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アカデミー賞作品賞『グリーンブック』ファレリー監督「笑いこそ、人をつなぐ人生の贈り物」

3/8(金) 21:00配信

Movie Walker

第91回アカデミー賞で作品賞をはじめ3部門を受賞した『グリーンブック』(公開中)。実話をもとに“人種を超えた友情”を描く物語が、世界中を感動の渦に巻き込んでいる。監督を務めたのは、『メリーに首ったけ』(98)や『愛しのローズマリー』(01)、『ふたりにクギづけ』(03)など超ド級のコメディを手がけてきたピーター・ファレリー。初来日を果たしたファレリー監督は「『僕にとっての初めての人間ドラマだ!』と意気込んで撮影に臨んだ」と明かすが、大きな愛と笑いでシビアな問題を包み込む姿勢は一貫しており、「撮ってみたら、やっぱりあちこちに笑いが生まれる物語になった」とニッコリ。「僕は笑いが大好き。笑いこそ、人と人とをつなぐ“人生の贈り物”だと思っている」と心を込める。ヴィゴ・モーテンセンへの感謝を語ったアカデミー賞授賞式の裏話、笑いにこだわる理由までを語ってもらった。

【写真を見る】アカデミー賞授賞式にて、両手でガッツポーズ!のファレリー監督

本作は、1962年の差別が色濃い時代を舞台に、孤高の天才黒人ピアニストのドクター・シャーリー(マハーシャラ・アリ)と、彼に雇われたイタリア系用心棒兼運転手のトニー・リップ(ヴィゴ・モーテンセン)が旅に出る姿を描く人間ドラマ。第91回アカデミー賞では作品賞、助演男優賞(マハーシャラ・アリ)、脚本賞の3部門を受賞した。

作品賞の受賞スピーチでファレリー監督は「すべてはヴィゴから始まった!」と名前を挙げて感謝を述べた。その理由について「作品賞で僕たち全員が賞を受けたけれど、ヴィゴは主演男優賞の受賞が叶わなかった。でもこれは、ヴィゴなくしては作ることができなかった映画なんだ」と語る。というのも「脚本段階では、どの制作スタジオも興味を示してくれなかった」そうで、「まったく面識のなかったヴィゴに『これまでのあなたとはちょっとタイプの違う作品であり、役柄。いままでの作品を忘れてほしい。この役はあなたにぴったりだから、ぜひ脚本を読んでほしい』とメールしたんだ。そうしたらヴィゴが引き受けてくれて、『ヴィゴが出るなら』とマハーシャラもやりたいと言ってくれた。2人の名前があって初めて、スタジオが興味を示してくれたんだ」とまさにヴィゴから企画が動き始めたという。

ヴィゴにとっても、無教養でガサツだけれど、懐深いイタリア系用心棒のトニーは、新境地と言える役どころだ。「ヴィゴしか考えられなかった」というファレリー監督だが、「僕が世界で一番好きな役者で、いま生きている役者のなかでベストだと思う。『イースタン・プロミス』を観た時に『こんな演技力を持った人はいない』と思ったし、トニーを素晴らしく演じてくれると確信していた」と吐露。「『いまヴィゴの映画を撮っているんだ』というと、僕の周りの女性陣が『アイ・ラブ、ヴィゴ!』ってみんな目を輝かすんだ(笑)。『ヴィゴだったら、浮気してもいい!』ってね。ある土曜日の夜に『なにしてる?夕食に行こうよ』と誘ったら、ヴィゴは『いま詩を書いていたんだ』と答えたんだ。ものすごくロマンティックな男なんだよ」というように、「素晴らしい役者だと思っていたけれど、実際に会っても絶対に期待を裏切らない男」と大絶賛。

「期待を裏切らない男」というのはドクター・シャーリーを演じたマハーシャラも「まったく同じ!」と信頼感を寄せ、「マハーシャラは、まるでダライ・ラマのような人。聖人のような、心の清らかさを持った人だ。ものすごく落ち着いていて、軸がまったくブレない。最高のコンビネーションが叶ったんだ」と喜びを隠せない。そんなファレリー監督がとりわけ、トニーとドクター・シャーリーのシーンで心を動かされたのは「ドクター・シャーリーが初めて、もろさを表すシーン」だという。

「ドクター・シャーリーがあるトラブルに巻き込まれてしまい、トニーに謝罪するシーンがある。ドクター・シャーリーは『もうトニーは自分のもとを去ってしまうだろう』と恐れている。ドクター・シャーリーが初めてもろさを表す場面を、マハーシャラが素晴らしく演じてくれた。一方のトニーは困惑しているけれど、『心配するな、世の中は複雑なものさ』と声をかける。彼らのやり取りを見ていて、本当にものすごくいいシーンだと思った。ヴィゴとマハーシャラがその瞬間をリアルなものにしてくれたんだ。映画を撮っていて一番うれしいのが、紙に書かれていたはずのものが、命を吹き込まれてリアルなものとして目の前に現れた時。まさにそのシーンは、ズキンと来た瞬間だよ」。

「コメディばかり撮ってきたから、賞に絡むなんて初めてのこと。すべてがサプライズだよ」と口にするように、実話をもとにした感動ドラマはファレリー監督にとっての新境地とも言える。ファレリー監督自身「『僕にとっての初めての人間ドラマだ!』と意気込んで撮影に臨んだ」というが、「撮影に入ってみたら、役者さんたちの生み出すものから、笑いがたくさんあふれてきた。撮りながら『この物語、ものすごいユーモアがあるじゃん!』と気づいた。そういった意味では、これまで僕が作ってきた作品とあまり変わらないと思うし、いままでのコメディ以上にものすごく作りやすかった」と胸の内を語る。

笑いにこだわるのは、それが人生でもっとも大事なエッセンスだと感じているからだという。「“笑い”というものは、人生にハピネスを与えてくれるもの。お葬式に行って、悲しみながらも『こんなことがあったね』と笑いながら、故人を偲ぶこともあるだろう?僕は笑いこそ、人と人をつなぐ“人生の贈り物”だと思っている。僕の育った家庭環境のおかげかもしれないね。どんな時でも笑いの絶えない家庭だったし、なにより周囲の人が笑っているのを見ること以上に、最高なことはないと思っている」。

これまでの作品群を見ても、劇中にハンディキャップを持つ人々を登場させるなど、差別や偏見といったシビアな問題を愛と笑いと共に描いてきた。「人は、みんな同じ。話し合うことさえできれば、きっと共通点を見つけて、人と人はつながれると信じている」と力強いメッセージを送るファレリー監督。「僕はとにかく人間が大好きなんだ。いつも“すべてにオープンでいたい”と思っている。“自分とは違う”と感じる人に対して、閉じてしまうことは簡単。でもオープンにしていれば、予期せぬいろいろなことが起こるものなんだ。オスカーだって獲れちゃうんだよ!」とくしゃっとした笑顔を見せる。楽しく、温かく、優しく人を見つめる。ファレリー監督の人柄は、『グリーンブック』という映画そのもの。壁を乗り越えた先に見える友情、そして希望を、たっぷりと感じてほしい。

(Movie Walker・取材・文/成田 おり枝)

最終更新:3/8(金) 21:00
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