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「介護は無理せず」認知症の母との12年、エッセーに

3/14(木) 9:22配信

産経新聞

 編集プロダクションやギャラリーを主宰している大阪市の酒井章子さん(59)が、認知症の母、アサヨさん(91)との生活をつづったエッセー「認知症がやってきた! ママリンとおひとりさまの私の12年」を出版した。家族だからこそ、実体験だからこそ話せる“本音”が、多くの人の共感を呼ぶ。(木村郁子)

■毎日ジェットコースター

 アサヨさんに認知症の初期症状が出たのは平成18年。最初の2年間は、アサヨさんのいる実家と大阪を行ったり来たりしながら「遠距離介護」をしていたという。

 実家に行くと、冷蔵庫には何十本のマヨネーズ。食事はスーパーの総菜。2階に上がって衣装ケースを見ると、同じようなブラウスが山のように…。嫌がるアサヨさんを、大阪に遊びに来るよう仕向け、ようやく同居に踏み切った。

 「暴言、徘徊(はいかい)、妄想、興奮、昼夜逆転…。母は本当にさまざまな症状が出ました」と、酒井さんは介護生活をしみじみ語る。アサヨさんとの暮らしは、まるで「ジェットコースターのよう」だったとも。

 施設への入所も考えたが、デイサービスセンターから“脱走”し、警察から電話がかかるような状況では、かなわなかった。

 「同居を少しでも先延ばしにして、自分の生活を守りたかっただけかもしれません。無駄なあがきをせず、腹をくくってさっさと諦めればよかった」

■「カモ時代」から「楽勝時代」

 本は、酒井さんが、認知症に付随する症状に振り回されては、そのたびに対処方法を見つけていく過程を7章に分けて、追いながら進む。名付けたネーミングが印象的だ。

 最初、アサヨさんがつくその場しのぎの嘘にだまされる「カモ時代」(第1章)から始まり、妄想や暴言、ぶち切れモードに心を痛ませる「猛獣使い時代」(第3章)を経て、認知症の症状が進んだことにより、かわいいおばあちゃんになった「楽勝時代」(第6章)に行き着く。

 別居時代、認知症に笑いが効くと聞けばアサヨさんが笑うようなはがきを作って出し、同居時代には、昼夜を問わず家を出ていくアサヨさんを、まるで探偵のように尾行しながら見守った。アサヨさんの家出回数は7年間で約2340回。距離は約3千キロにもおよび、ドキュメンタリー映画にもなった。

 楽しいイラストやユーモラスな記述が多いが、介護、同居生活の現実はシビアだ。「介護はきれいごとではいかない」という言葉に実感がこもる。

■全国の家族に向けて

 「今(介護の)渦中にある人のために」と本を書いた酒井さん。介護を続ける全国の家族へのメッセージも込められているのが終章「これからの時代」だ。

 例えば、施設へ入所させるかどうかを悩む家族もいるだろう。その場合は「専門スタッフさんが素晴らしいプロの仕事をしてくれる」として冷静、客観的に判断するようアドバイスしている。家族が介護する場合でも、心労なども考えて「手抜き上手」であるよう求めている。

 今年に入り、アサヨさんは入退院を繰り返すようになったものの、穏やかに過ごす日も増えたという。酒井さんは、アサヨさんとの12年に及ぶ介護生活を「ママの登場は、能天気でだらしない私の暮らしに見事な『喝(かつ)!』を入れてくれた」とポジティブに受け止める。その姿勢が介護生活を続ける家族に勇気を与える。「認知症だって母の人生のひとつ。それを見続けていくのは私の役割」

 ◇ 

 産業編集センター刊、税込み1404円。

最終更新:3/14(木) 9:26
産経新聞

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