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認知症の親を捨てたい…現代「姥捨山」に同情の声 介護からは逃れられない?

2/10(日) 9:09配信

弁護士ドットコム

認知症の疑いがある79歳の父親を46歳の娘が兵庫県内の高速道路パーキングエリアに置き去りにするという事件が2018年11月にありました。娘は保護責任者遺棄の疑いで逮捕されましたが、不起訴処分になりました。

逮捕当時、娘は「警察に保護してもらい、施設に入ったほうがいいと思った」と話していたことが報じられています。これに対し、ネットでは認知症の家族を介護した経験のある人や高齢の親を持つ人から、「身内だけで認知症の親の介護は無理」「明日は我が身」といった声が寄せられました。

認知症になった親の介護から、子どもは絶対に逃れられないのでしょうか。川見未華弁護士に聞きました。

●保護責任者遺棄罪はどんな場合に成立するか

今回の事件で、娘は「保護責任者遺棄」容疑で逮捕されています。これは、どのような責任が問われているのでしょうか?

「『保護責任者遺棄』罪とは、老年者、幼年者、身体障害者、又は病者を保護する責任のある者が、これらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかったときに成立する罪です(刑法218条)。

今回の事件は、娘が、父親を『保護する責任のある者』であったにもかかわらず、その責任を果たさずに、父親を『遺棄』したことから、同罪の容疑で逮捕されたものです。

ただし、本罪でいう『保護責任者』であるかということと、民法上『扶養義務者』であるかということは、必ずしも一致しないとされています。

つまり、本罪が成立するためには、単に法令上、扶養義務を負っているかという点だけではなく、要扶助者の生命・身体をその危険から保護すべき現実の義務を負っているかという点や、誰もいない場所に連れて行くなどの先行行為により、排他的支配を獲得したかという点が重視されると考えられます」

●扶養義務はあるけれど、生活を犠牲にする必要はない

通常、認知症になった親の介護から子どもは逃れることができるのでしょうか?

「民法上、直系血族は、互いに扶養をする義務があると定められています(民法877条1項)。実の親子であれば、直系血族に当たります。したがって、子どもは、認知症になった実親に対して、扶養義務を負います。

ただし、子どもが実親に対して負う扶養義務は、扶養義務者に余力がある限りで、自己の地位と生活とを犠牲にすることがない程度に扶養すれば良い程度の義務(「生活扶助義務」と言います)であるとされています。

ですから、子どもは、認知症になった親に対する扶養義務を負うものの、遠方であったり、経済的に厳しい状況であるのであれば、自身の生活を犠牲にしてまで扶養義務を果たすことは求められないと考えられます。

また、子どもに配偶者や未成熟子がいる場合は、配偶者や未成熟子に対する扶養義務(生活保持義務)は、親に対する扶養義務(生活扶養義務)よりも優先されますから、認知症になった親よりもまず、自身の配偶者や未成熟子の扶養を優先すべきことになります」

勝手に扶養義務を放棄することはできますか? もし放棄した場合は、何かの罪に問われるのでしょうか?

「扶養義務を勝手に放棄することはできません。ただし、扶養義務を放棄しただけで、即時に何かの刑罰に問われることはないでしょう。

他方で、認知症になった親の扶養義務を放棄した結果、親が第三者に損害を生じさせてしまったような場合には、扶養義務者である子が親に対する監督義務を果たさなかったとして、親が第三者に加えた損害を賠償する義務を負う可能性もあるでしょう(民法714条。なお、最高裁判所平成28年3月1日判決参照)」

【取材協力弁護士】
川見 未華(かわみ・みはる)弁護士
東京弁護士会所属。家事事件(離婚、DV案件、親子問題、相続等)及び医療過誤事件を業務の柱としながら、より広い分野の実務経験を重ねるとともに、夫婦同氏制度の問題や福島原発問題等、社会問題に関する弁護団にも積極的に取り組んでいます。

事務所名:樫の木総合法律事務所
事務所URL:http://kashinoki-law.jp/

弁護士ドットコムニュース編集部

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