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決済サービス「Pay」が出ない理由

2/27(水) 9:13配信

ITmedia NEWS

 乱立気味の決済サービスだが猫も杓子も「なんとかPay」だ。それでも決定的とも思える「Pay」という決済サービスが登場しない理由は何か? 知財問題に詳しい弁理士の栗原潔氏に解説してもらった。

PayPay

 プレジデントオンラインの記事によれば、ソフトバンクグループの孫正義社長は、決済サービスの名称として「Pay」という単語にこだわり続けたが、それでは商標上の問題があるため、結局「PayPay」という名称を選択したということです。

 「Pay」の商標登録にどのような問題があるのでしょうか?商標法3条1項1号には「その商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は登録できないことが明記されています(「役務」とはサービスのことです)。決済サービスにおいて、Payは、その役務の普通名称と考えられるので商標登録できない可能性がきわめて高いです。

 これは考えてみれば当たり前のことで、商品やサービスの普通名称を商標登録して特定の人が独占できてしまえば明らかに問題です。例えば、大型画面を持つ携帯電話機のことをスマートフォンと呼んで良いのはX社だけ、他社が使うと商標権侵害ですという状況を考えればわかります。

 ここで、「その商品又は役務の普通名称」という記載には注意が必要です。商標を使用する商品やサービス(指定商品・役務と呼びます)との関係において普通名称というパターンがダメということです。例えば、果物を指定商品として「アップル」を商標登録することはできません(林檎を「アップル」と呼んでいいのは特定の企業だけとなってしまえば大問題なのは前述のとおりです)が、アップルはコンピュータと直接関係ない言葉であるため、コンピュータを指定商品として「アップル」を商標登録することは可能です(もちろん、今出願してももうアップルに取られているのでできませんが)。

 また、普通名称かどうかは日本国内の一般消費者の視点で判断されます(特許庁審査官が日本の一般消費者ならこう考えるだろうという立ち位置で判断します)。英語のpayが「支払う」を意味することは、日本の消費者のほとんどが知っていますので、支払・決済サービスの名称としては商標登録できません。例えば、ドイツ語で「支払う」を意味するZahlenであれば(ビジネス的に意味があるかどうは別として)登録できる可能性が高いです。日本の消費者で、Zahlenときいて「支払う」を思い浮かべる人は(ゼロではないですが)一般的ではないからです。なお、仮にドイツで同じZahlenという商標を指定役務決済サービスで出願しても登録できないのは当然です。

 また、上記の規定は「普通に用いられる方法で表示する標章のみ」という条件なので、例えば、PayPalやR-Payのように別の言葉を付ければ(類似の先登録がない限り)決済サービスを指定役務としても登録可能です。PayPayも同じパターンです。苦肉の策かもしれませんがPayという言葉にこだわる孫社長の思いを汲んだ良い命名ではないかと思います。

 また、大幅にデザインを加えたロゴマークとしたり、別の図形を付けて文字と図形の結合商標として出願したりしても登録可能です。アップルはApple Payに関して有名な林檎マークにPayの文字を加えた結合商標としての登録も行なっています。もちろん、これらの場合は、Payという言葉そのもので登録されたわけではありませんので、他社がPayという言葉だけを商標的に使用した場合に権利行使することはできません。

 では、普通名称に何か言葉を足せば登録可能ということで、例えば、「おいしい林檎」を指定商品を果物で出願すれば登録されるかというと、これは別の条文「その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標(一部略)」(商標法3条1項3号)を理由に登録できません。このような商標を記述的商標と呼びます。特定の企業に独占させることは望ましくないため、登録されないことは普通名称の場合と同じです。なお、先に、決済サービスを指定役務としたPayは普通名称であることを理由として拒絶されるだろうと書きましたが、ひょっとすると記述的商標であることを理由として拒絶されるかもしれません(結果的に拒絶されるのは同じです)。

 要は、「そのまんま」の商標は登録できないと考えればよいでしょう。

 ただし、「暗示はするが記述的というほどではない」というレベルのグレーゾーンはあります。例えば「ぐるなび」という商標は、グルメをナビゲートすることを暗示はしますが、記述的(そのまんま)というほどではないので、ちゃんと登録されています。サービスの内容が消費者にイメージしやすくかつ商標としても独占できる良い名称だと思います。

 商標登録のしやすさを考慮して、商品やサービスの名称を決めるときには、完全な造語(例えばGoogle、Yahoo!等)を考案する方法、または、全然分野違いの言葉を選ぶ方法(例えばコンピュータについて「アップル」)という方法もありますが、「暗示はするが記述的というほどではない」名称にチャレンジすることも選択肢としては十分に考えられます。

ITmedia NEWS

最終更新:2/27(水) 9:13
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