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ただの着陸ではない ── 中国の「月の裏側」探査が世界を震撼させたワケ

1/11(金) 20:12配信

BUSINESS INSIDER JAPAN

中国の無人探査機「嫦娥4号(じょうが4号)」は世界で初めて、月の裏側に着陸した。
着陸船と探査車は月の地質の調査、氷の探索、放射線の調査、さらにはカイコの生育実験などを行う。
「嫦娥4号」のミッションは月のサンプルを持ち帰ることだけではない。月面への有人飛行、さらに恒久的な月面基地の建設さえも見据えている。
また今回の月ミッションは、科学、テクノロジー、エンジニアリング、数学などにおけるアメリカの優位性が揺るぎつつあることをも示している。

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地球から月への数週間の飛行の後、中国は無人探査機「嫦娥4号(じょうが4号)」を月面に着陸させた。

だが着陸地点はどこでも良かったわけではない。中国は自動車サイズの着陸船と探査車を月の裏側に着陸させた ── 人類が過去、上空からしか観測したことのない未知の場所だ。

中国の偉業には世界中から祝福が寄せられた。宇宙探査に関心を持つ人はもちろん、NASAの高官からも。

嫦娥4号は、月の成り立ちの謎を解明する手がかりを探り、地球から数十光年離れた場所から届く電波をスキャンし、氷が堆積している場所を探す。

「アメリカの宇宙計画は常に世界をリードしてきた。中国による月面着陸は紛れもなく科学的な成果」と引退したNASAの宇宙飛行士マーク・ケリー(Mark Kelly)氏は1月4日(現地時間)、ツイートした。

さらに同氏は中国のミッションは「政治のレベルを超えて、宇宙開発を進める必要があることを思い出させてもくれた」と付け加えた。

また「世界は我々を置いてけぼりにしている」と述べた ── 「我々」とはアメリカのことだ。

ケリー氏は極めて愛国的な宇宙飛行士として知られ、宇宙開発について熱心に発言している。また中国は宇宙探査において世界中を打ち負かす存在になると考えているのは同氏だけではない。

「ただの着陸ではない」とオーストラリアの宇宙飛行士アラン・ダフィ(Alan Duffy)氏は着陸の後、ワシントン・ポストに語った。

なぜ中国は無人探査機を月の裏側に着陸させたのか、ショッキングなことではないと言う人がいるものの、なぜアメリカをはじめとする世界を震撼させたのか、嫦娥4号のミッションを見てみよう。

打ち上げは12月8日(現地時間)早朝。月の裏側への着陸を目指す人類初のミッション。

過去、月探査衛星やNASAの宇宙飛行士が月の裏側を撮影した。だが探査機の月の裏側への着陸は人類初。

「嫦娥」は中国の神話に登場する人物の名前、「4号」はおよそ10年にわたって続くミッションの一部であることを示している。嫦娥3号は2013年12月、月面探査車「玉兎号」を月面に送り込んだ。

嫦娥4号と月面探査車はもともと嫦娥3号の予備機だった。中国は月の裏側への危険なミッションに使うことにした。
だがまず、問題を解決する必要があった。月は地球からの電波をブロックする。例えば1968年、アポロ8号の宇宙飛行士が初めて月の周りを飛行した時には、短時間(そして予想通り)地球との通信が途絶えた。

中国は問題を解決するために2018年5月、「鵲橋(じゃっきょう)」と名付けられた衛星を打ち上げた。月の裏側が「見える」位置にあり、地球と月の裏側の通信を中継する。

数週間にわたる飛行の後、嫦娥4号は月の裏側に静かに着陸、「玉兎2号」を月面に送り出した。

中国はミッションの状況について詳細を明らかにしていない。だがNASAの科学者は嫦娥4号の着陸地点を特定した。研究者は位置を特定するために中国の国営メディアが提供した画像を使用した。

着陸地点は幅111マイル(約180キロメートル)のフォン・カルマン・クレーターの内側。

クレーターは、幅1550マイル(約2500キロメートル)の南極エイトケン盆地の一部。盆地は39億年前の天体の衝突で作られた。この衝突によって月の地下の深い部分の地層が表面に飛び散った可能性がある。

玉兎2号の活動期間は3カ月。月の裏側を移動する間、画像を記録する。地中レーダー、岩石分析用分光器、氷を調査するための機器を搭載している。

一方、着陸船はカメラで周囲の様子を記録し、いくつかの実験を行う。

の夜(地球の時間で14日間続く)の到来とともに、着陸船は電波で月の夜空をスキャンする。これは人類にとって、最も鮮明な電波天文観測となるだろう(月が地球と太陽からの放出されるノイズをブロックするためだ)。

月の裏側の探査データは月の成立の謎を解き明かす手がかりとなる。

また着陸船は7インチのアルミ製容器を備え、じゃがいもの種、アブラナの種、カイコの卵を収めている。生態系の実験用だ。

嫦娥4号の着陸成功は素晴らしい偉業。NASAは1972年11月以来、月面へのいかなる着陸ミッションも行っていない。最後の月面着陸はアポロ17号。

NASAは月面で実験を行うために民間企業と協力している。実験はおそらく今年、行われる。またNASAは2020年代後半に宇宙飛行士を月に送るために、スペース・ローンチ・システム(Space Launch System)と呼ばれる巨大ロケットを開発中。だが開発は遅れている。

もちろん中国も黙っていない。嫦娥4号はチャレンジの第一段階、月のサンプルを持って帰るだけではない。おそらく2019年、中国は月への有人飛行を行う。

中国は独自の宇宙計画を持つアメリカ、ヨーロッパ、ロシアに追いつきつつある。これまでに11人の中国人宇宙飛行士を地球軌道に送り込んだ。

中国は今、New Generation Manned Spacecraft(新世代有人宇宙船)と名付けた宇宙船を開発中。4~6人を一度に軌道に送り込むことができる。また新しい宇宙ステーションも開発している。

嫦娥計画の最終的なゴールは、有人の月面基地を構築すること。「月から届く次の音声は中国語になる確率が高い」とアメリカ海軍大学で中国の宇宙計画を研究するジョアン・ジョンソン=フリース(Joan Johnson-Freese)氏は2018年12月、CNNに語った。

中国は2030年代前半に月に宇宙飛行士を送り込もうとしている。時期が遅れることはあっても、その可能性は高い。加えて、宇宙開発におけるアメリカの成果に対抗し、月の極に大量の氷を発見するかもしれない。

氷は人やロボットによって掘り出され、水素と酸素に分離される。水素と酸素は、ロケットの燃料と酸化剤となる。

月で採掘された燃料は、太陽系のさらに遠くの場所の探査に使われる。地球から打ち上げるより、月から打ち上げる方がエネルギーを何倍も節約できる。

中国は惑星滞在シミュレーション「Lunar Palace program」で人が月面で暮らす方法を研究している。シミュレーションでは、数人の学生を閉鎖環境に数百日間滞在させ、状況をチェックする。

NASAはこうした実験を行っておらず、その計画もない。一方、中国はSTEM(サイエンス、テクノロジー、エンジニアリング、数学)教育においてアメリカを凌駕しつつある。

数十年にわたって、中国は大学でのSTEM教育をアメリカよりも重視してきた。ここ数年では学生数は4倍以上。数多くの優秀な研究者の存在が、中国の月ミッションを支えている。

アメリカのSTEM教育の遅れの一因は教育費の高騰にもある。また多くのアメリカ人は、政府が教育に充分な予算を割いていないと考えている。

結果として、アメリカと中国の間の格差 ── つまり中国の優位は大きくなった。宇宙探査のみならず、他の産業やプロジェクトでも。

中国は科学研究、テクノロジー製品における巨大勢力となった。

アメリカの、エネルギー分野への投資が小さくなり、進歩が滞っていた間に、中国は専門家集団を急激に増やし、習熟させて、次世代核融合炉の開発を進めた。

中国は、物理学者が「深宇宙」と呼ぶ空間に世界初の量子衛星も打ち上げている。安全性が極めて高く、極めて高速な量子インターネット通信の開発を目指している。

さらに成績優秀な学生を軍のAI開発に充てている。

中国の「月の裏側」への着陸は、評価や捉え方が難しいだろう。だが中国のサイエンス、テクノロジー、教育、そして経済での地位を高めた。 スコットケリー氏が警告したように、もうすぐアメリカを追い抜かすかもしれない。

[原文:'This is more than just a landing': Why China's mission on the far side of the moon should be a wake-up call for the world]
(翻訳、編集:増田隆幸)

最終更新:1/11(金) 20:12
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