ここから本文です

林芙美子「浮雲」で決別した過去【あの名作その時代シリーズ】

2/8(金) 16:36配信 有料

西日本新聞

小説の舞台となった安房の上空を朝日に照らされた真っ白な雲が漂っていた

 長編小説『浮雲』は、主人公のゆき子と富岡が屋久島に流れ、そこでゆき子が死んで終わる。何の伏線もないヒロインの死を唐突に感じ、鹿児島港からフェリー・屋久島2に乗った。手掛かりは林芙美子の取材日記ともいえる随筆『屋久島紀行』である。午前八時、屋久島2はモヤイを解いた。

 花の命は短くて苦しきことのみ多かりき

 有名な歌碑の建つ芙美子の本籍地・桜島が、だんだんと小さくなった。

 物語は男と女の情念がもうもうと立ち上る。戦時中、仏印のダラット(ベトナムの高原の町)で蜜月の時をすごした二人だったが、引き揚げた焼土の東京では、富岡はボロ布のように疲れていた。仕事はうまくいかず、家庭や妻、愛人ゆき子との関係が疎ましい。そんな富岡の気持ちを知りながら、ゆき子はずるずると逢瀬(おうせ)を重ねる。情死を考えた温泉旅行、妊娠、堕胎。外国人との行きずりの恋や、昔の男との復縁もある。富岡も新しい愛人をつくる―といった具合だ。

 芙美子の取材行は激しい雨で船が出ず、鹿児島で四日間足止めを食っている。当時の照国丸が、マルセイユで見た客船に似ていると感じた芙美子は「このまま何処でもいいから遠くの外国へ向かって航海して行きたい気がした」という。当時、沖縄や奄美諸島は米国統治下にあり、屋久島は日本の南端。国境の島だった。物語の終着点にこの島を選ばせたのは、何かから逃れたいという芙美子の願望だったと思われる。 本文:2,357文字 写真:1枚

続きをお読みいただくには、記事の購入が必要です。

すでに購入済みの方はログインしてください。

  • 税込216
    使えます

記事購入にも使える108ポイント獲得できるチャンス

サービスの概要を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。 購入後に記事が表示されない場合はページを再度読み込んでください。 購入した記事は購読一覧で確認できます。

西日本新聞

最終更新:2/12(火) 3:00
西日本新聞

おすすめの有料記事

使えます

もっと見る