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「災害時要配慮者」名簿作成は9割超も…課題山積

3/9(土) 12:40配信

産経新聞

 大規模災害が発生した際、避難に支援が必要な障害者や高齢者らは「災害時要配慮者」とされ、東日本大震災の教訓を踏まえ平成25年に改正された災害対策基本法では、各自治体に要配慮者の名簿作成が義務づけられた。現在、名簿は全国の9割超の自治体で作成されているが、このうち具体的にどう支援していくかなどを示す避難計画を策定している自治体は約半数にとどまる。東日本大震災から11日で8年。南海トラフ巨大地震など新たな大災害発生の危険性が指摘されている中、対応は急務だ。

 総務省消防庁によると、30年6月1日現在、全国1739市町村の97%にあたる1687市町村が、すでに要配慮者の名簿を作成している。

 しかし、このうち704市町村は、津波や大雨などが発生した際、実際に要配慮者を支援してくれる避難支援者や具体的な避難経路などをまとめた避難計画を策定していない。名簿と異なり、避難計画の策定までは災害対策基本法に義務づけられていないためだ。同庁は「まずは名簿の作成を急いでいる」と説明する。

 同庁などによると、支援者には個人のほか地域の民生委員、消防団などが想定されている。ただ、命を守るという責任の重さから敬遠されがちで、要配慮者の家族も「他人に迷惑をかけることはしたくない」「家族内で助け合える」と周りに支援を求めない傾向がある。プライバシーの観点から名簿が支援者へ提供されることに抵抗を感じる人もいるという。

 23年の東日本大震災では、避難に必要な情報や、必要な避難支援を要配慮者が受けられなかったりしたケースが多かった。

 日本障害フォーラム宮城の調査などによると、震災の犠牲者のうち約6割が65歳以上。障害者の死亡率は全体の死亡率の約2倍に上った。

■脳性まひの双子抱え…避難どうすれば

 「災害時要配慮者」の中には、家族の情報を他人に知られることに抵抗を感じ、地域から支援されることをためらう当事者もいる。

 「おかえり。学校どうやった?」

 京都府長岡京市の住宅街。1軒の民家前に止まった福祉車両から、2台の車いすが下ろされた。市内の特別支援学校高等部に通う双子の上田晴日(はるひ)さんと晴太(せいた)さん=いずれも(16)。母親の裕子(ゆうこ)さん(52)が声をかけると笑みが広がる。

 2人は1歳で脳性まひと診断された。1人では座ることも歩くこともできず、自宅ではベッドで寝たきりの状態だ。夫が単身赴任のため、普段は裕子さんが車いすからベッドまでの移動を1人で担っている。

 昨年、裕子さんが腰を痛めたことから電動リフトを導入。負担は減ったが、災害時はどうなるのかという思いは常に抱えている。

 「リフトの電源が確保できないと、1人では車いすに乗せられない」

 道路状況などで車が使えないと、家から避難所まで1人で車いす2台を押しながら3人分の荷物を持つことになる。避難所に到着できても、介助が必要な2人と避難生活を送ることに不安が募る。

 長岡京市は災害対策基本法に基づき要配慮者の名簿を作成しているが、名簿登録の条件として提示されているのが、避難を支援してくれる支援者の明記だ。災害時は地域の共助が前提という考え方から、市は「遠くに住む親戚ではなく、できるだけ近くに住んでいる人を選んでほしい」としている。

 晴日さんと晴太さんは、裕子さんが支援者を指定していないため名簿に登録されていない。

 「災害時にはみんな自分のことで手いっぱいだろうし、ましてや近所の人には支援者になってほしいと頼みづらい」と裕子さん。「横のつながりをつくるのが難しい人もいる。行政には普段から地域に入ってきて、要配慮者とその家族の実情を知ってほしい」と要望する。

 大規模災害時は行政機関も被災する可能性があり、個人のニーズに応じたきめ細かな公的支援は期待できない。要配慮者の避難に詳しい関西大社会安全学部の山崎栄一教授(災害法制)は「普段から高校生や元気な高齢者など支援の担い手を増やし、共助のための地域コミュニティーの醸成が重要。地域へ家族のプライバシーを提供することに抵抗を感じる人にも丁寧な説明が必要だ」と指摘している。(小川恵理子)

最終更新:3/9(土) 12:40
産経新聞

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