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韓国のベストセラー小説、日本でも異例ヒット 「女性の生きづらさ」に共通項

2/11(月) 16:50配信

産経新聞

 韓国で100万部を超えるベストセラーとなった小説「82年生まれ、キム・ジヨン」(筑摩書房)が、日本でも異例のヒットを記録している。韓国社会における女性差別を正面から取り上げた内容で、昨年12月に翻訳版が発売されると、1カ月で5万部超を突破した。賃金格差や産休・育休後の社会復帰の難しさなど、日本社会にも共通する「女性の生きづらさ」への共感が背景にある。(大渡美咲)

 ■マジョリティーが支持

 「82年生まれ~」は、韓国人の女性作家、チョ・ナムジュさんが2016年に発表した。主人公のキム・ジヨンは1982年生まれの35歳で、夫と娘の3人家族の主婦。物語の中では、彼女が生涯を通じて受けてきた女性であるがゆえのさまざまな差別や不当な扱いが、淡々とつづられる。

 幼いころから「男の子だから」と弟の方が優遇され、就職活動の面接ではセクハラ質問を受ける。会社では成果を上げても男性社員の手柄になったり、妊娠を報告した際には男性社員から心ない言葉をかけられ、育児のために会社を辞めることを余儀なくされる-といった具合だ。

 主人公の名前(キム・ジヨン)は、韓国で1982年に生まれた女性に最も多く名付けられた名前。翻訳者の斎藤真理子さんは、「主人公はことさら苦労しているわけでも、成功しているわけでもない。自分自身を投影したサイレントマジョリティーの女性たちに深く訴えかけた」と、ヒットの背景を解説する。

 ■騒動も発生

 男女差別を主題に据えた「フェミニズム小説」として、韓国では社会現象になった。共感だけではなく反感も生まれ、人気K-POPグループ「Red Velvet」のメンバー、アイリーンさんがこの本を読んだと話したところ、「フェミニズム宣言をした」と、一部で写真やグッズが壊される騒動も起きた。

 この本が出版された2016年、韓国ではソウルの繁華街、江南(カンナム)駅付近で女性が殺害される事件が発生。犯人の男は「女性に無視された」などと供述し、女性へのヘイトクライム(憎悪犯罪)として注目を集めた。昨年には世界中で広がった「#MeToo」運動に関連し、韓国内で性被害を訴えた女性が本について言及し、話題となった。

 斎藤さんによると、知人の韓国在住の日本人女性が、交際している韓国人男性にこの本を読んだと言うと、「俺も読みたいけど(文句を)言われるから読めない。読んだことは表に出すな」と言われたという。斎藤さんは「それだけ韓国の男性に与えた衝撃が大きかったということだと思う」と話す。

 日本でも、昨年12月8日に発売されるとわずか4日で3刷となり、2月1日時点で6刷6万7000部を発行した。書店の文芸ランキングでも1位を獲得、完売店も続出している。インターネット上ではツイッターで「82年生まれキムジヨン」というハッシュタグが作られ、「多くの人に読んでほしい」「共感できる」という書き込みが相次ぎ、自身の「差別体験」をつづる人もいる。

 筑摩書房の担当者は「韓国文学は昨年あたりから徐々に盛り上がりを見せていたが、これほどのヒットは例がない。フェミニズムや韓国文学に興味のある人、K-POPアイドルなどが好きな人だけでなく、口コミで広がっている」と驚く。

 ■気持ちくんでくれた

 世界経済フォーラム(WEF)による男女格差の度合いを示す「グローバル・ジェンダー・ギャップ指数」の2018年版では、149カ国のうち日本は110位、韓国は115位となっている。賃金格差や家事育児の分担不平等、出産後に女性が社会に戻りづらいなど男女格差が大きく、「女性が生きづらい社会」と指弾された形だ。

 書評家の倉本さおりさんは、「欧米などに比べて、日韓の社会構造や男女差別の構造は似ている部分がある」と指摘する。両国に共通するのは、儒教の影響を背景とした家父長制や、長幼の序を重んじる風土。これがいわゆる男尊女卑の風潮として根強く残っている、という見方だ。

 「82年生まれ~」を読んだ女性の感想として、韓国では「怒り」が多いが、日本では「涙が出た」という反応が多いとされる。倉本さんは「小説の分野でここまで(男女差別を)表現しているものは今までなかった。『気持ちをくんでもらった』という感謝と感情が高まったのでは」と推測する。

 斎藤さんも「女性にとっては、隠されていたこと、自分自身で蓋をしていたようなことを目の前にあらわしてような本。男性にとっても(女性の抱える問題など)全く知らなかったことを知るきっかけになり、そのために共感も反発も大きかった」と分析する。

 日本での反響を受けて、2月19日には著者のチョ・ナムジュさんが来日予定。同22日には「82年生まれ~」の番外編ともいえる「ヒョンナムオッパへ-韓国フェミニズム小説集」の刊行も決定している。

最終更新:2/11(月) 16:50
産経新聞

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