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中性子とホウ素の反応でがん攻撃 川崎医大附属病院が臨床研究

2/18(月) 11:02配信

山陽新聞デジタル

 高速で飛ぶ中性子は十分に減速すれば捕獲されやすくなる。そのエネルギーをがん細胞の中で放出させれば、極めて効率的ながん治療が実現するだろう。だが、どうすれば―。

 その鍵は「ホウ素」にある。中性子がその原子核に衝突すると、高いエネルギーを持つアルファ粒子とリチウム粒子に分裂する。二つの粒子はほぼ細胞1個分の直径である10ミクロン(0.01ミリ)ほどしか飛べない。がん細胞の中で反応が起きても、隣の正常細胞を傷つけることがないのだ。

 「破壊力はボクシングでいえばヘビー級のパンチ。しかも、標的だけに正確に当てられる」

 川崎医科大学附属病院(倉敷市松島)が2003年から臨床研究に取り組む「ホウ素中性子捕捉療法」(BNCT)を担う放射線科の平塚純一教授(64)=放射線腫瘍学=はそう例える。画像診断でも見つけにくい、病巣の周りに紛れ込んだがん細胞まで撃退できるのが大きなメリットになる。

 BNCTの成否は、いかにしてがん細胞だけにホウ素を集めるかにある。1950年代から治療を試みた米国では、ホウ素化合物などの質に問題があり、成果を残せなかった。日本で80年代、アミノ酸にホウ素を付けた化合物・ボロノフェニルアラニン(BPA)が登場。がんが増殖する際にアミノ酸を大量に取り込む性質を利用し、がん細胞だけを選択的に攻撃することが可能になった。

 川崎医大病院での治療は、京都大学複合原子力科学研究所(大阪府熊取町)の原子炉に出向いて行う。ホウ素薬剤を点滴した後、がんの場所や大きさによって中性子線を20~60分、原則1回照射する。病院に戻り、1週間程度入院して副作用などが起きないか観察する。

 「あごの下で男性の拳ほどの大きさに膨らんでいた腫瘍が消えた」。11年から治療に携わる神谷伸彦医師(36)も治療効果に驚いたという。皮膚から近く、中性子を当てやすい部位なら大きな効果が望める。

 これまで、頭頸部(とうけいぶ)がん88症例と悪性黒色腫(メラノーマ)をはじめとした皮膚がん30症例を治療した。治療痕も比較的目立たない。耳に大きな腫瘍のあった女性が治療を受けてイヤリングをつけたり、舌がんの患者が軽快してラーメンを食べたりと、希望がかなったケースもある。

 ただ、BNCT治療のハードルは高い。現在は川崎医大病院と、脳腫瘍を対象に大阪医科大学附属病院(大阪府高槻市)が行っているだけ。毎年、原子炉の定期点検がある数カ月間は治療を休止せざるを得ない。治療費も現在、120万円かかる。

 厳重な安全対策が求められる原子炉に頼らず、小型で病院にも設置できる加速器を使って中性子を発生させれば、もっと治療機会が広がる。現在、世界初の加速器によるBNCTの治験が国内で行われており、2017年には優先的に審査される国の「先駆け審査指定制度」にも選ばれた。保険適用が期待される薬事承認を目指している。

 かつてBPAによる治療を初めて成功させた三嶋豊・神戸大学名誉教授(故人)の研究チームで学び、BNCT学会の会長も務めた平塚教授は「BNCTを手術や化学療法と並ぶがん治療の第一選択にしたい」と望む。

 低速の中性子が体内で届く距離は皮膚の表面から5~6センチとされ、それ以上奥にがんが浸潤すると完全に死滅させるのは難しい。「もっと早い段階でBNCT治療を受けられるようになれば、救える命も増える」と平塚教授は期待を込める。

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