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進むゲノム編集、揺れる科学界 生命操作の許容範囲は

2/10(日) 23:01配信

産経新聞

 狙い通りに遺伝子を改変できる「ゲノム編集」を使ってヒト受精卵を改変し、双子が生まれたと中国の研究者が主張し、中国・広東省当局が事実と確認したとする調査結果を公表した問題は、世界に波紋を広げた。ゲノム編集は、生命科学研究に飛躍的な進歩をもたらした一方、いまだ発展途上で、受精卵への臨床応用は予期せぬ影響を個人や人類全体の遺伝子に与える恐れもある。「生命の設計図」の書き換えは、どこまで許されるのか。

■世界から非難

 「ゲノム編集技術を受精卵に使い、健康な双子の女児を誕生させた」

 昨年11月28日、香港で開かれた国際会議で1人の研究者に世界の注目が集まった。中国・南方科技大の賀(が)建奎(けんけい)副教授=解雇=だ。男性側がエイズウイルス(HIV)感染者である男女を対象に、体外受精時に感染を防ぐように遺伝子を改変したと報告した。

 遺伝子を人為的に改変した人間が生まれた初のケースとなり、世界の研究者らは猛烈に非難。ゲノム編集に詳しい広島大の堀内浩幸教授は「すでに問題を遺伝子操作以外で解決できる手法があるのに、なぜゲノム編集技術を使う必要があるのか。研究者倫理に反する行為だ」と指摘する。

 同省当局は「自らの名誉と利益のためだ」と指弾、賀氏や実験に関与した関係者らは立件に向けて公安機関に送致するとしている。

■がん治療に応用

 生命の設計図であるゲノムは、塩基などを含む有機物が連なったDNAに記録されている。4種類ある塩基は情報の「文字」に相当し、塩基の並び順が「単語」となって遺伝子を表す。

 この遺伝子を自在に改変する技術が、1990年代に開発されたゲノム編集だ。目的とするDNA配列を探し出す部分と、そこを切断するタンパク質の「ハサミ」を使用。ピンポイントで遺伝子を構成する文字を削除、別の文字を挿入するなど、自在に「設計図」の書き換えができる。

 人への応用では、患者の体細胞を用い、病気の原因となる遺伝子を正常なものに変える「遺伝子治療」として、がん免疫療法やエイズ、血友病などの治療が検討されており、海外では一部で臨床研究も実施されている。

■技術の悪用懸念

 ただ受精卵では、すでに海外ではゲノム編集を使った受精卵の基礎研究は始まっているが、各国は臨床応用に関しては禁止、もしくは厳しい制限を設けている。受精卵は本格的な細胞分裂が始まる前段階であり、安全・倫理面での懸念が大きいためだ。

 受精卵で改変された遺伝情報は将来の子孫にも受け継がれる。狙い通りの改変を行っても、新たな遺伝病を生み出す危険性もある。国家や親の望み通りの能力や容姿を持った「デザイナー・ベビー」への応用も危惧され、人類の進化に影響を与えかねない。

 日本では不妊治療などを目的としてゲノム編集を受精卵に施す基礎研究が4月にも解禁される見通し。一方、厚生労働省と文部科学省は昨年末、ゲノム編集を行った受精卵を人や動物の胎内へ戻すことは認めないとする指針案をまとめた。

 ただ、あくまでルールであり、罰則はない。日本遺伝子細胞治療学会理事長の藤堂具紀(ともき)東京大教授は「研究者倫理に委ねられるところが大きく、悪意を持ってやろうと思えばできてしまう。技術の悪用を防止するためにも法整備が必要だ」と指摘している。(有年由貴子)

最終更新:2/11(月) 13:05
産経新聞

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