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跳び箱に金魚、プールにウミガメ 4月オープンの廃校水族館はや来場14万人超

2/9(土) 11:30配信

朝日新聞デジタル

■時紀行

 高知県の東端、室戸市は過疎化に悩む漁師町だ。昨春、室戸岬の近くに廃校になった小学校の校舎を再利用した水族館が登場した。「むろと廃校水族館」。なぜか懐かしい小さな水族館を見ようと、全国から観光客が押し寄せている。人口減が進む地元には久しぶりに子どもたちの大きな声が戻ってきた。

【写真】水揚げされた魚を買い付ける地元の鮮魚店=2019年1月31日午前8時7分、高知県室戸市室戸岬町、柴田悠貴撮影


 地元の子どもの歓声が消えた小学校の25メートルプールで、14匹のアカウミガメやアオウミガメがゆっくりと水をかいている。

 教室には直径3メートル規模の三つの大水槽が並び、エイやコバンザメ、ブリなどが泳ぐ。水が張られた廊下の手洗い場には伊勢エビやヤドカリたち。跳び箱は金魚の水槽だ。魚を眺めていた徳島県阿南市の主婦若木未来(みく)さん(26)は「なんだか、とても懐かしい」。

 高知県東部、室戸岬近くの室戸市立椎名小学校。2006年に廃校になった学校は市の改修をへて昨年4月、「むろと廃校水族館」として12年ぶりによみがえった。

 気持ちよさそうに泳ぐのは、多くが室戸岬周辺の定置網にかかった魚だ。ジンベエザメやイルカなど水族館の人気者はいない。

 豪華さもない。古びた教室や図書室がそのまま残る。本や楽器、地図、人体模型、視力検査の器具……。陳列されているものは、過疎化で統廃合が進んだ市内の廃校などから集められたものだ。

 だが、今年1月、開館から1年たたずして来館者が14万人を超えた。館長の若月元樹さん(44)は「目玉がないのがうちの目玉です」。沖縄美(ちゅ)ら海水族館(沖縄)や海遊館(大阪)など知られた水族館とは違った路線を歩む。そこには逆転の発想があった。


■シロアリに食い荒らされた校舎

 廃校して8年間、高知県室戸市の椎名小学校に、人の息吹は感じられなかった。地元から「校舎を集会所に使いたい」という声があったが実現せず、災害用の備蓄米の保管場所になっていた。

 動き出したのは2014年だった。校舎の活用を検討する市に若月元樹さん(44)が手を挙げた。当時、沖縄で日本ウミガメ協議会が運営する研究所の所長だった。

 室戸市には協議会の研究拠点があり、若月さんも勤務していた。施設にあった室戸沖の魚の標本などを「活用したい」と、水族館構想が浮かんできた。

 予算は限られる。華麗な展示は望めない。校舎はシロアリに食い荒らされていた。だが勝機を見いだしてもいた。「『廃校』という柱があれば」。誰もが小学校に通い、学校への懐かしさを感じる。水族館との組み合わせにも「興味を持ってもらえる」と直感した。

 市や地元は当初、イメージが悪いと「廃校」の名称に反対だった。だが今や年間10万人を超える来館者に、市観光ジオパーク推進課の山崎桂課長(49)は「ここまで反響があるとは」と苦笑する。

■広告費ゼロ、それでも

 水族館は18年4月26日、開館した。若月さんを筆頭に職員は現在5人だ。広告費はゼロ。だが「廃校」という言葉が関心を呼んで口コミで人気は広がり、ツイッターのフォロワー数は現在約1万5千人になった。

 地元の漁師は最初から協力的だった。館内にいる約50種類計千匹の魚類は、定置網漁の漁師でつくる椎名大敷(おおしき)組合などが提供した。日本近海では珍しいクロウミガメも持ち込まれ、鮮やかな青色が特徴のヨシキリザメが登場したときはSNSで話題にもなった。

 橋本健組合長(49)は椎名小出身だ。「県外客がたくさん来れば、町や定置網漁のことも知ってもらえる」。にぎわう水族館を見て母校の再建を夢見ている。

■子どもの声が響く

 室戸市の人口は約1万3千人。この60年で3分の1近くまで減った。子どもの数も減りつづけるなか、水族館を目当てに全国から子どもたちがやってくる。愛媛県四国中央市の小学1年天高紫月(しずく)さん(7)は「こんな楽しい学校に通ってみたい」とはしゃぐ。

 水族館近くの「ドライブイン夫婦岩」も連休は観光客で順番待ちの列ができるほどに。椎名小の卒業生で経営者の山下元伸さん(68)は「子どもがおらんようになっていたから。地域で子どもの声が響くのは本当にうれしい」。(文・菅沢百恵 写真・柴田悠貴)

朝日新聞社

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