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働き方改革と食品ロスに主婦目線で挑む 100食限定の「佰食(ひゃくしょく)屋」

3/15(金) 8:28配信

産経新聞

 1日100食しかメニューを提供しない飲食店が京都にある。名前はずばり「佰食(ひゃくしょく)屋」(京都市右京区)。連日大勢の客が詰めかける人気店にもかかわらず、なぜ100食なのか。秘密を探ると、ワークライフバランスの充実を願い、「もったいない」の精神を大切にする“主婦の知恵”に裏打ちされた経営戦略が見えてきた。

 京都・阪急西院駅から徒歩5分。繁華街から離れた住宅街の一角にある「佰食屋」。昼時には少し早め、午前11時半でも店内は満席。外国人観光客の姿もある。

 メニューは国産牛を使ったステーキ丼やハンバーグ定食(いずれも税別千円)など3種類のみ。同店の中村朱美社長(34)は「食品ロスを抑えるための工夫の一つ」と話す。

 肉は同店のほか京都市内の系列店舗「肉寿司専科」、「すき焼き専科」の計3店舗で無駄なく使い切る。ステーキ丼にはウチヒラ(もも肉)、それ以外の部位はミンチにしてハンバーグに。肉寿司専科ならウチヒラは寿司(すし)、硬いスジは一晩煮込んで軍艦の上に載せる-といった具合だ。

 余った食材の廃棄が問題となっている飲食業界。しかし飲食店での勤務経験がなかった中村社長は「この部位は使わないから、と捨てるなんて、もったいなくて考えもしなかった。食材に無駄なんてない」と断言する。残った食材で献立をやりくりする主婦感覚を延長させ、問題を解決した。

 平成24年、11月29日(イイニクの日)にオープンした佰食屋。独特の経営手法と味の良さから話題を集め、一時は長時間待つ客の列が店の外にまで続いた。今では整理券を発行し、店先で待つこともなくなり、ほぼ毎日100食を売り切っている。

 前職は専門学校の広報担当だった中村社長。出張が多くて、土日が潰れることもたびたび。仕事を抱え込みがちで、不動産会社に勤めていた夫の剛之(たかゆき)さん(47)とも休日が合わなかった。

 「ゆくゆくは出産、子育てもと願っていたが、今の働き方では両立ができない。家族との時間を大切にしたい」と、剛之さんとともに起業を決意。料理上手な剛之さんの得意メニューだったというステーキ丼は、中村さんも「死ぬ前の最後の晩餐(ばんさん)はこれ」と話すほど、思い入れが強い一品だ。

 飲食店の多くは昼夜の接客に追われ、従業員は帰宅が遅くなりがち。提供を100食に限定したのは、従業員が、家族と夜の食卓を囲むひとときを持てるようにしたかったからだ。

 自身も4歳と3歳の姉弟を育てる母親。脳性まひで生まれた長男のリハビリもしなければならない。「誰もが夜早く帰れるように100人に売り切れば、その日の仕事はおしまい」(中村社長)。転職してきた従業員からも「子供をお風呂に入れることができた」と、喜ばれたという。さらに、今年中にオープンする新店舗は、日曜を休日にしたいと考えている。休日がかき入れ時の飲食店としては異例の決断。「日曜日は、保育所や学童保育も休み。自分たちはもちろん、やりくりに苦労する従業員も多いはず」と話す。

 食品ロス、人手不足、ワンオペ勤務(従業員が1人で店を切り盛りする)-と飲食業界をめぐり暗いキーワードが多い中で、中村社長が夫婦で始めた店は、常識を大きく覆し、働き方をまさに“改革”しそうだ。

 「仕事は人生の目的ではなく、ハッピーに生きるための手段。ここを間違えると本末転倒になる。私たちの仕事で、日本の働き方に一石を投じたい」

 ◇

 京都市右京区西院矢掛町21。午前11時~午後2時半(ラストオーダー)。水曜定休。075・322・8500。

■キーワードは「革新力」

 「敵は己の中にあり。もうけたいという葛藤もあるが、やらないと決めているので」

 もっと利益を追求したいと思わないのか、との不躾(ぶしつけ)な質問に、中村社長はきっぱり言い切った。背景にあるのは「従業員の暮らしを守る」という強い思いだ。ゆくゆくは、さらにワークライフバランスを考慮した業態のフランチャイズ展開も予定しているという。中村社長の挑戦は、自社の従業員だけでなく、日本の働き方を大きく変えるだけのパワーを秘めている。

 (木ノ下めぐみ)

最終更新:3/15(金) 8:34
産経新聞

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