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目指すは「名選手すなわち名指導者」?高校ラグビー部を指導する元トップリーガーたちの戦い

1/23(水) 17:01配信

VICTORY

就任間もない頃、選手に所定の攻め方を授けたつもりが、試合でその通りに動いてもらえず星を落としたことがあった。心身とも成長過程にある10代の選手へ指示行動を課すのは、やや難しいと反省した。そこで今季は、自身がパナソニックで指導を受けたロビー・ディーンズ監督を参考にして「選手が考える環境づくり」を意識したという。

幸運にも3年生の多くは、普及活動の一環で現役時代から接してきた少年たちだった。それぞれの個性を深く把握していた霜村はまず、対話術に長けた新井穂主将とよく喋った。

「生活や練習について、僕の言ったことを彼が選手に伝えるようになって」

攻防の戦術は、自身と選手との議論を経て作り上げた。選手に主体的なチーム作りを体験させることで、初出場した全国大会初戦の日はこう喜んだものだ。

「今朝、いつも通りの感じで選手たち同士ですごくいいミーティングをしていた。何なら、僕の方がナーバスになってたんじゃないかってくらい」

相も「高校ラグビーは人間形成の場」と謳い、選手と重要課題を共有する際は指示よりも問いかけの形を取る。元NECの社員選手で現在は國學院大學栃木高校(國學院栃木)のコーチをする浅野良太も、「とにかく選手に話をさせる」ことを重視するようになったという。霜村も味わった、「伝えたつもりが選手は理解できていなかった」という失敗を防ぐためだ。

「僕が見ている絵と選手が見えている絵が同じかどうか。それを知るにはコミュニケーション、お互いの信頼関係が必要」

赴任5年目で迎えた今回の花園では、シード校の日本航空高等学校石川を倒して16強入り。小柄なフォワード陣が接点で相手を引きはがすさまは、浅野が現役時代に得意だったプレーと重なった。今年度の17歳以下日本代表で監督を担うなど貴重な経験を積む浅野は、自身のコーチングをブラッシュアップし続ける。

「高校生でもこういう(トップリーグのエッセンスを注入する)コーチングをすると変わると、感じてもらいたいです。好きなラグビーをやるからには、幸せな思いをさせたい。それが元トップリーガーのできることです。まずはチャレンジしようというマインドを持っている子の方が、結果的には伸びる。だからコーチングの時は(選手の)人間性を磨かないといけない。(プレーだけでなく)キャラクターも並行して育てていけるのが高校年代の魅力だと思います」

東福岡高校の監督として高校日本一も経験した藤田雄一郎は、元トップ選手の高校指導者への転身について「高校生って、毎日、一緒にいないとだめだと思う」と言及する。

「教えて、評価して、褒めてと、色んなことをしていかないと。トップを経験した選手であれば、どれだけ目線を下げられるか、いかに膝を折り切るかですよ」

話をしたのは、今年の花園で8強進出を決めた2019年1月1日。結果的に準決勝まで勝ち進むが、「いまのチームがベスト8になるなんて思っていなかった」とも続けた。仲間同士の「いざこざ」からの「仲直り」などさまざまな「物語」を経てきたとし、こうまとめる。

「物語。物語ですよ。一度、高校ラグビーの監督をやったら、やめられないですよ」

まるで、すべてのラグビーマンに自らの道を勧めるような口ぶりだった。
 
かつての名選手が、チーム作りや人づくりという「物語」に触れて名指導者になってゆく。そんなエピソードが集まれば集まるほど、ラグビー界は豊かになりそうだ。


◇ ◇ ◇
向風見也
1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年にスポーツライターとなり主にラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「Yahoo! news」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。
著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

向風見也

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最終更新:1/23(水) 17:01
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