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【マンションが危ない(15)】 崩壊マンション、難しい取り壊し

3/8(金) 11:43配信

ニュースソクラ

新聞報道で重い腰あげた京都・野洲市

 今週、京都新聞が衝撃的な写真付きで「廃虚マンション」の問題を報じた。

 その廃虚マンションは、滋賀県野洲市の野洲川橋の西側に立っている。築後47年の鉄骨3階建て9室のマンションで10年ほど前から全室空き家だという。

 京都新聞はこう伝える。

 「昨年6月の大阪府北部地震で県道に面した南側の壁は全て崩れ落ち、鉄骨や部屋の中がむき出しの状態になった。3階廊下の柵や2階天井が崩落し、階段も腐食が進んだ様子が分かる。がれきが積み重なる場所から約3メートルの所には歩道があり、県道は乗用車やトラックが頻繁に通る。

 近隣企業の通報で状態を把握した市は昨年8~9月に2回、所有者への説明会を開いて危険性を伝え、自主解体を求めた。解体には所有者全員の同意が必要だが説明会に集まったのは9人中7人。残る2人は、実態がなく連絡が取れない法人名義の所有者と、呼び掛けに応じない個人の所有者という。

 所有者代表の片岡昭芳さん(75)は『7人の中では1日も早く解体しなければと思っている。今は弁護士に所有者特定を頼みつつ、法定代理人を立てることも検討中』と話す」
(2月17日、「廃墟マンション崩壊の危険 アスベスト露出、飛散の恐れも」、https://www.kyoto-np.co.jp/politics/article/20190217000077)

 誰も住まず、捨てられたマンションは、始末のつけにくい超粗大ごみと化す。廃虚マンションの所有者7人は「解体」したいと願っている。残りの1人は連絡がとれず、呼びかけに応じない所有者が1人。

 このコラムでも触れた「マンション建替えの円滑化等に関する法律(改正マンション建替え円滑化法・2014年12月施行)」を使えば、前区分所有者の「五分の四」以上の同意で、建物を解体して土地を売却、区分所有状態を解消できる。

 この制度を使えばよさそうだが、全9戸の8割は「7.2戸」。あと1人賛同しなくては解体したくてもできないのである。

 一方、野洲市は昨年9月、「空き家対策特別措置法」に基づいて廃虚マンションを「特定空き家」に認定している。

 しかし、市の住宅課は「行政代執行での取り壊しとなれば、業者への解体設計の依頼や議会の予算議決などに時間がかかり、解体は来年以降になる。所有者に費用請求しても、どこまで回収できるか」(前同・京都新聞)と苦慮する。

 市はアスベストの飛散を危険と認識しているものの「強制代執行」となれば「3000~4000万円」の解体費がかかるとして、躊躇していた。

 総務省の実態調査では、全国の代執行による取り壊しで自治体が費用を全額回収できたのは5件(10%)にとどまる。自治体の全額負担は13件(27%)。6割以上が自治体と所有者それぞれの負担となっている。

 野洲市の逡巡もわからなくはないが、周辺住民からは、台風が襲来するたびに廃虚の壁や屋根が散乱して車が出せなくなった、アスベストが飛び散り、あれだけ老朽化しているのになぜ取り壊せないのか、と激しい抗議の声が上がる。

 結局、京都新聞が報じた翌18日、山仲善彰・野洲市長は、従来の方針を変更し、「臨時議会を招集してでも工事費を予算化し、市民の安全を守る観点から代執行の手続きを進める」と解体着手を表明した。

 野洲市は、4月に空き家対策特別措置法に基づいて「取り壊し命令」を所有者たちに出す。所有者9人の合意で自主解体が行われない場合、議会に予算要求をして最短で11月には解体に着手する予定だという。解体費用は、なぜか当初の概算より高い、5000~6000万円と見込んでいる。

 野洲市のマンションが廃虚化した理由は定かではないが、建物の老朽化と、住民の高齢化という「ふたつの老い」が背景にあるのは間違いないだろう。

 建物が古くなって、修繕しなくてはいけないのに、管理組合の理事のなり手もなく、管理放棄の状態に陥ったのではないか。実際に管理放棄で建物や設備が著しく機能不全になった例は枚挙にいとまがない。

 たとえば、排水管が老朽化してつまり気味のところに身勝手な住民が料理に使った油を、そのまま台所で大量に流し、完全に閉塞。トイレの汚水が逆流して溢れ、もの凄い状態になったマンションもある。

 水道の給水管も錆びついて赤水しか出ず、住むに住めない。住民は櫛の歯が欠けるように1人、2人と出ていく。マンションはスラム化し、賃貸に出しても入居者はなく、やがて廃虚に……。そんな道行きが考えられる。

 私の知る限り、廃虚マンション自体は1990年代後半から大都市周辺にあった。ことの起こりはバブル崩壊など経済状況の悪化だ。同一マンションに競売物件が集中する。投資用の賃貸住戸を多数持っていたオーナーが、債務返済できなくなり、物件が競売されるのだ。

 そこに暴力団や、フロント企業が入り込み、一般住民が逃げる。管理会社も離れ、最後はヤクザも見捨てて丸ごと廃虚と化す。そんなケースがあった。いつの時代も景気変動はスラム化の引き金である。

 そこにマンションの慢性的な過剰供給と、ふたつの老いが重なり、事態はいよいよ深刻になっている。総務省調査では、現在、日本には820万戸の空き家があり、そのうち約6割が共同住宅だという。

 17年時点で築後40年超のマンションが73万戸。20年後には、これが352万戸に増えると予想される。スラム化、廃虚化とどう向き合っていけばいいのか。

 次回以降、具体的な取り組みを紹介したい。

■山岡淳一郎(作家)
1959年愛媛県生まれ。作家。「人と時代」「21世紀の公と私」をテーマに近現代史、政治、経済、医療など旺盛に執筆。時事番組の司会、コメンテーターも務める。著書は、『後藤新平 日本の羅針盤となった男』『田中角栄の資源戦争』(草思社)、『気骨 経営者 土光敏夫の闘い』(平凡社)、『逆境を越えて 宅急便の父 小倉昌男伝』(KADOKAWA)、『原発と権力』『長生きしても報われない社会 在宅医療・介護の真実』(ちくま新書)、『勝海舟 歴史を動かす交渉力』(草思社)ほか多数、『神になりたかった男 徳田虎雄』(平凡社)『木下サーカス四代記』(東洋経済新報社)

最終更新:3/8(金) 11:43
ニュースソクラ

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