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菊池雄星が語る!感覚×データ×映像で進化する「第3の球種」開発秘話

3/21(木) 11:01配信

Baseball Geeks

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シアトルマリナーズ菊池雄星投手と、パーソナルアナリスト契約をしているネクストベース社の神事努氏、森本崚太氏と対談。第2弾のテーマは、昨今、メジャーリーグでも主流になりつつある「ピッチトンネル」について、だ。一般的に打者が球種を判断するために打撃を開始する位置はホームベースの手前7メートル前後だと言われている。(動画:菊池投手がピッチトンネルを意識して新球種開発に取り組んだ際の映像。詳細は後述)

「ピッチトンネル」とは、その7メートルの位置にリングのようなものがあると想定して、投手の指から放たれたボールがこのトンネルを通すことで打者の判断を難しさせるというものだ。どの球種も同じような軌道を描いてトンネルを出た後に変化するということに成功すれば、打者は球種を判断することが難しくなるというわけである。逆に言えば、指から離れた瞬間に膨らんでしまう球種は、「ピッチトンネル」は構成できない。菊池投手はこの「ピッチトンネル」という概念をピッチングに取り入れ、打者を牛耳っていくというスタイルを2018年から目指している。(聞き手:スラッガー編集部 久保田市郎、新井裕貴、ベースボールジャーナリスト・氏原英明)

ピッチトンネルを駆使する

森本 「2018年、菊池投手はスライダーの高速化、つまり、スピードをあげることを目指していました。「ピッチトンネル」を意識したうえでのトライだったのでしょうか」

菊池 「そうですね。いかに手前まで真っすぐに見せるか。ピッチトンネルを構成していくための取り組みでした」

神事 「(2018年は)ストレートの質が変わったので、ストレートとスライダーの横曲がりの感覚が最初は一致してなくて、それにちょっと時間かかったのかなと思います。ストレートの球質の変化に合わせてスライダーも調整しながらピッチトンネルを構成していた」

森本 「メジャーを意識するうえで、質に取り組んでいって、どんどん変化しようとしていたのでしょうか」

菊池 「ピッチングの軸はストレートだと思いますので、意識は空振り率です。2017年の方がいいんですよね」

森本 「球速は2017年の方が出ていましたが、ボールの質だけだと、空振りがとりやすいのは2018年です」

神事 「ボールがシュートしなくなった。今話題の「フライボールレボリューション」の対策にもなるんですが、今、メジャーの多くの投手がフォーシーマーになりつつある。その理由は日本特有の良いフォーシーマーがメジャーリーグで活躍するという想定ができてきて、そこにもう一つ、フォーシーマーのスライダーを組み合わせれば、このふたつで空振りがとりやすくなる。

――菊池投手としては、フライボールレボリューションをどうとらえていますか。例えば、日本ではソフトバンクの柳田選手が取り入れていたように思います

菊池 「ピッチトンネルではインハイのストライクゾーンへのストレートがカギになりますけど、日本では、そんなサインはでないです。ボール球で誘うというのは別ですが、インハイのストライクゾーンにキャッチャーが構えるという考え方がなかった。いかにストレートを低めに集め、スライダーを追っかけさせるという方に意識が向いていました」

――ピッチトンネルは、日本で取材をしていて一般的ではありません。実際、菊池投手はその概念を初めて聞いた時はどういう印象を持ちましたか

菊池 「ピッチャーとしては大きく曲げる、緩急をつけるとか、そういう方向にいってしまっていることの方が多かったです。バッターを泳がせるのが、ピッチャーの仕事、快感みたいなところがあるじゃないですか。カーブはドロップみたいして、スライダーは曲げて泳がせたいという願望がありました。その中でピッチトンネルについて聞いたんですけど、確かに、スライダーで三振をとっている時はゾーンの外でボール球を振らせているケースより、真ん中低めくらいだということが、後付けで分かってきました。打者の手元で曲げて、真っすぐに似せる意識を持つようになりました」

――将来を考えてより高いレベルで成功していくためには必要だと思っていたんですか。もちろん、シーズン中から「メジャー」を意識していたことはないと思いますが

菊池 「いいバッターになればなるほどポイントが後ろになってくるじゃないですか。「1、2の3」で振ってくるのであればボールの変化量で勝負できるかもしれないですが、待たれると、手元で曲げないといけない。特に、アメリカに行った場合に想定されるのは、打者の始動がより遅くポイントを後ろにして打ってくるバッターが多いということ」

――でも、アメリカはそうだけど、逆に日本でピッチトンネルにとらわれるばかりだと打たれちゃう危険性もありませんか

菊池 「そうかもしれませんけど、でも、長打があるのは外国人バッターばかり。特にパリーグは4番に外国人が必ずいますんで、そういうバッター対策にも、ピッチトンネルは有効かなと」

――去年はチェンジアップの変化量がよく見えたのですが、神事さんからはどういうアドバイスをされたのですか

神事 「チェンジアップは、去年までは遅くてよく落ちるチェンジアップだった。ピッチトンネルを構成できていない軌道だったので、手元まで見るタイプのバッターは、チェンジアップを狙い打つか、見送るという選択ができるボールになっていました。試していたとは思いますが、僕はもう少しだという印象でした」

森本 「チェンジアップはよく切れているという評価ではありましたけど、ピッチトンネルで考えるとちょっと使いにくいと言うことです」

神事 「カーブと同じ意味合いになっている。変化が大きくてという意味ではカーブと同じ、だとするならば、ちょっともったいないです」

――では、今は新しいシーズンに向けてチェンジアップの改良のお話をされたのですか?話せる範囲でお願いします

菊池 「去年は「1、2の3」のタイミングの打者のときのチェンジアップは空振りしてくれたんですけど、手元で振るバッターは待たれることが多いという実感があったので、相談しました。少し握りを変えて…変化量じゃなくてスピードを上げてちょっと落ちるような形を作ればなと。」

――菊池選手は今年からまた新たなステージ(メジャーリーグ)への挑戦となります。リリースポイントやピッチトンネルなどの色んな知見を得て、メジャーリーグで成功するためには何がカギになると思いますか

菊池 「真っすぐとスライダーではピッチトンネルを構成できているので、そこに近いピッチトンネルを通って落ちるボールや逃げるボールが使えれば、そこが一番鍵かなと思っています。おそらく、今年からはそれが想定されると思っています」

森本 「つまり、第三の球種と」

菊池 「今、まっすぐとスライダーの2つの球種が入っているだけになっている。そこで同じような所から落ちる球っていうのは、今まで活躍されている、日本人メジャーリーガーの方々が共通して投げていますから」

――普段、取材をして思うのは、野球界の多くはあまりデータに対して敏感ではない。メディアも含めてのことですが、実際、菊池投手が取り組んできて、トラックマンデータを参考にしてよかったことはありますか

菊池 「一番大事なことでもっとも難しいのは、自分を知るということだと思います。メンタルもそうですし、すべてにおいて言えるのですが、なぜ、打たれたのかがわからないと、自分を知っていないということです。逆に勝ったときも、なぜ、勝てたのかが説明できないのは、自分を知らないのと同じで再現性は生まれない。数字があると裏付けができて腑に落ちるので、再現性も高まっていくと思います」

神事 「データを使えるアスリートって凄いと思います。他の競技にはいるかもしれないんですが、野球選手として自立している。データを数字のまま見てわかる人もいれば、それを何とか解釈して言語化して伝えることでようやく腑に落ちる人もいる。その作業が実は重要なんじゃないかと思います。つまり、数字を翻訳して、言葉に置き換えるということです」

菊池 「あと何年野球やるかわからないですが、何十年って考えたときに、昔のデータを比較できたりできるのかなと。今はそこまで考えてないですけど、データを取り続けることに今後、意味が出てくるのかなと思います」

――野球選手として、菊池投手みたいな感覚でデータも大事にして能力を高めていくことは大事ですよね

菊池 「直感だけでやれる。なにも気にせずに結果を出せる人は、それでいいと思います。僕は裏付けがないと不安という性格なので、これからも必要になると感じています」

――カーショウへのあこがれがあると話していましたが、こういう色んなデータを利用することを踏まえたうえで、これからも理想はカーショウですか?神事さん的には正解なのでしょうか?

菊池 「カーショウのデータを見ると本当すごいんです。縦回転の数値には驚きます。ただ、そんなカーショウを目指すのは現実的ではないので、あくまで参考にしたいと言う投手です。自分がどういうピッチャーになっていくべきなのか。考えないといけない時期が遅かれ早かれ来ると思うので、そういう時に神事さんと相談しながら、取り組んでいきたい。今は、まず、これまで築いてきたスタイルを生かすことを大事にしていきたい」

神事 「菊池投手はカーショータイプじゃないです。腕の角度が違います。ただ、逆にカーショーができないことを雄星投手はできるので、理想像でいうと、カーショーのこの部分とシャーザーのあの部分、また、誰かのあの部分。という風に複数でいいんじゃないですかね。数字で見て比較ができるので、そういう中で「菊池雄星」が出来上がればいいのかなと」

――神事さんが考える菊池投手のMLB成功のカギはありますか

神事 「先ほども話に出ていたように「高めの真っすぐ」だと思います。高めに投げられることが大事になります。それはさんざん出てきている、ピッチトンネルを構成するための基準球が真っすぐであるならば、真っすぐを高めにちゃんと投げることができて、それからどう生かせるかということです」


菊池投手がこれから向かうメジャーリーグという舞台は簡単なところではない。これまでに書いてきているように、高い技術力はもちろんのこと、データを駆使して、あらゆる対策が取られるからだ。2日間の連載を通して、菊池投手がそうした野球、ベースボールに着手しようとしているのがお分りいただけたと思う。大きな壁にもぶつかることもあるだろうが、知識欲のある菊池投手であれば、たくさんのことを吸収していくに違いない。

日本の野球界として大事なことは、菊池投手の活躍を基にして、それをどう落とし込んでいくかということになろう。ひいては、それが、彼がメジャーリーグに挑戦する意味であり、球界の発展につながるはずだ。 


氏原英明 (うじはら・ひであき)
1977年生まれ 日本のプロ・アマを問わず取材するベースボールジャーナリスト。
高校時代の菊池雄星のピッチングに魅了され、また、ドラフト前の涙の記者会見に野球界の未来を案じた。菊池のデビュー戦や初勝利はもとより、2014年以降はホームからビジターまで年間ほぼ全ての登板を観戦取材し、その背中を見つめ続けた。夏の甲子園は03年から16年連続取材し、近著に『甲子園という病』(新潮社)がある。

最終更新:3/21(木) 11:06
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