ここから本文です

西川貴教「今年は自分がやるべきか悩んだ」 “ご当地音楽フェス“が地元に根付いた先

3/16(土) 11:00配信

エキサイトミュージック

アーティスト・西川貴教が発起した音楽フェスティバル「イナズマロック フェス(以下:イナズマ)」が、今年も開催される。地元・滋賀県のふるさと観光大使でもある彼が主催する同フェスは、琵琶湖の水質保全と地域振興をテーマに、毎年9月に草津市烏丸半島で行われている。2018年の10年目は3日間で15万人を動員。「イナズマ=滋賀」のイメージも強く、街の活性化や観光客の増加など、多面での経済効果をもたらしている。

最近多く目にするようになった“地方活性目的”や“アーティスト主催”のロックフェス。そんななか、このイナズマはとりわけ黎明より始動。地元行政と一緒に作り上げ、今や県の年間催事のひとつとなった。そのおかげか、ノウハウを学びに毎年多くの地方自治体が訪れるほどだという。

ここまで地元行政と一体となって地方活性化を意識し、成功しているロックフェスは他にはないだろう。とはいえ、意外にも「11年目の今年、自分がやるべきなのか心底悩んだ」と語る西川。そこには、このイナズマが他のフェスにはない独特の形態を成しているが故の理由があった。

「このフェスを今後も続けていくべきなのか?」に行き当たった

――イナズマも昨年10年目の節目を迎え、今年は新たなフェイズが期待されます。

西川貴教(以下、西川):とはいえ、当初は11年目の今年、「自分がやるべきなのか」は本当に悩みました。今回の開催を踏み切るには、かなりの覚悟が必要だったんです。

――それは10年やり遂げた達成感からですか?

西川:いや、それとは違っていて。「もう自分がやらなくてもいいのかな……」と。

――それは?

西川:初開催から3年までは勢いで進められて、5年~10年はプロジェクトとして強い意志が必要となってくる。そして10年より先となると、それなりの覚悟が必要となってきますからね。腹を括る覚悟とでもいいますか。それを改めて自分に問いかけ、結論を出すのに時間を要してしまって。

――では、その覚悟を決めて今年の開催と相成るわけですね。ちなみに、西川さん自身はこのイナズマにおける、“変えていかなくてはならない部分”と“残さなくちゃいけない部分”は何だと考えますか?

西川:変えちゃいけないことは、「来ていたただいたお客さんに常に楽しんでいただく」こと。そして変えていかなくてはいけないのは、「それをより良いものにしていく」ことでしょうか。行政との取り組み方も含め。

――行政ですか?

西川:イナズマが他の音楽フェスと圧倒的に違う面は、行政のみなさんとの取り組み方でもありますから。

――確かに、街ぐるみでフェスを盛り上げたり、作り上げられている印象はあります。

西川:僕自身、フェスの楽しさや内容を追求するのはもちろん、その先にあるものをどう感じ取っていただけるか、という考えも常にあって。その最たる例が、イナズマの収益の一部を地元のことに使っていただくっていう発想だったんです。

――その発想の起源は?

西川:僕、海外を訪れた際に美術館や博物館を巡るのが好きなんです。その際にチケットを購入すると、そこに「このチケットの何%は○○に寄付されます」や「○○の維持費に使います」などが明記されていることがあるんです。それが押しつけがましくなく、きちんと基金になっている。それを基に施設を維持したり新たに作ったり、改善したり発展させるために自分の購入代金の一部が使われていく。そこに着目したんです。

――素晴らしいアイデアだと思います。日本のフェスの数が多いなか、その基金がチケットに含まれているのは唯一なのでは?

西川:日本だと国民性からか、善意に対して躊躇しがちじゃないですか。そこに勇気が要る。だったらそんな勇気を必要とせずにみんなが誰かのためになることを始められる。そんな発想がきっかけでした。それを10年も続けられた。それは、イベントの規模の拡大や動員の記録更新よりも、僕にとって意義のあることで。その意思がみんなに伝わるのであれば、別にこの方法じゃなくてもいいのでは、との想いもあったりしましたが、そんな考えを巡らすうちに、先ほどの「このフェスを今後も続けていくべきなのか?」に行き当ったんです。

――それはひとつの役目の達成感からですか?

西川:それもありましたが、この10年やってきて、自分の予想以上に街や人が変わってくれたことに対してが大きいです。それが実感できて、もう僕がどうのってものじゃなくなっている。そんな頼もしさを覚えて。僕がこのフェスを行う際に最初に構想していた、「後々は街や人のためのフェス」に実際になれていましたから。

――当初こそ自身だったけど、今やもう滋賀県が主催でもいいんじゃないか、と。

西川:そうそう。もう県全体の観光キャンペーンの一部でもいいんじゃないか、って。実際、既に滋賀県の催しもののひとつとして紹介していただけているし。今や完全に街の人のものになっている。僕の甥っ子や姪っ子にしても、小さな頃から身近にイナズマがあったりするし、他県の人たちからも「どこ出身?」と聞かれて「滋賀」と答えると、「ああ、イナズマをやっているところね」と返ってくる。ありがたいことに、既にそういったレベルになってくれていて。

これはもう僕がどうのこうのではなく、続けていくことで今度はその子たちが観る側・聴く側から、作る側・出る側になっていく。その受け皿を僕たちは作っていけばいいし、そんな意義や役割にどんどん移っていくんだろうなと考えているんです。ある意味それは、僕が初年度に、“いつかは……”と思い描いていたものでもあったし。

――では、立ち上げ当初はその辺りを目標に?

西川:漠然とですが。このイナズマは称し方こそフェスですが、僕的には「街のお祭り」を作っている感覚で。祭って、その発起人や動機、起源っていい意味で分からなくなっていくじゃないですか。「伝説では誰々が……」といった具合に(笑)。200年、300年続いていったとしたら、そんなものになってくれていたらなって。それぐらい意味のあるものを作りたかったし、それができている自負はあります。

行政の協力のもと「音楽フェス」と「町おこし」が共存

――今ではよく目にしますが、アーティストが主宰するフェスの先駆けでもありますもんね。

西川:今も増えているし、数も多いですもんね。だけどここまで行政としっかりと組んで、巻き込んでいるフェスは他に無いでしょう。本来行政の方は、音楽フェスによる「音がうるさい」「交通が混雑する」「治安が悪くなる」などの苦情を受け、フェスを指導していく関係値でしょうから。そこにはある種、行政は責任を背負わない面もあっただろうし。それだと街や人は変わらない。仕組みを作る側の行政が率先して取り組んでいく。それに対して僕自身もキチンと物事を負っていく。それが双方両立していることで、このフェスは成り立っている面もあって。それもあり、全国多々近似のフェスやイベントはあるけれど、イナズマみたいな取り組み方や関わり方はほぼ皆無でしょう。

――音楽フェスと町おこしが合わさり、かつ行政の支援や一緒に共存しているフェスは類を見ません。

西川:ですよね。それもあり、毎年色々な地方や海外からも見学に来られます。「うちもやりたいので参考に」とか、「どうしたらこのようなフェスが成立できるのか?」と。ここまでアーティストと行政、マネジメントなどが一体となり、成立しているフェスは他に無いようで。逆にそのノウハウや仕組みもオープンにしています。「僕らはこうやって運営しています」と。なのでこのような取り組みや運営で分からないことがあったら何でも聞いてください。

――こうなるともはやコンサルの域ですね(笑)。

西川:実際、これを参考にフェスを始めたアーティストも何組かいらっしゃるみたいで。それは凄く嬉しいです。それが上手くいき、どこかの街や誰かの役に立っているのであれば、このフェスを始めた冥利に尽きるというものです。そのような存在になれることの方が、自分にとってやってきた意義がありますから。

――西川さん的には「滋賀の場合はこうだけど、このような関わりや活性を全国各地で増やしていきたい」と?

西川:ですね。イナズマも今後も派生的なイベントがどんどん増えていくでしょうし。今後も日本を始め海外でもこのような取り組みを行う際の参考や見本のフェスに成れたらなと。今後も発展や進化を楽しみにしていてください。

――イナズマはこれからのアーティストにとっても素晴らしい登竜門的な役割を担っている印象があります。

西川:今回の僕のソロアルバムにしても、若手のクリエイターの方と一緒に作り上げた楽曲も幾つかあって。それらはイナズマをやっていたが故でもあったし。イナズマ自体、一つには若手のフックアップや機会を作ってあげたいとの想いもあったりしますから。

――中には、当初は小さなステージからスタートしつつ、今や大舞台に立っているアーティストもたくさんいます。その若手が成長するのを見ていかがですか?

西川:頼もしいですね。最初はフリーステージに出てもらって、上を目指して頑張ってくれたアーティスト達が、メインステージのトリを務めてくれた場面を観たり、イナズマに出たり、観たりしているなかで、それをきっかけに「自分でもこういったフェスを作ってみたい!」と思い立ってくれたり、始めたりしたアーティストやバンドもいたり。フェスに限らず、自然とそこからの縁で「次、何か一緒にやりましょう!」「次、こんなことをしましょう!」との声かけやアイデア、バンド同士の繋がりが生まれたりもしてますから。すべてがいいように結びついたり、繋がったりしてくれている環境は頼もしい限りです。

――今年も9月21、22日に行われますが、最後にそこに向けての意気込みをお聞かせください。

西川:今の自分を形作る上でイナズマは欠かせないものになっていますし、ある意味、様々なものの起源でもあるんです。そんなフェスが、きちんと運営され、楽しんでもらえるものになっていくことが今後重要になってくるでしょう。やはりある種の覚悟を持って始める11年目でもあるので、新たな一年になるのと同時に、新たなリスタートにもなる予定です。ぜひそれを目の当たりにしていただきたいです。

取材・文/池田スカオ和宏

ikeda

最終更新:3/22(金) 14:00
エキサイトミュージック

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事