当に地図を塗るだけのもので、ゲーム性はゼロで。

──中村さんはどうだったんですか?

中村氏:
 僕は、コンシューマーで作る前にはパソコンでゲームを作っていたし。その前はゲーセンのゲームを遊んでいたし。もっと言うと、コンピュータゲームが出る前は、デパートの屋上にある機械仕掛けのゲームも遊んできたので。

 だからターゲットとされるハードウェアが変わったからといって、自分の中で何かがすごく大きく変わるということは、基本ないと思っています。そう考えながら作ってはいるものの、やっぱり現実的には違うんですね。
 テレビの前に座ってじっくり遊ぶのと、実際に歩いて移動しながら遊ぶということは。

 消費するエネルギーの質と量がまったく違うというか。コントローラーをものすごい勢いで操作して5分、10分遊ぶのと、10分ぐらいテクテク歩いて移動したときの消費カロリーって、やっぱりぜんぜん違っていて。
 ディスプレイから得られる刺激だったり情報だったりと、現実の世界を自分で歩いて得られる情報や、そこから生まれる満足感も、まったく違っているので。『テクテクテクテク』を作ってみて、やっぱり思っていた以上にすごく、そういうところは感じましたね。

──『テクテクテクテク』は中村さんがゲーム開発の現場に久しぶりに戻ってきたタイトルでもあると思います。プロデューサーに徹するのではなくて、なぜ現場に入ってきたのかという理由もお聞きしていいでしょうか。

中村氏:
 先ほどお話しした、最初のプロトタイプを見て思い出した自分の子どもの頃のワクワク感と、RPGをリンクさせているというのは、きっと作るのが面白いだろうなと思ったので、ぜひとも参加したいと。それが純粋な思いですね。

 ゲームって、できあがったものを遊ぶのも面白いんですけど、作るのはそれ以上に楽しいんですよね。いろんな企画やアイデアが実装されていって、それが上手くいく場合もあれば、ダメな場合もあるし。
 不具合やバグでダメになることもあるんだけど、そのバグがキッカケでまた面白くなることもあるし。未知な部分から想定以上のものができていく瞬間みたいなのが、すごくドラマチックで。今回のように新しい試みが多いプロジェクトほど、そういうことがすごく多いんですよね。

 麻野さんとは以前、一緒にサウンドノベルを作ったんですけど。あれも出来上がったものを見れば、テキストが流れて絵が出て音が流れて……という、そんなに難しくないもののような感じを受けるんですけど。
 でもじつは、テキストの出し方ひとつにしても、いろんなものを試してみたんですよ。今のように1文字ずつ出てくるパターンだけじゃなくて、すーっと1ドットずつ出てくるようなパターンとか、スクロールしていくようなパターンとかね。

 すーっと1ドットずつ出てくると、カラオケみたいで思わず歌いたくなっちゃうとか(笑)。スクロールしていると画面の下ばっかり見て、画面全体を見ないので飽きてきちゃうとか、それぞれに良いところと悪いところがあって。

──そうだったんですね。

中村氏:
 想定外の事態から自分たちが学べることも、すごくあるんです。『街 ~運命の交差点~』では実写を導入したんですけど、あれも最初は役者さんが演技しているところをビデオに録画して、そこから静止画を切り出す形でやればいいと思っていたんです。

 ところがビデオの静止画というのはどうしても、「早く再生してよ」みたいな絵になっちゃうんですよ、なぜか。だから実際に役者さんに止まってもらって、マンガみたいにきっちりと型にはめたカットをひとつずつ作っていかないと、どうしても静止画にはならなくて。

 そういう、ジャンルをいちばん最初に作るという仕事って、すごく面白いんですよ。初体験だからこそ味わえることがあるので。
 今回の『テクテクテクテク』もそういうネタだらけですね。

──麻野さんは、中村さんに企画書を見せてプロジェクトに誘ったときに、中村さん本人も一緒に開発に参加してもらうつもりでしたか?

麻野氏:
 そのつもりでした。最近の人から見ると、中村光一はプロデューサーとして一歩引いているというイメージかもしれませんけど、僕と一緒にやっていた頃は、『弟切草』も『トルネコ』も『シレン』も、ホワイトボードの前でお互いに書き合いながら進めていましたから。もう一度それをやりたいと思って、中村さんに声をかけたので。だからお金だけ出してもらうとか、そういうことはまったく考えていなかったですよ。

 中村光一という人は、操作性オタクであり、ユーザーフレンドリーオタクであり、ゲームの裾野を広げるオタクだと、僕は思っているので。その職人としてのマイスターぶりがスゴいんですよ。

 僕はそのへん、面倒くさがり屋なので。8割ぐらいできたら、もういいかと思っちゃうんです。
 でも中村さんは、それを120%にするので。案の定今回も、無茶振りをやってくれて助かりました。

中村氏:
 これでもけっこう抑えたんだけどね(笑)。

麻野氏:
 わかってます(笑)。

 でも最終的には、中村さんがさっき自分で言っていたように、今回のスタッフのなかでは中村さんが、いちばん僕に近い原理主義者になってしまったので(笑)。

 最初はそうじゃなかったんですよ。「もうちょっと裾野を広くしよう」と言っていて。
 たとえばTTPを使って“となりぬり”ができるというのも、中村さんは前からそうしたかったんだけど、僕が原理主義者として反対するだろうからと、気を遣っていたんですよ。

 ふたりでたまたまお酒を飲みながら話したときに、「現地に行かなくても塗れるようにしようか」と僕が言ったら、「やっぱりそれしかないよね。いいよね、麻野さん?」って。
 そうしたほうがいろんな人に間口が広がるからと。

──それが今は、奥多摩湖まで自動車で行っちゃう人になったんですね(笑)。

■位置ゲーなのに移動しなくても遊べる、すべてを受け入れるゲームになっている

──麻野さんから見た、中村さんの無茶振りのエピソードというのは、どういったものでしょうか?

麻野氏:
 これは無茶振りともまた違うんですけど。今回、47都道府県にモンスターが出るんですけど。そのときは実際の名所、たとえば東尋坊であるとか東京都庁であるとか、そういう実景の写真を背景にして出すことになったんですよ。

 はじめはネットのフリー素材とか、あるいはお金を払って写真の権利を買って使おうと思っていたんですけど、中村さんはどうも気に入らなかったらしくて。ある日突然、「全部撮ってくる」と言い出して、カメラを担いで日本中を飛び回りはじめたんです(笑)。
 でもそれって開発の末期も末期、完成の1カ月前ですよ。田村君なんか「こんな大事なときに、プロデューサーが現場を離れているのはどういうことですか!?」と怒ってましたから(笑)。

 結局、47都道府県のうち、40カ所ぐらいは行ったんでしたっけ?

中村氏:
 8割ぐらいですね。

 夜中に東京を出発して、午前2時とか3時ぐらいに福島県の磐梯山の裏のほうにある五色沼に到着して。怖いなぁと思いながらそこで写真を撮って。
 それから高速道路で新潟まで行き、新潟で写真を撮って。さらにその次は群馬に行って、高崎観音を撮って。そこから、翌日の松本城撮影に備えてさらに長野まで車を飛ばしていくという(笑)。

──それは何人かのスタッフで出かけたのですか?

中村氏:
 ひとりですよ(笑)。これはひとりじゃないと、相手に気を遣ったり、トイレ休憩を挟んだりして、今言ったみたいな殺人的な移動ができないんですよ。

 なぜそんなことをするかというと、観光地を撮影するので、普通の時間になると観光客の人がいっぱい来ちゃうんです。人がぞろぞろ写っている写真は、ゲームの素材としては適切じゃないので。
 だから朝一番に誰よりも先に行って、後ろから人が来るまでのほんの5分ぐらいの間に、パシャパシャ写真を撮らなきゃいけないという(笑)。

麻野氏:
 おかげですごくいい写真を撮ってもらったので、それは感謝しています。

中村氏:
 本当に朝、仙台の青葉城からスタートして、中尊寺に行って、最後は弘前城。これはけっこう車で飛ばしたんですけど、すごい距離でキツかったですよ。帰りはさすがに新幹線で帰らせてもらいましたけど。

──それにしても、すごく遊びの幅があるゲームですよね。位置ゲーなのに電車や自動車に乗っていても遊べますし、その場所に直接行かなくても塗ることができますし。

麻野氏:
 人によって、遊び方がぜんぜん違うんですよ。バトルばっかりをずっとやっていて、塗るのは本当に“となりぬり”だけで、現地塗りはしないという人もいますね。それはそれで面白いと言ってくれるので。

中村氏:
 あらゆる攻略において移動がメインとはいえ、移動ができない状況とかそういったことも、全部受け入れるように作ってあるので。結果として、すごくいろんな攻略法をできるようになっているんです。本当に自分の生活スタイルに合った攻略の仕方ができるんですね。

 ゲームバランスの調整にしても、たとえば僕のやった方法で「このアイテムが強すぎてダメだ」という話をしても、別の人のやり方だと「そんなアイテムよりもこうやるほうがいい」と言われたりして。
 攻略法がみんなあまりにも違いすぎて、バランスの比べっこにならないというか。そういう意味で、結果として全部を受け入れるゲームになっているというのが、僕は面白いなと思っています。

──バトルに関しても、シンプルにスラッシュで攻撃するだけかと思いきや、敵の攻撃をガードできるのが、いいアクセントになっていますよね。

中村氏:
 あのガードは向こうの攻撃をまさに盾で受ける感じですよね。敵の動作が、わざとタイミングをずらすように考えられているので、なかなかピタッとは来ないんですけど。

──あのあたりのモーションを見切る感じとか、ところどころゲーム的な駆け引きの要素をちゃんと差し込んできているのが、イイですよね。

中村氏:
 スターファクトリーという会社にアプリの開発をお願いしたんですけど、優秀な方が揃っているので、何も言わなくてもどんどんできあがっていくんですよ。

 モンスターなんて、長谷川薫君の描いたイラストは各キャラ1枚しかないんですけど、あとはすべて開発の現場が、自分たちで三面図や動き方を想像して作ってくれましたから。

麻野氏:
 僕はディレクターと名乗ってはいますけど、どちらかというとグランドコンセプトのほうに近いので、バトルなどで実際に人を采配している現場のディレクターは別にいますね。

──今回のお話を聞いて思ったのですが、これまでのゲームというかエンタメというのは、現実とは別の世界に行って遊びます、というものだったじゃないですか。ある意味、逃避というか。
 『テクテクテクテク』の場合はどちらかというと、まず現実の面白さがあって、そこにプラスアルファで面白さがさらに追加されているという、そういうものだと思うんです。
 それはゲームの間口を広げたり、より多くの人に遊んでもらうといったことを考えたときに、すごくイイものなんじゃないかなと。

中村氏:
 この開発をやっている間、麻野さんと一緒によく飲みながら話していたのが、「ある一定の年齢以上にならないと、地図に興味を持たないよね」ということで。地図を眺めてみたり、道路の脇に建っている石碑に興味を持ったりするのは、やっぱりそれなりに年齢を重ねた人が多いだろうと。そういう意味では自分も、もういい歳なので(笑)。

 今は良い時代だと思うのが、地図を見たり、実際に歩いたりして疑問に思ったことを、ネットですぐ調べられるんですよね。なんでこんな地名がついているんだろう? とか、これってなぜここにあるんだろう? とか思ったりしても、その由来をすぐ調べることができるので。

 本物の地図で遊ぶゲームを作っているからこそ、結果としていろんな興味が湧いてきて。最近になって発見したんですけど、皇居ってじつはすごく広いんですよ。
 銀座と丸の内を全部足しても、まだ皇居のほうが広いんですよ。そんなことに興味が湧いたりとか、本当に地図ゲーを作ったおかげで面白い体験がいっぱいできますよ。

──麻野さんと中村さんが、これまで『弟切草』などでやってこられた、コンピューターを使った新しい面白さへの取り組みに、この『テクテクテクテク』でまた新しい形で向き合われたというのが、すごく興味深かったです。

中村氏:
  みなさんもこのゲームを遊ぶことで、初めて体験できるものが絶対にあるはずなので。実際に僕はたくさんありましたから。

 僕としてはぜひ、新幹線で予約しながら塗るというのを体験してもらいたいですね。これはもうね、人類が初めて経験するぐらいのエンターテインメントなんですよ(笑)。

 「なんで位置ゲーを11月にリリースするんだ、寒いじゃないか」と言われたんですけど、でもそうじゃないんです。年末年始の帰省で新幹線に乗ったり、高速道路を自動車で走ったりしながら塗れるんです。

麻野氏:
 僕は新幹線だと速すぎると思うけど。山手線とか京葉線、あるいは阪神・阪急ぐらいがちょうどいいと思う。

中村氏:
 新幹線だと名古屋から東京駅まで、ぜんぜん気を抜けないからね。たまにトンネルに入って、GPSの電波が届かないときはやきもきしたり(笑)。

麻野氏:
 止まっている間にちょっと別のことをしたりしながら、各駅停車で行くのがいいですよ。あんまり速いと忙しすぎるので(笑)。

──本日はありがとうございました。(了)

 『テクテクテクテク』の中核となっている“歩いて地図を塗りつぶす”遊びは、麻野氏個人の趣味から生まれたものである。そのアイデアに共感した中村氏が、自分自身も現実世界そのものをRPGのフィールドとして遊ぶことに魅了されていったのは、今回のインタビューで語られたとおりだ。

 だが、たとえアイデアそのものに普遍的な面白さがあったとしても、その面白さを誰もが実感できるものにするには、なんらかの工夫が必要となる。その工夫こそが、ゲームクリエイターの腕の見せどころであろう。

 その点において、サウンドノベルシリーズでテキストアドベンチャーゲームを、そして『トルネコ』や『シレン』でローグライクゲームを誰もが楽しめる作品にしてきた中村氏こそ、麻野氏のアイデアを具現化するのにふさわしい人物であったというのが、このインタビューでよくわかる。

 そしてなにより中村氏と麻野氏が、『テクテクテクテク』を生み出す過程において、かつてサウンドノベルを生み出したときのような“新ジャンル”を開拓する喜びを感じていたことが、我々ゲームファンにとっても嬉しいことだと思うのだ。

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最終更新:2018/12/29(土) 11:30
電ファミニコゲーマー

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