ここから本文です

“売れない魚”の寿司が、なぜ20年も売れ続けているのか

3/20(水) 8:30配信

ITmedia ビジネスオンライン

漁港から「おまかせセット」が届く

朝山: 港にはベルトコンベヤーがあって、そこに水揚げされた魚が流れてくるわけですが、いい魚はどんどん引き取られていくんですよね。オレはタイで、ワシはカンパチで……といった形で。どんどん取られていって、最後に何匹かが残るんですよ。サイズが小さかったり、見た目が悪かったり。そうした魚を送ってもらうので、関係者の負荷は少なくてすみますよね。

 誰も手に取らなかった魚を集めて、ケースに詰めてもらう。しばらくすると、先方から「〇月〇日に送ったよー」と連絡があるので、こちらは商品が届くのを待つだけ。

土肥: えっ、ひょっとして、そのケースの中にどんな魚が入っているのか分からないとか?

朝山: おまかせセットですね(笑)。どんな魚が入っているのか分からないので、こちらは届いたモノを見て、「この魚であれば、このようにさばけばいいかな」などと考えて、あとは手を動かすだけ。

土肥: たくさんの魚をさばいてこられたと思うのですが、思い出に残っている魚はありますか?

朝山: これまで500種類以上の魚をさばいてきました。その中でも「ホテイウオ(ゴッコ)」という魚は、記憶に残っていますね。北海道の漁港から送られてきて、形は丸く、表面はぷよぷよしているんです。さばいたところ、たくさんの卵が詰まっていて、それを取ったら食べるところがほとんどない。

 寿司にすることはできなかったのですが、中骨の周辺に多少の肉があったので、それを鍋に入れてみることに。味はビミョーだったのですが、さばく作業はとてもおもしろかったですね。

 このほかに、ジンベイザメをさばいたことも。サメの専門店と契約していまして、先方から「さばいてみない?」と声をかけていただいたので、大喜びで包丁を入れました。味はふわふわしていて、あっさりした感じでした。

未利用魚を使った寿司店が増えないワケ

土肥: 未利用魚を使った寿司が売れている――。となれば、他の寿司店でも同じようなメニューがあっても不思議ではありません。でも、定番メニューとして扱っているところは、ほとんどないですよね。

朝山: やりたいと思っていても、できないのではないでしょうか。理由は2つあって、1つは手間がものすごくかかるから、もう1つは頻繁にケガをするから。

 1つめの手間がかかることについて、ご説明しますね。例えば、カンパチをさばくことになったとします。大きめのカンパチであれば、5分ほどで200貫分ほどつくることができるんですよ。

 一方で、10センチほどのクロムツを扱うことがあるのですが、小さいので作業に5~10分ほどかかる。それなのに、1匹で2貫分ほどしかつくることができない。同じ時間、いや、それ以上の時間をかけて作業しているのにもかかわらず、少ししかつくることができない。大きな魚を扱うほうが効率がいいのですが、ウチは小さな魚も扱っている。だから、手間がかかるんですよね。

土肥: なるほど。

朝山: もう1つのケガについて。例えば、アイゴという魚をさばく場合、ヒレに毒があるので、取り扱いに注意しなければいけません。一度、ヒレの針が指に刺さったことがあるんですよね。ものすごく痛くて、ものすごく腫れました。

 アイゴ以外にも毒をもっている魚は多くて、そうした魚を扱っていると、頻繁にケガをしてしまうんですよね。ということもあって、多くの職人さんは「危険な魚は扱いたくないなあ」と感じているのではないでしょうか。

土肥: 手間がかかって面倒、ケガをするので危険。にもかかわらず、なぜ20年も続けてこられたのでしょうか?

朝山: おもしろいからですね。面倒で、ケガをする。それでもヘンな魚をさばくのはおもしろい。おもしろく感じているのはワタシだけでなく、魚を送っていただいている関係者も同じ気持ちかもしれません。自分が送ったヘンな魚をどのようにしてさばくのか。こうしたことに興味があると思うので、送られてきた魚については、ネット上にアップしているんですよね。

 写真だけでなく、「こんな魚が届きました」「このようにさばいていますよー」といったコメントを付けて紹介しています。そうすると、先方はものすごく喜んでいただける。「また、送りますね」と言ってくれることも。

土肥: きちんとフィードバックしているわけですね。

3/4ページ

最終更新:3/20(水) 12:30
ITmedia ビジネスオンライン

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事