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ドイツの景気減速 米中貿易戦争の影響じわり

1/4(金) 17:02配信

ニュースソクラ

【経済着眼】次期首相が背負う「双子の黒字」問題

 EUは激動の1年であった。欧州では、英国のEU離脱を巡る交渉難航で合意なき離脱に至るのではないか、場合によっては保守党強硬派の造反でメイ首相が退陣を迫られるのではないか、にいまでも関心が集まっている。さらにはイタリアのポピュリスト連立政権による財政バラマキ政策に対するEUの猛反発で初の財政是正措置の導入に至るのではないか、との緊張も高まっている。

 しかし、こうしたドラマチックな活劇が進んでいる間に、深く潜航して心配される事態が進んでいる。すなわち、ドイツの景気スローダウンの恐れだ。ドイツは欧州の経済力の1/3を占める。そのドイツの7~9月の実質GDPが前期比0.2%のマイナスと2015年以来のマイナス成長となった。とくに7~9月の輸出が前年比―0.9%と大幅に落ち込んだ影響が大きい。ちなみに4~6月は+0.4%の実質成長であった。折から12月13日のECB理事会で量的緩和の終結を正式決定するという時期を控えて、ドイツ経済の陰りはいかにも間が悪い。

 こうした状況の下で、景況感を示すIFO指数も11月に102.0と9月(103.8)、10月(102.9)に続き3か月連続の低下となった。特に製造業の指数は17.6と1年前の33.9からほぼ半減しており、輸出を中心とした先行きの受注環境の厳しさを訴えている。ドイツの有力民間シンクタンクでは2017年の実質成長率を2.2%から18年1.6%、19年1.5%とスローダウンする予測を出している。政府の経済指南役である五賢人の予測でも18年の実質成長率を2.3%から1.8%へと0.5%引き下げている。

 この背景としては、第一に中国の景気減速やトランプ大統領による「米国第一」の政策による貿易摩擦の影響に伴う輸出の減少が挙げられている。ドイツは2017年の経常収支の黒字が 2,626億ドル億ドル、GDP比約8%に達する中国をも上回る黒字国である。例えばフォルクスワーゲン社は年間販売台数約1千万台のうち約4百万台を中国で売っている。従って、今後、さらに米中貿易戦争が高まっていけば、中国向け輸出の減少がもたらす悪影響は深刻となる。

 二番目はドイツ自動車業界固有の問題ともいえるディーゼル車の排ガス規制強化への対応の遅れがあげられる。これは2015年のフォルクスワーゲン(VW)の検査偽装問題を機にCO2排出量規制(いわゆるWLTP-世界統一排出ガス・燃費試験規則)が厳しくなり、新試験法に基づく認証の取得に手間取っているためだ。このため、生産・販売が減少しており、VWでは今年は20万台程度の生産減を余儀なくされるとみられている。いずれ、新試験法に適合する体制になれば、この影響はなくなる一時的な問題とは受けとめられている。しかし、中長期的にもディーゼル車はパリ、マドリッド、アテネなどでは25年までの乗り入れ制限措置を打ち出しているほか、ディーゼル車を政策的に保護してきたドイツ国内でも裁判所が市中走行禁止を認める判決を出すなど、ディーゼル車を取り巻く環境には厳しいものがある

 自動車業界を中心とするドイツの産業界では景気がスローダウンする中でECBが12月末で量的緩和を終了すること、ならびに来年秋口にも金利引き上げに踏み切りそうな情勢に焦燥感を強めている。しかし、6月14日の理事会で打ち出した量的緩和の年内終了を見直すことは考えにくい。ただドイツの影響で欧州経済全体のスローダウンが強まり、ドラギ総裁が19年10月の退任前に利上げを打ち出せない恐れが出てきたことは否めない。

 ドイツ経済は、トランプ米大統領が激しく批判する大幅な対外黒字の是正、自動車業界におけるディーゼルエンジン車からEV車への切り替え、ドイツ銀行を筆頭とする金融機関の不採算問題、など大きな課題を抱えている。いずれも景気拡大が続かなければ対処が難しい問題ばかりである。幸いにして建設業やサービス部門の業績は好調を持続している。米中貿易戦争の終息と中国経済の回復など外部環境の好転があれば、短期的かつ循環的には景気が持ち直すこともありえよう。

 ドイツ経済にとっての構造的な問題は経常黒字と財政黒字という「双子の黒字」に直面していることだ。トランプ大統領のみならず、IMFなどの国際機関もインフラ投資や減税を通じる財政支出の拡大で国内需要を刺激して経常黒字を削減する政策への転換を訴えている。また、10月の小売売上高が前期比―0.3%と4か月連続の減少となったように、輸出主導で企業業績が向上を続ける一方で、個人の所得は伸び悩み、個人消費が停滞している。元を正せば、ドイツ企業は東欧諸国の市場経済移行で低廉な労働コストで製造できるようになったことやハルツ改革と呼ばれる労働市場の弾力化で、さしもの高賃金で知られた労働者の賃金も抑制されてきたためだ。

 その反面でドイツの国際競争力は労働コストの安定とユーロ安とが相まって大きく向上したのが大幅な経常黒字につながっている。この経済バランスを適正化すべきというトランプ大統領や国際機関の主張はある意味で正しく、党首を譲るメルケル首相の後任にとって大きな課題となろう。

俵 一郎 (国際金融専門家)

最終更新:1/4(金) 17:02
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