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『宇宙の覇者 ベゾスvsマスク』地球レベルの悲観と、事業レベルの楽観と

1/11(金) 10:00配信

HONZ

イノベーションが加速する条件とは何か?  先端テクノロジーの開花か、組織の多様性か、それともポテンシャルのある市場環境か。様々な要素が考えられるが、最も重要なのは人間離れした男たちの、人間らしい競争意識ではないかーーそんなことを痛感させられる。

本書は宇宙ビジネスの最前線を描いた一冊である。数多ある類書と一線を画すのは、イーロン・マスクとジェフ・ベゾスーーこの二人にフォーカスを絞っている点だ。二人の胸のうちに肉薄し、対抗意識を物語の構造に織り込んだ。論争、訴訟、そして心理戦による駆け引き。なにより二人のアプローチが対照的なのである。

宇宙への挑戦は、革新と停滞の物語でもある。全世界を熱狂させたアポロ11号の月面着陸から約半世紀。その間、ロケット技術の進歩はほとんどなかったといっても過言ではない。21世紀初頭にロシアと米国で打ち上げられたロケットは、アポロ時代のものと大差なかったという。それだけではない。少し前までの宇宙ビジネスには、冷戦時のライバル関係もなければ、資金や政治的意志も存在しなかったのだ。

この状況に業を煮やしたのが、幼少時代に宇宙に熱狂したシリコンバレーの起業家の二人である。二人の着眼点は非常に似通ったものであった。停滞状況に風穴を開けるためには、宇宙飛行のコストを下げ、宇宙へのアクセシビリティを高めるよりほかはないと考えたのである。

イーロン・マスクが最初にチャレンジしたのは、国主導のビジネスモデルを覆すということであった。国家の役割をプラットフォームに徹することに定め、民間企業を参入させる。その競争によって技術が改良され、コストを下げられると考えたからだ。秩序をぶっ壊すことに、これほど適任な人物もいなかったことだろう。

また、コストを下げるためにもう一つ重要なポイントがあった。それはロケットを再利用可能なものするということだ。1回ですべてが使い果たされゴミと化していくのではなく、航空機のような再利用可能なものになれば、自ずとコストも下がっていく。そのための着陸技術を確立させることを巡って、二人は切磋琢磨した。

やがてレベルの違いこそあったものの、二人はほほ同時期に垂直着陸を実現させることになる。2015年11月ジェフ・ベゾス率いるブルー・オリジンが宇宙空間との境界線とされる高度100kmからの垂直着陸に成功すると、イーロン・マスク率いるスペースXは2015年12月にそれを遥かに超える静止軌道からの垂直着陸に成功した。

それにしても、なぜ二人は宇宙を目指すことになったのか?  「そこに宇宙があるから」という探究心だけでなかったことは、注目に値する。

イーロン・マスクは、以下のような不安がすべての出発点だ。

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もし太陽が燃え尽きたら、どうなるのか。小惑星が地球に衝突したら、どうなるのか。
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彼は人類を複数の惑星で生きる種にして、別の惑星に人類をバックアップしておき、地球がクラッシュした場合に備えることを夢想した。

一方ジェフ・ベゾスは、以下のような懸念が原動力である。

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この惑星の資源には限りがある。発展を続ける世界の需要に、地球の資源はもはや追いつけなくなっている。人類にはあと数百年しか時間がない。
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彼の狙いは地球の保全である。重工業を宇宙に移し、地球を居住と軽工業の区域にするという構想を持っていた。

この点にこそ、二人に共通する倒錯感が如実に出ており、興味深い。地球や人類の滅亡を本気で心配できる悲観と、ならば火星を目指そうと思い実現に邁進できる楽観が同居しているのだ。この悲観と楽観をつなぐ跳躍力が、宇宙ビジネスを推進していると言えるだろう。

本書では二人を兎と亀になぞらえ対照的に描いているが、それはシンメトリーな構造体のようなものであり、相違点を論じることで、むしろ類似点が明確になった印象を受ける。

いずれにしても、宇宙は今や目指す場所ではなく、稼ぐ場所になりつつあるということがよく分かる。そしてITの覇者が、そのまま宇宙の覇者にもなるのか。はたまた見知らぬ第三者が、これから登場してくるのか。新しい時代が始まり出す時のワクワク感が、存分に詰まった一冊である。

内藤 順

最終更新:1/12(土) 12:45
HONZ

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