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トランプ政権のファーウェイ叩きのパラドックス

1/17(木) 16:03配信

ニュースソクラ

かつて中国で排除されていたファーウェイ、必死で海外をめざし技術力をつけた

 米中経済戦争のなかで、トランプ政権から集中砲火を浴び、米国だけでなく日本を含む同盟国の市場から排除されつつある中国の通信機器メーカー、華為技術(ファーウェイ)についてほとんどの報道は先入観に支配され、本質を見誤っている。ファーウェイは中国企業のなかで共産党の支配を巧みに回避してきた民間企業の代表だからだ。

 中国にはもともと大唐電信、巨龍通信、ZTEなど有力な国有の通信機器メーカーがあり、民間企業のファーウェイは政府・共産党からに差別され、排除されてきた。

 実際、筆者が北京に駐在し、中国産業を取材していた1990年代末から2000年代初頭には国策プロジェクトから外され、中国農村部や海外市場に生き残りをかけていた。その後のファーウェイの成功は、国内市場で優遇されなかったゆえに海外市場と研究開発に全力を挙げざるを得なかったことによる。

 ファーウェイについて書かれた本で創業者の任正非氏はじめ幹部や取引先のインタビューに基づいた本に『下一个倒下的会不会是華為(次に倒れるのはファーウェイか)』(邦題「冬は必ずやって来る」東洋経済新報社刊)がある。書名は企業本としては異例の不吉なものであり、並の経営者なら激怒するのは間違いない。

 だが、この書名こそ創業者の任氏が社内で言い続けて来た言葉そのものであり、同社幹部がメディアの取材で目標を問われると「生き残ること」と語るのはそのためだ。中国共産党に優遇されてきた国有企業なら絶対に出てくる言葉ではない。

 トランプ政権がファーウェイを攻撃する理由は単純だ。ファーウェイがスマホ用CPUなど半導体の設計や5Gの通信規格開発からスマホ、サーバー、携帯基地局設備というIT製品の製造、スマートシティや空港、鉄道、電力などの社会インフラの構築まで研究開発からハード製造、システム構築、インフラの施工までオールインワンでできる企業だからだ。

 米国にはもはやこれほどの総合力を持つメーカーはなく、何より競争力を持つ米IT企業はモノづくりを中国やアジアに深く依存しているという脆弱性がある。

 一方、今回のファーウェイ事件で見落とされているのは習近平政権による中国の民間企業への圧迫、圧力だ。中国には国家電網や中国石油化工、中国移動通信、中国工商銀行など巨大な国有企業が多数あり、グローバル企業ランキングでは上位に並ぶが、その大半は売り上げのほぼすべてが国内市場である。

 グローバルに活躍し、中国産業の台頭を世界に印象づけているファーウェイ、テンセント、アリババなどは純民間企業であり、なかでもファーウェイは100%社内株主の未公開企業である。習政権にとって悩ましいのは活躍する企業ほど共産党の支配が効かない企業という点である。

 今回の事件で中国政府・共産党は全力を挙げてファーウェイ擁護に乗り出しているが、それはこの機に乗じてファーウェイなど成功した民間企業への影響力を高めようとしているだけだ。国有企業優先の習政権にとって米国のファーウェイ叩きは民間企業支配の千載一遇のチャンスなのである。

 アリババの創業者、馬雲氏が引退を表明させられ、テンセントが主力事業であるゲームに青少年保護を理由に販売規制をかけられたのも同じベクトルの動きといえる。

 ファーウェイを中国共産党の手先の企業とみたり、任氏が共産党最高首脳と昵懇などと考えていては、ファーウェイをめぐる米中両政権の目的はみえない。

 トランプ政権は米IT産業を守るためにライバルのファーウェイをバッシングしたいだろうが、ファーウェイ叩きを強めれば強めるほど、共産党から距離を保ち、中国のネット空間の自由確保に陰で貢献してきた中国のIT分野の民間企業の独立性を毀損するという逆説に陥る。ファーウェイ問題を先入観で捉えれば本質を見誤る。

後藤 康浩 (亜細亜大学教授 元日本経済新聞論説委員兼編集委員)

最終更新:1/17(木) 16:03
ニュースソクラ

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