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新幹線と飛行機の壁 「4時間」「1万円」より深刻な「1カ月前の壁」

3/15(金) 7:30配信

ITmedia ビジネスオンライン

 2019年3月8日、元いすみ鉄道社長の鳥塚亮氏のコラム「新幹線の壁 本当に越えなければならないのは『4時間の壁』ではなくて『1万円の壁』という現実。」が話題となった。ざっくりと要約すると、「新幹線の高速化は重要かもしれないけれど、それだけでいいの? 飛行機に速度で対抗するよりも、価格を下げる努力をしたほうがいいよ」という提言のようだ。

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 このコラムだけではなく、コラムに寄せられた賛否両論の感想も興味深かった。賛成意見の多くは「新幹線は他の交通機関に比べて高い、安くしてほしい」で、否定意見の多くは「価格だけの比較に意味があるのか」だ。私見を述べると、「安さは正義」という価値観は理解できる。私も同じ商品やサービスだったら安い方を買いたい。しかし、商品やサービスの内容が異なれば、価格の比較そのものに意味はない。鳥塚氏の主張も賛否の意見も全て正しい、という結論になる。八方美人かもしれないけど。

航空業界の営業施策が洗練された理由

 鳥塚氏は英ブリティッシュ・エアウェイズの営業部門を経験された方で、航空業界の営業施策やマーケティングに詳しい。いすみ鉄道社長時代の鳥塚氏のブログでは、しばしば航空業界の経験が語られていた。これまで国際航空業界の仕組みを分かりやすく語る人は少なかっただけに、その内容はとても興味深かった。たいていは「洗練された国際航空業界と比較し、国鉄以来のJRのやり方にダメ出しする」というパターンが多く、JRに不満を持つ人々には痛快だ。

 そして私は鳥塚氏の航空業界の経験談を読むたびに、亡父の言葉を思い出す。父はドイツのルフトハンザ航空の営業部門で勤務していた。1997年に早期退職制度を利用するまで約28年間の在籍だった。航空チケットは在庫を持てない商品だから販売の工夫や努力が必要だとか、国際航空運賃は高いと言うけれど、同じ距離をバスで移動したら1キロあたりの単価は同じくらいだとか、定価で3割の客を乗せたら1機あたりの損益分岐点達成だとか。今では相場も事情も違うだろうけれど、そんな話を聞かされた。

 自宅にも昼夜問わず電話がかかってくるし、帰りは遅いし、週末は接待ゴルフばかり。仕事が楽しくて、営業接待費などを自腹で払ってしまうから、家には最低限の金しか入れない。典型的な昭和のサラリーマンで、家庭の父親としてはあきれた人格だけれど、私は営業マンとしての父を尊敬している。忌野清志郎の歌のように「昼間のパパはちょっと違う」のだ。

 航空業界の施策の変遷を一言で表すと「温故知新」だ。これまで築き上げた施策を保ちつつ、格安航空会社(LCC)の台頭など、新しいサービスも生み出した。それができた理由は自由化と競争だ。78年に米国で国内航空業界の規制緩和が行われ、航空業界は激しい価格競争に突入した。それが国際航空にも波及し、日本でも航空規制緩和が行われた。航空業界は買収と破産の洗礼を受けて現在がある。今の航空サービスでさえ不満を持つ人はいるだろうけど、規制緩和前よりはずっとマシだ。

 日本の鉄道はどうかと言えば、87年に国鉄が分割民営化されJRになった。これは規制緩和や自由化や競争とは関係ない。大きな嵐ではあったけれども、単純に破綻した組織を分けただけだ。国の様子をうかがう鉄道からお客さま本位の鉄道になったけれど、サービスの根幹は国鉄時代と変わらない。競争がなく、改善する必要がなかったからだ。鳥塚氏が「大好きな鉄道がサービスで航空に負けている」と感じる理由はココだろう。

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