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社会福祉法人の首都圏進出 背景を探る〈下〉

2/8(金) 11:24配信

福祉新聞

■問われるのは保育の質

 東京都世田谷区は、2013年度から本格的に待機児童対策に取り組んだ。それに伴い、地方の社会福祉法人が経営する保育施設も増えている。

 対策実施前の11年当時、区内には保育所経営法人が16しかなく、民間認可保育所も50カ所に満たなかった。定員数は1万1265人で、4407人の待機児童がいた。区は認可保育所を増やす形で対策を推進。誘致型と提案型の2方式で整備を進めた。

 誘致型は国・都・区の所有地に整備する際、一定の資格要件を満たす事業者を公募・指名する「プロポーザル方式」で募集。法人が受託することが多く、建物は事業者が建て、土地は定期借地契約を結ぶ。土地代には区の補助があり、事業者の負担はない。

 提案型は、区の整備計画に基づいて事業者が土地を見つけ、所有者の了解を得た上で区に提案する。必要度合いに応じて62地区を4ランクに分けて募集しており、株式会社からの応募も多い。

 応募後は種類・財務審査、現地ヒアリングをし、最も良い提案の事業者を選ぶ。重視しているのはサービスの質。IQでは測れない非認知能力(目標に向かい頑張る力、他人とうまく関わる力など)を育んだり、障害児保育に熱心だったりする事業者を選んでいる。

 その後7年間で認可保育所が100カ所以上、定員が7900人以上増えた。認可保育所は199カ所(民間126カ所)となり、13カ所は地方の法人が経営している。

 保育計画・整備支援担当課は「保育の質を最重視している。法人と株式会社で差はつけないが、熱意と責任をもって質の高い保育をしてくれる事業者を募集している」と話す。今後さらに1396人分の定員増を目指しており、地方の法人への期待は大きい。

■首都圏の福祉、見直しを

 世田谷区で「赤堤ゆりの木保育園」(17年開所、定員63人)を経営しているのが、福島県会津若松市の南町保育会(金子恭也理事長)だ。

 同会は09年に大田区から区立保育所の経営を受託したのを機に東京に進出。12年、大田区に開設したさくら中央保育園を含め、3保育所を経営している。

 進出理由は、自分たちの保育がサービスの質に厳しい東京でどう評価されるか知りたかったからだ、という。

 1928年に保育事業を始めた同会は「ゆっくり育て 一人ひとりの芽」を保育理念に非認知能力の育成を大切にしてきた。3~5歳児が同じ部屋で過ごす異年齢保育も、カフェテリア方式の昼食で子ども自身が食べる時間や量を決めているのもそのためだ。

 保育の質を最重視する世田谷区のプロポーザル方式で認められたのは、サービスの質の高さの証しで、複数の自治体から保育所の開設依頼があるという。

 「手厚い補助制度があり、金銭面だけを考えれば、2年に1カ所は増やせるが、株式会社のように毎年保育所は増やせない。それは保育士や園長を育てるのに時間がかかるからだ」と金子理事長は話す。

 実際、ゆりの木保育園の開所時、同会はさくら保育園から保育士を半分異動させ、後任は新卒採用したが、保育士からは「保育が薄まる(保育の質が低下する)」と猛反対された。

 「新卒保育士が理念を理解し、実践できるまでには時間がかかる。園長職を担える人材確保も難しい」と金子理事長。10年間で3カ所しか開設できなかったのも、「サービスの質の維持・向上を考えたからだ」と話す。

 手厚い補助を利用し、毎年何カ所も施設を開く事業者がいるが、保育・福祉・介護サービスは量だけ整えればすべて良し、というわけではない。首都圏の自治体にはサービスの質をしっかり見極める目が今以上に求められる。

 首都圏の福祉事情などを考えれば、今後も地方法人の進出は続く。ただ、それは手厚い補助や自治体の姿勢があればこそだ。大切なのは、地方の法人から蓄えた体力を奪うような仕組みを改め、今こそ首都圏の法人が施設を整備できるようにすること。首都圏の福祉の在り方を見直さないといけない。

最終更新:2/8(金) 11:24
福祉新聞

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