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人とイノベーションで超高齢社会を超えろ 「東大塾」が日本の課題に挑む―『東大塾 これからの日本の人口と社会』白波瀬佐和子によるまえがき、あとがき

2/28(木) 8:00配信

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日本が抱える様々な課題の多くは人口の減少と高齢化に密接な関係がある。東京大学が卒業生や広く一般の社会人を対象に、現代社会の先端的なテーマを取り上げて開講している「グレーター東大塾」2017年秋期講座ではこのテーマを取り上げ、10回に及ぶ白熱した講義と議論が展開された。その内容を書籍化した本書の概要を、社会学を用いて少子高齢化や格差・不平等の問題に迫る研究者であり、本書の編著者でもある白波瀬佐和子氏の「まえがき」「あとがき」を通じて紹介する。


◆まえがき

本書のもとになった、グレーター東大塾『人口と社会――持続可能な成長型高齢社会をめざして』を企画した背景にある問題意識を述べることで、本書の意義を述べたいと思います。まず、本企画を立ち上げるにあたって超高齢社会をできるだけ積極的に位置づけたいという想いがありました。高齢化というと、労働力不足、若年人口の減少、社会の活性を阻む、といった否定的なイメージがつきまといます。また、若年層との関係では世代間格差が強調されます。一方、人々はこれまで以上に健康に長生きするようになったことは事実であり、例えば、30年前の60歳と今の60歳は身体的、能力的にも決して同じではありません。それは褒められこそすれなんら後ろめたいことではないのです。そこで思いついたのが、「成長型の超高齢社会」の構想でした。日本は、高齢社会ならぬ65歳以上人口比が28.1%という超高齢社会です(総務省統計局2018 「統計トピックスNo.113」(http://www.stat.go.jp/data/topics/topi1131.html))。生活の基本的な場となる世帯を代表する世帯主年齢にいたっては、全世帯のうちの半数以上が65歳以上となりました。また、いくら長寿化が進んでも、少子高齢化の進行は国外から新たな人口が流入しない限り、人口規模の減少は避けることができません。このような現状を悲観的にのみ捉えることなく、このリスクをチャンスに捉えて未来に向けて積極的に位置付け、展開することはできないものか、最も高齢化した社会・日本が提示する新たな未来社会のモデルとはどういったものか。このような問いかけが、本企画を立ち上げる際の重要な動機付けとなりました。

もっとも、当初の熱い想いがどれだけ具体的な政策提言へと繋がるメッセージになったかはわかりません。ただ、本企画の根底にある問題意識は本講義を通して強まり、その重要性を再確認することができました。人口学、経済学、財政学、社会学という異なる専門の視点、さらには、若者支援、医療、地域の自治といった現場に立つ者からの視点は、これからの超高齢社会を検討する際の大きな助けになり、今後さらに深めるべき課題がいくつも示唆されました。

それらを決して見逃すことなく、また不都合な事実も直視して、未来への発展的で持続可能な超高齢社会の構築に向けて努力すべきことの重要性を少しでも伝えることができれば幸いです。

人口高齢化は、先進諸国において、その変化の速度や形は違っても共通した現象であり、人口高齢化に関連する諸問題(社会保障制度の見直し、働き方改革、健康・医療問題、貧困問題など)を共有することができます。本講義では、日本の人口構造の変化を社会の枠組みから捉えなおし、その問題を共有するとともに、次なる積極的なアクションに繋げることができるような未来志向を共有する場の提供を目指しました。



◆人口と社会

グレーター東大塾『人口と社会――持続可能な成長型高齢社会をめざして』は、人口を社会という観点から、規模、制度、場、という3つの柱を立てて議論します。人口には大きく、年齢構造の側面と規模の側面があります。少子高齢化は若年層が縮小して高齢層が拡大するという年齢構成の変化をさし、その結果として人口規模が縮小します。人口を社会の側面から検討する場合、過疎化や労働人口の不足、外国人人口の流入といった側面は人口規模に着目したテーマです。人口の高齢化が進行した結果、人口規模は縮小します。高齢者が健康になって長生きをしても、平均余命は今の30歳の人に比べると、70歳の人の方が短いので、いくら長寿化が進んだとしても、人口の全体規模は出生率の上昇や外国からの若壮年人口の流入がない限り縮小します。このような全体の人口規模の変容は、人口を構成する人々の年齢構成やライフステージによって異なる社会的ニーズの違いとも関連してきます。社会保障制度や雇用制度、教育といった社会の諸制度は、人口を構成する人々がいかなる社会的支援を求めるかと関連しますが、制度が立ち上がった頃に想定されていた人々のニーズの傾向がマクロなレベルで変化し、さらに諸制度の前提となっていた個々人の生き方や家族のあり方は変容します。社会制度とは将来の様々なリスクを想定して未然に防ぐ機能を持ち合わせるべきですが、実際は、現実の変化に制度がついて行かないという状況が散見されます。

本書では、図1〔ウェブ掲載版では割愛〕に示すとおり、規模という観点から都市、地域、外国人のトピックについて、場の観点から職場、家族、そして病院・医療について、そして制度の観点から雇用と社会保障について、議論を展開します。



◆あとがき

本書はすでに何度か述べたとおり、これから着実にやってくる人口減社会、超がつくほどの高齢社会をどう受け止め、どのように積極的に展開するか、という観点から、これまでにない社会をいかにして構築できるだろうか、という問いから生まれた企画です。1950年代、60年代の奇跡的とも言われた日本の発展を後押しした「成長」という概念とは異なる新しい成長のあり方を模索して、超高齢社会を積極的に捉えていこうという心意気は、執筆者の間で緩やかな合意としてあったと思います。本書を終わるにあたり、各章を簡単に概観し、まとめの言葉を述べたいと思います。

「第1講 歴史と人口――歴史人口学からみる人口減社会」(鬼頭宏著)から本著の扉が開かれました。本講では人口減社会を長い歴史の観点から捉え、1970年代半ばに先進諸国の間で共通に進行した少子化に着目し、出生率が回復した国、ますます少子化が進行した国の背景にある社会文化的価値観について議論されました。日本や韓国は権威主義的な家族を特徴とします。夫婦間(家長)、兄弟間(長男)の序列を含む関係が家族において存在し、その関係性には入れ替え可能な柔軟さを持ち合わせていません。本章の最も重要なメッセージは、出生率まずありきではなく、将来に向けたビジョンがまず大事である、とするところです。一国の出生率の高低に一喜一憂する前に、人類のパラダイムシフトが必要なのだ、と力強いメッセージが発せられています。

「第2講 人口移動――都市と地域の人口問題」(佐藤泰宏著)では、人口問題を都市経済学・地域経済学の分野から議論を進めます。本章では人の移動とは偏重した形で進行し、大都市への人口集中と少子化がどう進行するかのメカニズムがわかりやすく述べられています。ここで最も興味深い視点は、政府は人の移動意欲、意思に極力介入すべきでない、とすることです。地方創生についてもそのきっかけはあくまで当該地方の人々が主役となって自らの意思で進めて行くものと、行政からの介入に警告を発します。若者の移動についても、東京への進学集中にストップをかけるため、東京近郊大学の定員を縮小することで東京への流入を妨げるような施策は望ましくないとします。その理由は、地域移動をはじめとして、人々の行動は積極的な選択によって規定されるべきとするところにあるからです。

第3講は「地方創生一人口減少社会と地方創生」(増田寛也著)と題して、東京一極集中の問題を地方創生の観点から議論します。テーマは第2講と共通するものの、その議論の仕方は違います。本講では、地方力の方程式を人材力、資源力、そして情報からなるとしていますが、方程式の根底にあるのは、あくまで地方自らが物事を起こそうとする主体性にあります。他力本願でなく、地方で生活する人々が企画し、地域力を高めようとすることから、地方創生は始まるというエールは第2講とも共通します。

第4講「希望――人口減少と労働問題」(玄田有史著)は、人口減少を労働問題から検討していきます。希望をキーワードに、ピンチだからこそチャンスがあるとする「逆転の発想」をもとに、どこにいても希望を見出し、実際に行動を起こそうとすることで、人口減に負けない地方を作ることができる、と強いメッセージが送られます。「希望活動人口」という興味深い用語が提示され、希望をもって実際に活動すること、これが人口減社会をポジティブに転換する起爆剤となるとします。ここでも、希望を見出すのはあくまでも「ひと」であることが強調されます。

第5講「働き方――人口減少社会における働き方を考える」(大沢真知子著)では人口減少社会を男女の働き方から検討します。ワークライフバランスを欠いた働き方は、男女格差を所与とした働き方を強いることになりました。その弊害として顕在化した一つが出生率低下であり、ひいては人口減少社会が到来したとも言えます。さらに、日本はセカンドチャンスのない社会でもあるとして、極めて硬直的な社会であると述べています。今直面する人口減少社会からの脱却を、男女平等を重視する社会規範を大きくシフトさせることに見出しています。ジェンダーにかかわらず、自分らしい生き方ができる社会の構築を訴えます。

第6講「若者支援――人口減少社会における若者支援のあり方」(工藤啓著)は、現代の若者が抱える問題を現場の立場から検討します。若者支援を雇われる就労の視点からのみ見ることの限界を訴え、起業支援や第二顧客モデルの展開等の新たなビジネス展開を示唆する内容となっています。在宅就労やテレワークなど、テクノロジーをとり入れた働き方を若者に提供する試みも紹介されています。さらに、様々な支援策を展開するにあたって、データ収集の重要性を訴えエビデンスベースの議論が求められるという指摘は、極めて重要です。

第7講「移民政策――人口減少社会における移民政策と日本の将来」(上林千恵子著)は、人口減問題を特に移民にかかわる議論から検討していきます。人口減少、特に労働力不足の議論に外国人労働者の受け入れは何度も議論されてきましたが、移民政策という枠組みで議論されたのは極めて限定的です。そこで、本講では外国人労働者受け入れについて短期的課題と長期的課題に分けて議論を展開します。短期的には日本語能力と不法就労者問題があること、長期的には、価値観や文化の違い、移民に関わる不平等問題、さらには老後に伴う社会保障制度の対応、といった具体的な課題が議論されます。

第8講「社会保障――超高齢社会の社会保障制度」(吉川洋著)は、超高齢社会と経済成長の問題を論じています。人口高齢化さらに人口減少は、決して経済の停滞と不可分に繋がっているわけではありません。イノベーションをもって経済成長を生み出すことが可能です。その一方で、急速に高齢化した今、財政赤字問題は避けて通ることができません。特に医療費は高齢人口が増えることで自然に増加していきます。その中、自己負担の増加は避けて通ることができず、同時に効率化を諮ってコストダウンする工夫も必要としています。本講では、高齢化問題を否定的にとらえるだけでなく、自己負担という形で責任をシェアしながら、イノベーションで経済成長を実現しよう、というところに超高齢社会へのエールを読み取ることができます。

第9講「医療―一日本とシンガポールにおける在宅医療と遠隔医療の展開」(武藤真祐著)は、高齢社会の未来の医療の在り方として、遠隔医療と在宅医療の具体例を紹介しながら議論します。オンライン治療を積極的に活用して、地方に一人で生活する高齢者への医療アクセスを改善しようとする試みは、生まれ育った土地に住み続けたいとする高齢者の気持ちを実現する一つの手立てではないかと思います。対面式の医療サービスをIT技術を通して提供していく試みから、これからの超高齢社会の新たな事業展開の可能性を垣間見ることができます。

最後に、第10講「人口と社会持続可能な成長型超高齢社会をめざして」(白波瀬佐和子著)では、少子高齢化を格差の観点から議論し、最後には全世代を巻き込み一人一人の恩恵が実感できるような形でのお互い様の仕組みを組み立てることを提唱します。

以上、本著を通して共通するメッセージは、超高齢社会の主役はあくまで人であるということ、また、自ら考えイノベーションを起こそうとする発想力、その行動力に技術革新。これらが成長型超高齢社会の成長を実現する鍵になっていくということです。他者から与えられて腰を上げるのではなく、国、地域、個人が自らの発想力、企画力を磨いて、これまで経験したことのない超高齢社会の成長モデルの構築に積極的に参画すべきでしょう、全ての世代が、それぞれの事情によって、さまざまな参画の仕方があり、そこでのダイバーシティを積極的な違いとしてうまく取り込み、発想の転換を後押しする社会こそが、これからの人口減社会を救うのだと思います。

本書ができるまでにはたくさんの方々にお世話になりました。まず、大変お忙しい中、本講義をお引き受けいただきました講師の先生方に、改めてお礼を申します。各テーマに関して第一線の先生方に参加していただき、トップクラスの布陣を組むことができました。特に、玄田有史先生には副塾長をお願いし、講師の先生方の依頼や講義の司会役等助けていただきました。卒業生室の藍原秀夫さんと綿貫敏行さんには、グレーター東大塾開講にあたって大変お世話になりました。

そして何よりも、10回の講義に熱心に耳を傾け、積極的に講義に参画してくださった塾生のみなさんにお礼を申します。特に、講義の後の質疑応答はとても充実していて、私自身大いに学ぶことが多くありました。さまざまなステージにある社会人のみなさんを塾生とする一連の講義では、学部や大学院の授業とは違ったスリル感を味わうことができました。最後に本書を担当してくださった東京大学出版会の阿部俊一さんにお礼を申します。

[書き手]白波瀬佐和子(東京大学大学院人文社会系研究科教授・社会学)

東京大学出版会

最終更新:2/28(木) 8:00
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