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FRB、ECBの利上げ先送りには副作用も

3/18(月) 13:01配信

ニュースソクラ

【経済着眼】減速目立つ世界経済 最も危険なのは米国の資産バブル

 年明けのFRBの事実上の利上げ宣言撤回でニューヨーク株式市場は下落幅の6割ほど戻した。そのあと、ECBでは欧州景気のスローダウンがいよいよ明らかになり、年内利上げの見送りの声明を出した。

 ドラギ総裁が退任前の利上げがなくなった。中国でも、インフラ投資の減少や米中貿易戦争の影響で景気が急速に悪化するなかで、2.5兆元規模の財政出動に加えて中国人民銀行は昨年から預金準備率を5回引き下げて本格的緩和も視野に入ってきた。

 もともとはFRBが昨年12月に19年中2回の利上げを明言し、ECBも昨年末に量的緩和を終了して今年夏には利上げを予想する向きが大半であった。中国も債務が累増を続けることに脅威を感じた習近平政権が地方政府のインフラ投資やシャドーバンキングの抑制に乗り出していたのを急転回せざるを得なくなった。

 減速が目立ってきた世界経済を再び持続的な成長経路に乗せるための各国中央銀行の方向転換は市場からも歓迎されている。これで世界中の投資家が中央銀行に救われて、景気も持ち直せば、めでたし、めでたしなのだろうか。

 何事にも光と影がある。米欧、中国の中央銀行による金融緩和の継続、低金利の長期化は世界全体でGDP比240%にまで膨らんだ過剰債務問題の解決を引き延ばすことになった。むしろ、いったん投資家の間でFRB,ECBの利上げ等に対して募ってきた警戒心が薄らいだことは将来の金融不均衡を大きくする方向に作用しよう。

 振り返ってみると、2008~09年のグローバル金融危機以降、ほぼ10年に亘り世界的な超低金利時代を迎えた。超低金利を続けるために各国の中央銀行は潤沢に流動性を供給し続けた。この結果、投資家や企業家は高水準の債務でも安心して積み上げることができた。

 投機マネーの流入により不動産、株式などの資産価格が世界の主要都市で高騰を続けた。さらに資産価格の上昇そのものが借り入れ水準の増加を招き、安易なリスクテークに繋がっていった。

 個人的には米国の資産バブルが最も崩壊の危機にあると思う。ニューヨークのセントラルパークを見渡す高層マンションのペントハウスでは一室1億ドル(約110億円)もするのが珍しくもなくなった。不動産もさることながら民間企業の債務累増に対する警戒感が足りないように思われる。

 グローバル金融危機後、米国では危機の根源となった住宅ローンを中心に個人債務は減少したものの、民間企業債務は一貫して増加してきた。とくにレバレッジローン市場という高水準の債務を既に積み上げている企業に対するローンは1.3兆ドルの規模に達している。少しでも利回りを取りたい投資家や銀行は財務制限条項(コベナンツ)と呼ばれるような、例えば流動性比率が一定水準を下回るような場合には償還する、といった条項を大幅に緩和することで投資対象を広げてきた。

 レバレッジローンと並び、債券市場におけるBBB(トリプルB)企業の起債急増にも目を向けるべきだ。たしかに格付けがBBBであればぎりぎり投資適格である。しかし、BBBランクの格付けというのは一つ落ちればジャンク債ということを意味する。BBBのレーティングの市場規模は2兆ドル強の規模に達しており、米国の投資適格市場の実に3/4を占めている。かつては社債市場の半分以上はAAAからA(シングルA)企業が占めていたのとは様変わりである。

 世界経済が後退したような場合、格付け機関は支払い能力の低下を懸念して元々財務内容の脆弱なBBB企業による起債の多くの部分をジャンク債に引き下げるであろう。これによりクレジット・リスクが急速に増大して、多くのBBB企業は、より高金利を支払わなくてはならないであろう。

 多くの投資家はジャンク債を保有することを禁じられているため、最悪の場合には資金調達の道が閉ざされて破綻せざるを得なくなろう。おそらく、BBB債市場の混乱は、景気後退を反映したものとなるだけでなく、場合によっては景気後退をさらに深化させる原因ともなろう。

 最近のETF(指数連動型投資信託)の急増も要注意である。

 米国の投資家はパッシブ運用(指数採用銘柄で自動的に運用する手法 )を指向するようになり、次第にETFのウエイトを増やしている。たしかにETFは非常に流動性に富み、取引所での売買も容易である。このETFの拡大はマーケットのあり方をどのように変えていくのか。ETFは投資運用会社を中心に多く組み込まれるようになっている。ブームの時には確かに流動性が高いものの、永遠に流動性に富むというのは錯覚である。

 リーマンショックの時にある中央銀行家が「Liquidity suddenly disappeared」(流動性は突然に消滅する)と嘆息していた通り、マーケットが困難に直面すると、レポ市場やコマーシャルペーパー市場などの売買が多く流動性に富む市場が信用不安から突然にして取引が途絶えたのはわずか10年前のことだ。全く油断はできない。

 もちろん、債券市場が危機に陥れば中央銀行は流動性を供給して市場の不安を低める方向に持っていく努力をする。問題はそれが十分かということだが、歴史はそうではないことを示している。

 金融危機がすぐに到来すると言っているわけではない。しかし、FRBのボルカー議長が1970年代にインフレの高進を眺めて思い切った金融引き締めを最後に不況にしてもインフレを抑制するという時代は終わった。1980年代以降の景気後退は、金融セクターの不均衡累積が持続不能になって起きるようになった。

 中南米危機、アジア危機、ITバブルの崩壊、サブプライム問題、リーマンショック等々である。インフレ率のわずかな変化に一喜一憂している間に金融市場ではマグマが溜まってきて、いつか噴火する。それがいつか、どの辺が火種か(不動産、債券、クレジット市場のどこが発火点か)がわからないとはいえ、金融セクターに特別な注意を払うことは現在でも不可欠であると思う。

 2008-09年のグローバル金融危機後に各国の中央銀行が思い切った利下げや量的緩和に踏み切り、経済の下方スパイラルを防いだことを否定するわけではない。しかし、問題は中央銀行が孤立無援で、構造改革など政府の政策により適切にサポートされることは欧米、日本でも全くなかったことだ。金融政策ができることは時間を買うことだけだ。つまり、住宅建設や自動車購入などの将来の需要を、金利引き下げなどを通じて前倒しさせることだけだ。

 その先取りした将来の需要を穴埋めしなければ成長率は下がってしまう。そのためには労働市場の弾力化により成長市場に雇用が移動すること、市場での競争を促進し、さらには画期的な新製品が供給されて需要を開拓することにつながる規制緩和に取り組む必要がある。しかし、どの国でも政治はポピュリズムに覆われて不人気な構造改革に動くことは全くと言っていいくらいなかった。

 その分、中央銀行は長らく過重負担を強いられてきた。各国で今なお超低金利が続く主要な理由はここにある。今日直面している問題はインフレ率が構造的に上昇しないため、あまりにも長いあいだ、あまりにも低い金利水準を維持することにつながったことだ。それは、今は良いとして、潜在的な金融安定性を脅かすことになろう。

俵 一郎 (国際金融専門家)

最終更新:3/18(月) 13:01
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