ここから本文です

【舛添要一の僭越ですが】 米国のINF条約破棄、新・核軍拡の時代へ

2/12(火) 12:09配信

ニュースソクラ

米国が開発する新・中距離ミサイルは日本に配備も

 米国が1月末にロシアとの中距離核戦力(INF)廃棄条約の破棄通告を発表。ロシアが条約違反を繰り返しているというのが破棄の理由である。

 通告を受けて、ロシアも同条約の義務履行を停止すると言明した。このままだと、同条約は6ヶ月後に失効する。

 1987年12月に締結されたINF条約は、欧州に緊張緩和をもたらし、東西冷戦終結にもつながったが、これでまた米露の軍拡競争が始まりそうである。INF締結から今日に至る経緯については、本コラム(125)で解説したので、詳細はそちらに譲るが、今回は、トランプ政権の意図、またロシアの対応、そして軍縮・軍備管理の今後について述べてみたい。

 アメリカは世界一の軍事大国であり、核戦力についても他国の追随を許さない。かつて東西冷戦時代には、ソ連がその地位を脅かしていたが、1989年のベルリンの壁の崩壊、米ソ冷戦の終焉、ソ連邦の解体によって、アメリカの優越的地位は揺るぎないものになった。

 その後、プーチン大統領は、強いロシアの復活を目指し、軍事力を強化するとともに、2014年4月にはウクライナ領のクリミアを力で併合した。また、アメリカが北朝鮮や中国、つまりアジアに関心を集中しているすきに、中東やヨーロッパでもそのプレゼンスを高めていった。

 そのような努力の一環が、アメリカの主張によれば、INF条約を無視して、新型INF「9M729(SSC8)」の開発や配備を進めてきたことである。INFとは、通常弾頭や核弾頭を搭載する地上発射型ミサイルで、射程は500~5500キロであるが、ロシアは、SSC8の射程は480キロと主張し、疑惑を否定している。

 そのことが、アメリカによる今回のINF条約破棄通告につながったのである。

 トランプ大統領はロシア疑惑で特別検察官の捜査対象になっており、プーチン大統領との間で政治的駆け引きを行うのは困難な状態である。したがって、6ヶ月以内に打開策が見いだせない可能性が強まっている。

 INF条約が締結された40年前と違うのは、中国の台頭である。今回のINF条約廃棄も、中国の軍拡への牽制球の意味もある。INF条約に縛られない中国は、グアムを射程圏に入れる射程4000キロの最新型INF「DF(東風)26」を完成させるなど、着々と軍事力の整備を進めている。

 アメリカは、中国も参加する新たなINF条約を構築することを提案しているが、中国はそれに応じる気配はない。経済のみならず軍事でも、中国はアメリカに追いつき、追い越すべく全力をあげている。米露中三国の軍拡競争はますます激しくなっていくことが予想される。

 米ロ間の核軍縮条約については、1972年に発効したABM(弾道弾迎撃ミサイル)制限条約からブッシュ(ジュニア)政権が2002年に脱退したため、今ではINF条約と新START(新戦略兵器制限条約)しか存在しない。後者は2021年に期限が終わるが、延長交渉はまだ始まっていない。

 第二次大戦後の世界平和が「核の恐怖の均衡」の上に成り立っていたことは否定できず、核兵器の国際管理という点では米ソ冷戦時代のほうが安定していたかもしれないのである。米ロ間の核軍縮条約が無くなっても、中国を加えた三国間で新たな軍備管理体制が構築できれば、安定した国際秩序につながるが、その見通しは立っていない。

 トランプ政権は、昨年の2月に、今後5~10年間の米国の核戦略の指針となる「核戦略の見直し(Nuclear Posture Review: NPR)」を発表したが、通常兵器への反撃にも核の使用を排除しない方針を打ち出している。トランプ大統領は「核の役割や数を減らすこの10年にわたる米国の努力にかかわらず、他の核保有国は安保政策での核の優位性を増してきた」と指摘したのである。

 トランプ大統領は、「強いアメリカ」の復活によってソ連邦を崩壊させたレーガン大統領と同様な戦略を採ろうとしている。つまり、軍事力を強化することによって、中ロ両国を力でねじ伏せ、軍縮を迫るという戦略である。ファーウェイ起訴など先端技術分野で中国に対して厳しい態度で臨んでいるのは、そのような戦略の一環でもある。

 中国は、先述したDF26 (グアムキラー)のみならず、対艦弾道ミサイルDF21D(空母キラー)など、INFミサイルを1400発以上保有している。INF条約を離脱したアメリカが開発するミサイルは、主としてこの中国に対抗するためのものであり、地上発射ミサイルの配備先には日本も含まれている。日本にとっても、今回のアメリカによるINF条約破棄通告は無縁ではないのである。

舛添 要一 (国際政治学者)

最終更新:2/12(火) 12:09
ニュースソクラ

あなたにおすすめの記事