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<盗撮の闇(3)>奪われた日常

2018/12/30(日) 16:18配信

佐賀新聞

 大阪府の30代女性は10代の頃、入浴施設で盗撮された。その映像がDVDにされ、数千枚単位で出回った。夫の知人が気付き、夫伝いに被害を知ったのは販売から3年後。「男の人に見られている気がする」。外に出られず、仕事も育児もままならなくなった。自ら手首を切り、7針縫った。

 「盗撮は人権を侵害する重大な性犯罪。一度映像が流出すると、回収したくてもできない」。盗撮被害の相談を受けている全国盗撮犯罪防止ネットワーク(事務局・和歌山県)の平松直哉代表は被害の深刻さを指摘する。ただ、被害者が映像流出に気付くケースはまれという。

▽潜在化

 平松氏が指す「被害の潜在化」の構造はこうだ。盗撮されても身体への接触はなく、被害を自覚することが難しい。また、盗撮された映像が出回っても女性側に見る機会がない。男性が映像の中に知人女性を見つけても、盗撮ビデオを見ている引け目から知らせるのをためらう-。

 盗撮映像流出の被害者はどれほどいるのか。十数年前に平松氏がまとめた調査結果によると、「約260本のビデオで、推定2千人以上」。和歌山県とその近郊の入浴施設で撮られたビデオだけでこの数だ。性の商業的搾取の問題に詳しい中里見博・大阪電気通信大教授は「映像の需要は高く、新しいものが年間数十から数百本出回っていれば、被害者は毎年数百から数千人に及ぶ」と推定する。

 一方、流出の有無に関わらず、盗撮されたことを知った女性が被害に苦しみ続ける状況も分かってきた。

▽トラウマに

 犯罪被害者心理に詳しい齋藤梓・目白大心理カウンセリング学科専任講師は「盗撮被害に関する研究は著しく少ない」と前置きした上で、「被害者には『映像が流出するかもしれない』という特有の恐怖が付きまとう。ケースによってトイレや自宅など安全と思っていた場所が安全でなくなり、おびえながら生きていくことになる」と説明する。

 佐賀県内で盗撮行為を繰り返したとして今年、建造物侵入などの罪に問われた男(44)の裁判では、被害者の悲痛な証言が読み上げられた。「和式トイレが使用できないほどのトラウマ」「コンビニのトイレでも、カメラがないかびくびくしてしまう」。男は自動車学校の指導員の立場を悪用、教習中の女性に公衆トイレに立ち寄らせ、使用中の姿を盗撮していた。

 子ども向けの習い事教室が開かれていた県中部の寺では、住職の男(67)がトイレの個室にカメラを設置していたことが分かった。発覚する今春まで小中学生が通っていた。

 「子どもが使うトイレに付けるなんて、むかつく」。教室に通っていた女児(11)の言葉には、信頼していた大人への言い尽くせない憤りがにじむ。事件後、母親は娘の変化に気付いた。「男の人は汚い」と度々話し、外出先のトイレを使わなくなっていた。

最終更新:2018/12/31(月) 16:36
佐賀新聞

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