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シムシティ課を設立した宮崎県小林市に見る、教育とゲームのいまどきの関係

2/1(金) 12:02配信

ファミ通.com

文・取材・撮影:古屋陽一

 宮崎県小林市が“シムシティ課”の設立を発表したのは昨年(2018年)10月のこと。『シムシティ』といえば、ゲームファンならご存じのことと思われるが、エレクトロニック・アーツがIP(知的財産)を保持する都市建設シミュレーションゲーム。1989年に第1作目がリリースされて以降、世界中で愛されてきた(ふと気づいたのだが、今年30周年を迎えるようだ)。

 市が、シムシティ課を作る……。その字面だけを追いかけると「はて?」と首をかしげたくなるのも無理からぬところだが、その中身をじっくりとじっくりと見ると納得できる。シムシティ課とは、街作りを親しみやすい形で考えてもらおうという趣旨のもとに設立されたバーチャル組織。地方活性化が口にされることが多い昨今だが、数々の取り組みにより理想とする街のありかたと現状の課題などを検証するという、地方創生プロジェクトの一環となる。

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 シムシティ課を構成するのは、小林市の職員と宮崎県立小林秀峰高校の学生さん31名。シムシティ課自体は、秀峰高校の選択授業の学習プログラムに組み込まれており、学生さんたちは約3ヵ月に渡ってワークショップ(体験型講座)を行い、理想とする街作りや小林市のあるべき姿を話しあった。そのときに“教材”として活用されたのが、『シムシティ ビルドイット』。学生さんたちは『シムシティ ビルドイット』で、理想とする街を実際に作りあげ、街作りのおもしろさや課題を確認した。

 まあ、いまの時世『Minecraft』が授業に取り入れられていたりもするので、それほど驚くべきことでもないのかもしれないが、ファミコンで青春を過ごした記者からすると、それでもゲームが高校の授業に組み込まれたり、地方創生のためのツールになるというのは、極めて感慨深いトピックと言える。なにしろ、市役所に課ができてしまうんだもんなあ……。

 さまざまな活動を行ってきたシムシティ課にあって、その集大成的な位置づけとして2018年12月14日に実施されたのが、“シムシティ課タウンミーティング ~市長に発表しよう~”。こちらは、小林秀峰高校の学生さんたちのワークショップの成果を発表すべく設けられた場。当日は、学生さんたちが8班に分かれて検討してきた“小林市の課題”を、宮原義久小林市市長や市議会議員などにプレゼン。参加者の投票によりもっともすぐれた発表を行ったチームを表彰するというものだ。



 プレゼンの前提となるワークショップのことを少し説明しておくと、8班の学生さんたちには、それぞれ“お題”とでもいうべき“新婚夫婦”、“海外在住の外国人”といった異なる人物設定が与えられており、学生さんたちはその“お題”に則った理想とする街を『シムシティ ビルドイット』で作成。その上で、理想の街と比較したときの小林市の持つ課題をピックアップし、その解決策となるアイデアを考えた。各班のプレゼン内容をおおまかに紹介すると以下の通り。なお、当日のプレゼンは(おそらくは)抽選でランダムに行われたようであるが、ここでは便宜上1班から順番に紹介していこう。


【1班】
ターゲット:東京の女子高生
コンセプト:エンタメが発達している小林市

 小林市の課題を“インスタ映えするスポットがない”、“バスの便が悪い”と分析した1班の皆さんは、東京の女子高生が思わず写真を撮りたくなるような場所を作ることを提案。「東京のようなお店を作ることはできないので、自然を生かしたものを作る」との方針で、自然がすばらしい小林市のいちばんのスポットである生駒高原に、小林市の特産品であるなしやメロンをモチーフとしたバス亭を作ったり、大きな額縁を設置するというアイデアをプレゼン。それにより、バスの利用者も増え、生駒高原も来場者で賑わい小林も栄えるという、名付けて“映え 増え、栄え作戦”(全部“ばえ”と読ませます)を提案した。なかなかにキャッチーなプレゼン。



【2班】
ターゲット;小林市に住む新婚夫婦
コンセプト:子育てがしやすい街

 新婚夫婦が子育てをしやすい街を……とのことで、2班では全天候型公園(子育て交流施設)の建設を提案。さすがにいちから建物を作るのはたいへんなので……ということで、2班の皆さんが考えついたのが小林市民体育館の横にある中央公民館のリノベーション。ハード(天井は開け閉めが可能など)、ソフト(ママ友が集まれるカフェなど)、サービス(専用アプリなど)の3方向から説明。「子育て支援につながる」とまとめた。



【3班】
ターゲット:小林市で工場を経営する男性
コンセプト:人が働きやすい小林市

働く人が住みやすい街を……との見地から、小林市の問題点を“働く人の癒やしの場が少ない”、“働く人の福利厚生施設が少ない”と分析した3班が、その解決策として思いついたのが足湯カフェ。それにより、「働く人が癒やされる」とした。そんな3班が今回のワークショップで学んだのは、「働きやすいと感じることは、働いているときではなく、働いていない時間にどれだけ充実した環境が周りにあるか。それが仕事につながる」とのこと。この気付きは皆さんが実際に働き始めるときの足がかりになるのかな。



【4班】
ターゲット:おしゃれな中高年夫婦
コンセプト:ヨーロッパのような自然と気品を兼ね備えた街

 オシャレな中年夫婦のための街を……ということで、4班のみなさんがみつけた小林市の課題は、“中高年の人たちが入りやすいお店がない”、“ゆっくりできるお店がない”ということ。「ただし、ゼロから始めるのはお金と時間がかかる」ということで、解決策として提案したのが、小林市の商店街である赤松通りの空き店舗を活用しての “憩いの空間”の作成。「メンバー全員がヨーロッパと言えばパン屋さん」というイメージがあったとのことで、パン屋さんを提案。フリースペースなどを作ることで、“おしゃれで落ち着いた雰囲気を提供できる場所”を作りたいと説明した。



【5班】
ターゲット:農家をしている人、自然を愛するすべての人々
コンセプト:自然を求めに小林市へ

 水がきれいで空気がおいしく、農業が営みやすいという小林市。農家の視点から、小林市の複数の改善点をピックアップした5班の皆さん。そのうえで、“農家のイメージをアップしつつ、売り場を増やす”という課題にたどりついた5班の皆さんが提案したのが、小林市のコミュニティバスと連携しての、バス内での農作物の販売。「地産地消に貢献して、コミュニケーションにも役立つ」と、そのメリットを語った。



【6班】
ターゲット:高齢者
コンセプト:高齢者に便利な街

 “高齢者に便利な街”をコンセプトに掲げた6班は、“店が遠い”、“バスの本数が少ない”、“道路が凸凹で歩く人やシニアカーでの移動がしにくい”といった課題をあげつつ、解決策として “シニアカー専用の道路を作る”ことを提案。その結果、“高齢者の事故が減る”、“高齢者が外出しやすくなって健康になる”、“商店街がにぎわう”とした。



【7班】
ターゲット:バリバリのキャリアウーマン(海外の人)
コンセプト:都会と田舎が“共存する”街

 7班の皆さんは、都会の便利さと自然による癒やしの両立が大切と分析。そのうえで、海外の人が小林市に来たときの不便な点として、“英語表記のメニューや看板、ガイドマップがない”、“小林市に住んでいる海外の人に寄り添った情報がない”を挙げ、“英語表記を導入し、小林市の地図などが乗ったガイドブックの作成”を提案した。なお、7班のメンバーのうちのふたり(池田瑠奈さんと稲田萌乃さん)は、最終プレゼンの前に行われた三菱地所での勉強会に訪れており、そこでのアドバイスを活かしてガイドブックの作成に加えて、SNSでの発信も提案した。

 ちなみに、プレゼンでは、三菱地所の“まちづくりのプロ”が口にした「かつては観光地側で楽しみかたを用意していたが、これからの時代はそうではなくて、楽しみかたはそれぞれ。どう楽しむかの要素がそれぞれの場所によって違うので、いま何があるかというのを素直に伝えればいい」という話が印象的だったという趣旨のことが語られていた。当日は、記者もまさにそこに刺激を受けており、感じる箇所はいっしょなんだな……と思った次第。ま、記者の余談です……。

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【8班】
ターゲット:小林市に住む高校生
コンセプト:学生が住み続けたいと思う街

 “小林市に住む高校生”という、ある意味で自分たちの意見を率直に反映しやすいお題となった8班。“市外に出ていく高校生が多い”という現実を紹介した学生さんたちは、その問題点として、“人が集まる場所がない”、“商店街がにぎわっていない”の2点をピップアップ。その課題を解決するためのアイデアとしてプレゼンされたのが“商店街ショッピングモール化計画”だ。具体的には、格安テイクアウトフード店や小さな映画館などを作るというもの。esports要素を盛り込んだ、”対戦型のゲームを大画面に映した交流の場所を作る”といったアイデアにも唸らされる。



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 さて、最終的にもっとも高い評価を獲得したのは、1班の“エンタメが発達している小林市”。小林市の魅力である自然を生かしつつ、“映え 増え、栄え作戦”というわかりやすいプレゼンによる“インスタ映え”というキャッチーな訴求ポイントが評価されたようだ。実現性の高さも、ポイントにつながったのでは……と思われる。


 もっとも実現性の高さという点で言えば、そもそもほとんどのプレゼンが「実現できそう」と思わせるものだった。その点、シムシティ課の責任者である小林市役所地方創生課 主幹 柚木脇大輔氏が後述するインタビュー言及しているとおり、学生たちが小林市のことを真剣に考え、実現可能なものを模索した結果だと思われる。実際のところ、今回の一連のシムシティ課の取り組みは、小林秀峰高校の学生さんたちに、自身が生まれ育った小林市の魅力と課題を考えさせる、いいきっかけとなったようだ。いずれにせよ、学生さんたちがシムシティ課に参加したことの意義は極めて大きい、と言えるだろう。

 今回の取材の個人的な感想を述べさせていただくと、とにかく小林秀峰高校のほがらかな明るさが印象的だった。彼、彼女たちをふと見ていると、自分がとうの昔に失くしてしまった何かに思いを致して、思わず涙腺が緩んでしまったのは、少しばかり年を重ねて涙もろくなってしまったせいばかりでもない。何はともあれ、とにかく彼、彼女たちの笑顔には癒やされる。

 実際のところ、彼、彼女たちの明るさは、その多くは小林市という土地柄により培われた部分が多いだろうことは間違いなく、そう考えると「地方創生の必要なんてないのでは……」と思いもするが、一方で、「大学や就職先がないので、高校を卒業するとほとんどの高校生が市外に出てしまう」「交通の便が悪い」という現実を聞くと、言ってみれば部外者である記者が何か語れるものでもないような気がする。

 なお、小林市ではもっとも評価されたアイデアの実現に向けて、クラウドファンディングを行うことを明らかにしている(詳細発表は後日)。シムシティ課のプロジェクトは、まだまだ終わらない!というわけだ。



「学生たちのキャリア教育のために」

 最後に、小林市役所地方創生課 主幹 柚木脇大輔氏へのインタビューをお届けして、本稿を締めくくらせていただこう。


――市でシムシティ課を作るというのは大胆な発想ですね!

柚木脇最初に「シムシティ課を作りたい」というお話しをいただいたいときは、「どういうことですか?」とお聞きしていましたね(笑)。当初あったのは、“バーチャル組織を設立して、『シムシティ ビルドイット』で街作りについて考える機会を作りたい”というプランでした。それに対して、「市民の方にアイデアを出してもらうのがいいのではないか」ということで、私たちのほうで高校生のカリキュラムの一環として実施することを提案したんです。

――なぜ高校の授業に?

柚木脇そもそも小林市では、過去3年にわたって小林秀峰高校と共同で、街のPRを主眼にしたワークショップを授業に取り入れてきたんです。たとえば2017年はPR動画を作成しています。これは、“宮崎県の方言がフランス語に似ている”ということをコンセプトにしたもので、おかげさまで250万以上の再生数となるほどの好評ぶりでした。実際のところ、小林秀峰高校のワークショップは、けっこう人気で、動画を見て、あの動画を作りたいからということで入学を希望する学生もいます。このワークショップは、キャリア教育(※)の推進を目的としたものだったのですが、シムシティ課の方向性とうまく合致しそうだなと考えたんです。それで市長に確認したところ、「おもしろそうだね!」と。



※現在や将来などを見据えることを目的として、キャリア(経験)を活かして行われる教育のこと。




――ざっくばんらんな(笑)。とにもかくにもキャリア教育の流れがあったんですね。

柚木脇はい。たとえば今日のイベントに関しても動画撮影担当の方がいらっしゃっていましたが、そういった方が働いている姿を実際に見てもらうことが、キャリア教育には役立つんです。学生のなかには、ひとりメディア系に進みたいという女の子もいるのですが、PV収録の際のスタッフの方を見て、「音声希望だったけど、カメラマンもおもしろそう」なんて言っていましたね。

――ああ、実際の働きぶりを見てもらうことが、キャリア教育に役立つということですか。

柚木脇そうなんです。小林市は教育の施設という面で言えばけっこう進んでいたりします。全部の学校に電子黒板は導入されていますし、あと1、2年ですべてタブレットを使っての教育に変わります。いまでもモデル校として、いくつかの学校で使用されているんです。ただ、設備を与えたからといって、必ずしも学力は上がるわけではないんです。田舎にいて不利なのは、いろいろな職業を見ることができないということです。せいぜいが、市役所や消防士、警察官といった公務員か、あとは建設業界や介護関係者くらい。ひと言でサラリーマンといっても、いろいろな職種があるわけです。商社の人もいれば、広告代理店の人もいる。そういう存在がわからないんですよね。具体的なイメージがないと、夢も持ちづらい。夢を持てば、勉強とかもものすごく楽しくなるわけじゃないですか。「○○○になりたいからがんばる!」という。田舎はそれがちょっと不利ですよね。

――なるほど……。そう言われればそうですね。

柚木脇私たちがつねづね言っているのは、「いろいろな職業の人を学生たちに見せられるように考えていかないといけない」ということです。動画がバズるのはうれしかったりするわけですが、それはあくまで副次的なものではありますね。一昨年に動画制作のワークショップをしていたときにすごく印象的だったのが、美容専門学校に進学することが決まっている学生がふたりいたんですね。で、動画撮影に合わせてヘアメイクの方がいらっしゃったときに、その方がフリーだったことに驚いていましたね。どの美容室にも所属せずに美容師として働いていることが信じられなかったようです。まあ、まわりにいないとわからないですからね。

――なるほどなあ。僕も“ゲームメディアの人”として見られていたということですね。もっとかっこよく振る舞えばよかった(笑)。

柚木脇(笑)。まあ、実際に記事を目にしたら、「あんなふうに取材したのが、こんなふうに記事になるのか」ということで、いろいろと気づきはあると思いますよ。まあ、キャリア教育は大っぴらにいうことでもないですし、今回のシムシティ課の取り組みが、10年後、20年後の彼ら、彼女らにとって少しでも糧になればいいかなと。いつ役に立つかはわかりませんが……。ちょっと言いかたは違うかもしれませんが、植物に栄養を与えるような感覚に近いかもしれません。


――そんな意図がありつつ取り組んだ今回のシムシティ課ですが、手応えはいかがでしたか?

柚木脇とてもよかったと思います。これまでの動画のワークショップですと、“動画を作る”というひとつのわかりやすい答えがあったのですが、今回は自分たちでしっかりと考えないといけなかった。その点、3ヵ月にわたるワークショップを経て、着実に理解が深まっていったようですね。実際のところ、最初のころは、「ショッピングモールを作る」「遊園地を誘致する」といった、少し夢見がちな意見もあったんですよ。それが、「市長に実際にプレゼンする」という段になって、徐々に足に地のついたアイデアになっていったように思います。

――たしかに、それぞれのプレゼンは、いずれも現実にできそうな感じでしたね。

柚木脇さらに言えば、今回のシムシティ課は、学生たちが卒業する前に、もう一度小林市のことを考えてくれるきっかけにもなったと思います。実際のところ、この小林市には大きな企業があるわけでもないですし、専門学校はあるのですが、大学はありません。いざ進学もしくは就職となると、ほとんどが市外に出ていってしまうんです。そんな学生たちに対して、改めて小林市のことを振り返る機会を提供できたのは、意義深いことだったのではないかと思います。“小林市の自然を残したい”というプレゼンも多かったですし、そんなことを言ってくれるのは手応えのような気はします。

――シムシティ課は今回のタウンミーティングでひと区切りかと思っていましたが、そうではないようですね。

柚木脇はい。今回のアイデアをクラウドファンディングで実現することを考えています。当初はプレゼンで終わりにする予定だったのですが、アイデアが実現する可能性があるということになったら、ワークショップのモチベーション的にも変わってくるのではないか、という議論になったんです。もしクラウドファンディングが成功したら、2019年4月からの来年度の授業に引き継がれていくことになると思います。

――先輩の考えたアイデアを後輩が実現するということですよね。それは夢があることですね。シムシティ課は地方創生プロジェクトとしての一面もありますが、お話しを聞いていると、地方創生の必要がないくらい充実しているような感じがします。学生さんたち、みんな明るいし。

柚木脇小林秀峰高校に行くと、すれ違う学生が全員挨拶してくれます(笑)。実際のところ、小林市も、人口減少や高齢化という日本全国の地方都市が持つ問題を抱えていますが、すごく前向きに取り組む雰囲気はありますね。

最終更新:2/1(金) 12:02
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