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「やりたいことをやったっていいんだぜ」62歳で初めて路上ライブをやった「少年」

3/20(水) 17:47配信

DANRO

日曜日の夕方。といっても毎週ではない。晴れていて、二日酔いじゃない日曜日の夕方、近藤十四郎(こんどう・としろう)さんは「夕焼けだんだん」で路上ライブをする。JR日暮里駅に近いこのだんだん(階段)は、レトロな谷中ぎんざ商店街を見下ろせる散歩の名所。週末ともなれば多くの人でにぎわう。

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ギターと歌、時々ハーモニカ。「迷子と人さらい」「千年壺」「映画のよおだ」……ふしぎなテイストのオリジナル曲に、買い物客や外国人旅行者がちらりと視線を送りながら通り過ぎる。時々立ち止まって、ギターケースに小銭を入れていく人もいる。

十四郎さんは白髪もじゃもじゃ頭を振りながら、はにかみながら、歌い続ける。道ゆく人の邪魔にならないように、それでも誰かの心に届くように、自分で自分を鼓舞するように。(金井真紀)

たったひとり、路上で歌う

「路上をやってみようと思うんだ」

と最初に聞いたのは、たしか2016年の秋だった。十四郎さんとは家が近所で、ときどきお好み焼きを食べたり、チューハイを飲んだりする仲だ。

「路上って、路上ライブのことですか」

「うん。高校の視聴覚教室で初めてのライブをやってから50年近く、いろんな場所で歌ってきたんだけどさ、知っている人が誰もいない路上で、しかもたったひとりで歌うなんてやったことがないから、なかなか決断できなくて」

十四郎さんは、いつもの照れくさそうな顔で言った。

「世の中の締めつけが大きくなってきてるでしょ」

ちょうど、安倍内閣がテロ等準備罪(いわゆる共謀罪)を創設する法案を国会提出するのは時間の問題だと報じられていた時期だった。

「やりたいことをやったっていいんだぜって、ね。そう思うから、まずは自分がやっちゃおうと思ってさ。へへへ」

おもしろいことを見つけちゃった少年のような顔で「へへへ」と笑われると、こちらまで「へへへ」となる。

でも十四郎さんがほんとうに少年のようだったのはそのあとだ。2016年10月1日、62歳の誕生日に十四郎さんは初めてギターを持って夕焼けだんだんに立った。

「どうでした?」

「すっごく緊張して、歌っているうちにだんだん声が小さくなっちゃってさぁ」

やっぱり照れくさそうに言う。いくつになっても初めてのドキドキがある。ひとりで立ち向かう勇気を試されることがある。

「でもね、一回目は気合が入ってたのでなんとかなった。できるぞと思った翌週、二回目はどこかに緩みがあったんだろうね、誰も振り向いてくれなかった。だから毎回、初めての気持ちでやろうって決めたんだ」

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最終更新:3/20(水) 17:47
DANRO

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