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混迷する徴用工・慰安婦問題 日韓双方の主張を整理する

1/7(月) 10:30配信

THE PAGE

 徴用工と慰安婦の問題をめぐり日韓関係が再び冷え込んでいます。徴用工問題では、昨年10月末以降、韓国大法院が相次いで日本の企業に対して賠償を命じる判決を下し、慰安婦問題では、2015年の「日韓合意」を踏まえて設立された財団を韓国側が解散しました。解決の糸口が見えにくくなっている中、あらためてこの2つの問題での日韓双方の主張を整理し、日本が今後取るべき道を考えます。元外交官で平和外交研究所代表の美根慶樹氏の解説です。

◎徴用工問題

《現状》
 今年10月30日、韓国大法院(最高裁判所)は新日鉄住金に対し、戦時中、日本の統治下にあった朝鮮半島から「徴用」され、同社の工場で労働させられた韓国人4人に損害賠償として1人あたり1億ウォン(約1千万円)を支払うよう命じた下級審判決を支持し、同判決は確定しました。

 朝鮮人徴用工とは、1944年8月に「国民徴用令」が朝鮮人にも適用されることとなり、それ以来終戦までの間、日本政府に徴用された人たちのことで、実際には日本の民間企業で労働に従事しました。その数については、わが外務省の資料に、「1959年時点での在日朝鮮人の総数は約61万で、外国人登録票について調査した結果、戦時中に徴用労務者としてきたものは245人であった」とのみ記されていました。しかし、同令によるもの以外にも日本に来て労働に従事した人たちは多数いたので、「徴用工」全体でどのくらいの人数になるか判明していません。研究対象になっているくらいです。

 ともかく、韓国では「徴用工」から訴訟が複数提起されています。その中で、韓国大法院の判決があったのは前述の新日鉄住金に対するもので、その後、11月末に三菱重工業に対しても同様の判決が出ました。その他の案件は現在審理中です。

《日本と韓国それぞれの主張》
 日本側の主張は「日韓両国政府は1965年、基本条約を締結して外交関係を結び、同時に請求権・経済協力協定(以下、「請求権協定」)で財産・請求権の問題を「完全かつ最終的に」解決したので徴用工の問題も解決している」というものです。

 韓国政府もこの条約解釈を正面切って否定しているわけではありませんが、慰安婦問題など人道問題は別であり、日本政府に法的な補償を求める当事者たちの要求を支持しています。

 一方、「徴用工」問題をめぐって、韓国政府は、盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領時代の2005年、請求権協定には「徴用工」問題も含まれ、賠償を含めた責任は韓国政府が持つべきだとの政府見解をまとめた経緯があります。つまりその時点では日本政府と同じ解釈だったのです。

 しかし、韓国では2012年に大法院が、「請求権協定で放棄されたのは外交保護権であり、個人請求権は存続している」という判断を示し、そのころから韓国政府はそれまでの立場とは異なる姿勢を見せ始めました。

 そして、文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、2017年8月15日の植民地解放記念式典から2日後の記者会見で、この大法院判断に触れつつ「徴用工」問題を「慰安婦」問題と並べて取り上げ、「日本の指導者の勇気ある姿勢が必要」だと訴えました。これは、それまで日韓両政府で一致していた条約の解釈から離れ、日本側に「徴用工」の要求に応じた政治的解決を求める趣旨の発言でした。

 韓国の司法府が下す判断について韓国政府が直接批判できないのは日本と同様でしょうが、韓国政府としての見解を示すべきでした。しかし、実際には、逆に期待感を大きくさせてしまったのです。日本政府はそのような姿勢の韓国政府に強く不満であり、条約と国家間の信義に沿った対応をするよう求めていますが、残念ながら、「徴用工」問題のため、日韓関係は現在深刻な状況に陥っています。

 そんな中、韓国人およそ1100人が、12月20日、日本企業ではなく、韓国政府を相手取って、1人あたり日本円でおよそ1000万円、総額110億円を支払うよう求めソウル中央地裁に提訴しました。理由は、第2次大戦中に日本企業で強制労働をさせられたことであり、まさに「徴用工」の問題です。

 しかも彼らは、韓国政府が請求権協定を結ぶ際に日本から受け取った経済協力金(日本政府から無償3億ドル、有償2億ドル。及び民間融資3億ドル)から補償するべきだと主張しています。この主張は日本政府の考えと矛盾はありません。

 韓国は日本から受け取った資金を活用して経済発展してきたと言われています。韓国政府が「徴用工」に対して取った措置は不明ですが、ここへきて訴訟が提起されたことから推測すれば、十分な補償は行われなかったものと思われます。

 ともかく、新しい訴訟においてどのような判決が下され、韓国政府がどのように対応するかが注目されます。

 一方、新日鉄住金に対する訴訟で勝訴した原告の支持団体は韓国内にある同社の資産を差し押さえる申請を裁判所に行いました。この団体は新日鉄住金と協議して解決する道をあきらめたわけではないとしているそうですが、差し押さえのような強硬手段は事態のさらなる悪化を招きます。

 また、この差し押さえと韓国政府に対して新たに提起された訴訟との関連も不透明です。韓国政府は現在関係省庁間で対策を協議しているといいますが、なんとしてでも事態を鎮静化してもらわなければなりません。

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最終更新:2/26(火) 16:21
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