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「医師は死ねと?」 炎上した残業上限2000時間案が出てきた舞台裏

2/5(火) 7:02配信

BuzzFeed Japan

厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」が取りまとめに向けて佳境を迎えています。

ところが、地域医療を守る病院などに対する特例として、時間外労働の上限が一般労働者の過労死ラインの2倍以上となる「1900~2000時間」とする案が提示されたことに、医師たちから批判の声が殺到しています。

「医師は死ねというのか?」

「私たち人間じゃないの?」

「過労死ラインの二倍働かせるなんて正気の沙汰とは思えない」

「国は地方の医療を本気で潰したいのか?」

検討会の副座長は、私も構成員として参加した厚労省の「上手な医療のかかり方を広めるための懇談会(以下、懇談会)」で座長を務めていた渋谷健司・東京大学大学院国際保健政策学教室教授です。

「目指す目標は960時間なんだということを知ってほしい」と話す渋谷健司さん
Naoko Iwanaga / BuzzFeed
「目指す目標は960時間なんだということを知ってほしい」と話す渋谷健司さん

崩壊寸前の日本の医療を守るためにこの懇談会で出した「いのちをまもり、医療をまもる」国民プロジェクト宣言!」で私たちは、医師の過酷な労働環境を放置しない方針を明確に打ち出したはずです。

「言っていることが矛盾していませんか?」

疑問に思った私は、SNSで読者の皆さまからも質問を募り、検討会は本気で現場の医師の疲弊を救うための議論をしているのか、尋ねてきました。
【BuzzFeedb Japan Medical / 岩永直子】

時間外労働の上限「1900~2000時間」ってどういうこと?

ーー懇談会では、医師の過酷な労働環境をこれ以上放置してはいけないという姿勢を明確に打ち出したはずです。渋谷先生をはじめ懇談会のメンバーが4人も入っているこの働き方改革検討会で、なぜ時間外労働の上限1900~2000時間なんて案が出てくるんですか? 過労死ラインの2倍ですよ。

これは事務局案ですから、これでいいなんて全く思っていません。まず誤解してほしくないのは、あくまでも目指す目標は960時間なんです。検討会でも審議官に国としてどこを目指すのか確認する質問をしましたが、目標は960時間と明言しました。

日本医師会も、960時間を目指す体制にしなくてはいけないと言っていますし、ゴールはあくまでも960時間というのはみんな合意しているんです。

ーーしかし、地域の医療体制を守るためや技能を身につけるトレーニング中の医師を対象として、特例の水準を設けるのですね。2024年度から35年度末まで、特例病院では時間外労働時間の上限を「1900~2000時間」とする案を出しています。ここで働く人は守られないのですか?

まず、伝えたいのは、全員が2000時間働くわけではないし、そこまで働かせて良いということでもないということです。労働者の視点に立つ社会保険労務士の委員、福島通子さんも『2000時間の労働を容認するかのように報道されていますが、36協定(法定労働時間を超えて働く場合に労働側と使用者側で締結する協定)で違反とされないための上限時間』だということを強調しています。

そもそも36協定を結んでいない病院はたくさんあります。これまではどこまで働かせてもいいのか基準さえなかったんです。

これでは、医師の労働時間に歯止めが効きません。医療は特殊だからという論理で、長時間労働が当たり前だという風潮がそもそもおかしいのです。疲弊している現場の先生方に訴えたいのは、全く労務管理をしない病院はあり得ない、今までのいい加減な労務管理は通用しないということです。

36協定を結んだ上で、どうしても特別な事情があって、労使が合意した場合に、刑事上の責任は問わないという基準であって、決してここまで働かせていいと言っているわけではないんです。

1900~2000時間という案の理由は、2016年に行った「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」に基づいて出した1920時間という数字です。年間1920時間を超える医師が約1割、年間2880時間を超える医師も2%います。1920時間を超える医師が一人でもいる病院は全体の3割で、大学病院の約9割に及びます。

現状でも、2000~3000時間働いている大変な人たちがいるから、まずここをどうにかしようという考え方に基づく制限なんです。そのほとんどは、大学病院や救命救急センターがある基幹病院であり、まずは彼らの現状を変えるための制限という考え方です。

また逆に、そこをいきなり厳しくすると医療提供体制が崩壊するのではないか、という懸念も厚労省にはあるのでしょう。しかし、それでは現状維持になりかねません。

ーー一番長時間働く世代は、20代、30代の若手ですね。労使の合意があった場合と言いますが、実際に働く人は組織の中で強制があった場合、嫌だと言える発言権もないでしょう。

確かに大学病院で若い医師が教授に指示されてNOと言えるかというと無理でしょうね。社労士の方も、「労働時間を短くする努力を全力で行わなければいけないのは当然だが、絵に描いた餅にならないような計画を出させてモニタリングしていくのが必要だ」と話しています。現実的な案ですし、その通りだと思います。

報道の中には、「地域においては上限2000時間」と書いていたところもありましたが、地方のお医者さん全員ではないですし、そこまで働かせていいと言っているわけでもありません。そこの誤解をまず正しておきたいです。

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最終更新:2/6(水) 20:08
BuzzFeed Japan

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