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【尊厳ある介護(65)】認知症治療薬の効果に疑問 高い副作用リスク

1/16(水) 12:09配信

ニュースソクラ

介護など非薬物療法の重要性増す

 フランスでは2018年8月から抗認知症薬ドネペジル(商品名アリセプト)・リバスチグミン(同イクセロン、リバスタッチ)・ガランタミン(同レミニール)・メマンチン(同メマリー)を医療保険の対象から外したそうです。

 理由として、短期の使用で認知機能を軽度に改善することを示すデーターはある一方、長期の有用性を示す証拠がないこと、重い副作用や他の薬との相互作用があるからです。

 これらのニュースを新聞報道などで知り、私の今までの疑義が晴れました。

 思い返すと1999年にアリセプトが発売された当初、私の周りにいる物忘れする高齢者の多くにこの薬が処方されていました。

 その後発売されたリバスチグミン(商品名イクセロン、リバスタッチ)・ガランタミン(同レミニール)・メマンチン(同メマリー)に、私たちは根治薬として期待を膨らませましたが、失望に終わりました。

 私がどうしてこれらの薬に疑義を抱いたかと言うと、介護の現場で多くの利用者と接した個人的体験から、エィビデンス(根拠)を持って効果を説明できる人があまりいなかったのです。

もちろん、全ての認知症の人に有効性を感じなかったわけではありません。

 横井久江さん(仮名85歳)は夫に先立たれ、アルツハイマー型認知症になりました。身の周りのことは自立しており、その場での会話も成り立ちます。けれとも、「親戚や近所の人が私の家に来ては大切な物を盗って帰る」などと訴えるので、これまで親しくしていた人達は横井さんの元から去りました。それで、一人暮らしが難しくなって施設に入所したのです。

 入所してからは「物を盗られることがなくなった」と言われ、落ち着いた生活をしていました。

 ところが、ただ一人心を許していた友人が施設に来た時、「どうして私の上着を盗ったの」と、強い口調で責めたのです。

 その友人は横井さんを心配してこまめに訪問してくれていましたが、体調をくずし久々の面会でした。

 友人は「横井さんが物を盗られたと言うことは何度も聞いていたけど、まさか私が対象になるなんて」と、ショックを隠せませんでした。ましてや、その盗られたと言う上着は友人がプレゼントした物だったそうです。

 それから、友人の訪問は減りました。その頃から横井さんは部屋に閉じこもり、ほんやりとしている時間が多くなりました。声をかけても会話はかみ合いません。そこで、看護師は医師に相談したところ、アリセプトが増量されました。

 その結果、以前のように会話ができるようになっただけでなく、共用スペースで他の利用者と過ごすことが多くなったのです。

 それは良かったのですが、今度は他の利用者の些細な言動に腹を立てイライラするようになりました。

 スタッフは気長に様子を見ていたのですが治まらないので、再度医師に状態の変化を報告しました。すると、元のアリセプトの量が減り一時的ですがイライラは軽減しました。

 アリセプトの副作用として興奮しやすくなったり、易怒性や攻撃性といった症状を呈することがあります。

 認知症の人は自分の体調の変化を的確に話すことは難しいので、服薬効果や副作用について側にいる介護者が医師に伝えることが大切です。だから、服薬調整や効果測定が難しいのです。

 フランスは認知症の治療を薬物療法から介護や包括的ケアなどの非薬物療法に転換しました。

 日本では、東京都医学総合研究所などの研究によると85歳以上の17%が抗認知症薬を処方され、まだまだ薬物療法に重点が置かれています。

 そのため、副作用のリスクを考えると、抗認知症薬を処方された後も医師に有効性を細かく評価してもらう必要があります。

 これから日本でも薬物療法を見直す時期がそう遠くない日にやってくるように思います。いよいよ、私たちが介護の質と専門性を問われるのです。

(注)事例は個人が特定されないよう倫理的配慮をしています。この連載は隔週の水曜日掲載です。

■里村 佳子( 社会福祉法人呉ハレルヤ会呉ベタニアホーム統括施設長 )
法政大学大学院イノベーションマネジメント(MBA)卒業、広島国際大学臨床教授、前法政大学大学院客員教授、広島県認知症介護指導者、広島県精神医療審査会委員、呉市介護認定審査会委員。ケアハウス、デイサービス、サービス付高齢者住宅、小規模多機能ホーム、グループホーム、居宅介護事業所などの複数施設の担当理事。2017年10月に東京都杉並区の荻窪で訪問看護ステーション「ユアネーム」を開設。

最終更新:1/16(水) 12:09
ニュースソクラ

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