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ボンドのアストンマーティンを追い回す悪役に選ばれた車とは?

3/22(金) 17:08配信

octane.jp

『007 スペクター』でボンドを追い回す悪役たちには、ジャガーのプロトタイプ・スーパーカーと、タフで荒々しいランドローバーが与えられた。主役がアストンマーティンなら、悪役をどんな車に乗せるか。

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彼らにはまったく異なる二つのタイプが与えられた。まずは、市販が見送られたジャガーのスーパーカープロトタイプ、ハイブリッドEVのC-X75。加えて、漆黒のレンジローバー・スポーツSVRと、それに付き従う厳つい風貌のディフェンダーが2台だ。

ジャガーの見せ場は、ローマの大通りや石段、水路などを舞台にアストンマーティンDB10と繰り広げるカーチェイスシーンだ。一方ランドローバーは、オーストリアでそのオフロード能力をいかんなく発揮し、雪の積もった森の中や凍ったアルプスの山岳路を常に3台の隊列で突き進む。

いうまでもなく、派手なスタントが盛りだくさんのため、車にとっては地獄のように厳しい撮影となり、ひどい損傷を負いながら、一晩で修理を受けて次のテイクに備えることもしばしばだった。前述したようにCGIや撮影後の修正ではない。ボンド映画は、ほぼすべてのシーンが実際にスタントを行って製作されている。

『007 スペクター』の撮影にジャガーとランドローバーは何台必要だったのだろうか。その答えは、ジャガーのC - X 75 とSVRが各7台、ディフェンダーが10台だ。さらにスペアパーツは、オーストリアでのロケでコンテナ7個分、ローマでは5個分に上ったという。

ジャガー・ランドローバーのプロジェクトマネージャーとして、すべての撮影に立ち会ったスチュワート・デイビスに話を聞いた。彼は2014年10月にこの任務に就くと、車が完成した時点からプログラムのすべてを取り仕切り、公開前のPR活動にも関わっている。

「私は2014年の11月から12月まで、4人の技術者とオーストリアに滞在して、リハーサルに立ち会いましたが、その時点では車は準備の段階でした。EONから指示書が来ていましたが、なにが必要になるかは、実際に現場に行ってみないと正確に把握しにくいのです」

「 撮影がスタートする1月4日に再びオーストリアに入りました。こまごました点で整理すべきことがまだ多かったので、最初の6週間は6人の技術者を連れて行きました。間近になってディスカバリー・スポーツを1台、追加要請されました。その後は技術者を4人にし、オーストリアでの撮影が終了する2月18日まで行動を共にしました」

オーストリアロケの目玉は、凍てつくアルプス山中で、曲がりくねった狭い山道を行くランドローバー3台と飛行機とが併走するシーンだ。このチェイスもCG合成ではなく実際に行った。飛行機の失速速度は50mph(80㎞/h)で、しかもアルプスの谷間で岩肌をかすめるように飛ばなければならない。パイロットにとっても至難の業だが、スタントドライバーにとっても大変な仕事だった。なにしろSVRとディフェンダーは、至近距離を維持したまま、50mph以上の速度で危険な道を走らなければならなかったのだ。

続いてローマに移り、デイビスたちも同行した。そこからは、7台のジャガーC-X75の製造を取り仕切ったウィリアムズ・アドバンスド・エンジニアリングのマネジャー、ジャン=イヴ・タブロも加わった。ローマでは、重要なシーンの大半が夜間に撮影された。アストンとジャガーは、バチカン近くの狭い通りで派手なカーチェイスを繰り広げ、スカーロ・デ・ピネドの石段をテベレ川に向かって駆け下りるような荒っぽいシーンもこなした。

タブロは、C-X75の開発プログラムに白紙から関わった人物だ。2014年に、『007 スペクター』の監督であるサム・メンデスの要請でパインウッドスタジオに出向いたのがその第一歩だったという。「サム・メンデスに見せるために、青いプロトタイプのC-X75をスタジオに持って行きました。まず、ひとりで見たいというのが監督の希望でした。私たちが食堂で待っていると、電話が来て気に入ったといわれました。それが9月6日でした」

「2日後にもう一度行くと、今度は大勢の人が集まっていて持参したカラーサンプルから、ブラック、シャンパンカラー、オレンジが選ばれました。この3色をローマへ持っていって街灯の下で吟味した結果、メタリックオレンジのC-X75が選ばれたのです。扱いやすい色ではありませんでしたよ」

「次に、スタントドライバーとのミーティングで、車はたくさんほしいといわれました。2台の"ヒーローカー"については、5台あるプロトタイプの中からすぐに手配できますが、残りについては、今あるシャシーを使うか、それともフェラーリをベースに使うことも想定しました。考えた結果、スペースフレームの車を造り、ジャンプに耐えられるよう、WRC(世界ラリー選手権)タイプのサスペンションを取り付けることにしました。外見はまったく同じです」

こうしてスタント用の車が5台製造された。そのうち1台は、ルーフに"ポッド"と呼ばれる操縦席を取り付け、車外から運転できるようになっている。スケジュールに余裕はなく、撮影に3週間は確保しなければならない。スタントドライバーは、できるだけ短期間で車に慣れる必要があった。

タブロはこう説明する。「きちんとジャンプできるよう何度もテストを重ねたあと、ローマのコースでスタントドライバーと1週間テストを行いました。彼らは最初少し遠慮気味でしたが、しばらくすると完全に楽しんでいました。まさにスーパーヒーローです。プロフェッショナルで素晴らしい技術を持っていますよ」

撮影は週6日行われ、ジャガーC-X75にはウィリアムズの技術者3人が付いた。チームは夕方5時に電話を受け、撮影に何台必要か伝えられる(タブロによれば「たいていは全部」とのこと)。撮影は道路清掃車や早起きの車でローマの通りが目を覚まし始める翌朝5時まで行われた。そしてタブロは朝5時になると、夜の撮影再開までに修理すべき箇所をまとめて日勤の技術者3人に送った。車は激しいスタントによく耐え、破損箇所はたいていドライブシャフトとタイロッドだけで、すぐに修理できた。ロケ現場で修理することもあり、一度など、技術者が石段の前を流れる川に入って作業しなければならなかったという。

「チームは懸命に働きましたよ。各自がローマで1週間仕事をするようシフトを組んで、ファクトリーから技術者を派遣しました。こんなことは初めてでしたが、最高の経験でした」とタブロは回想する。


ジャガーC-X75

スマートな"ヒーローカー"2台と、激務に耐えた5台のスタントカー。こちらは、特製のスペースフレームにスーパーチャージドV8エンジンを搭載している。C-X75に対する要求は厳しいものだった。繰り返しジャンプし、高速で何度も石段を駆け下り、バチカン周辺の荒れた石畳で幾晩もドリフトすることを求められた。ジャガーとウィリアムズが2010年に5台だけ製造したプロトタイプのハイブリッド・スーパーカーにうってつけの仕事とはとてもいえない。

そこで、前述したように特別なC-X75を製造し、スタントカーとして使うことが決まった。時間的な余裕はなく、チームは2カ月でスペースフレーム車を設計。サスペンションをロングストロークにし、ジャンプしたあとの着地で衝撃を吸収できるように仕立てた。

本来、C-X75のパワートレインはハイブリッドだが、スタントカーはジャガーのスーパーチャジャー付きV8エンジンを搭載し、コンペティション用のパドルシフト付きギアボックスとクラッチと組み合わせた。自在にドリフトするだけのパワーとトルクも必要だが、高速でのバックもできなければならない。競技用のトランスミッションパーツでこれを成し遂げるのは至難の業で、またクラッチのエンゲージをスムーズにする必要もあった。4~6 速のギアはほとんど使う機会がなかった。

スタントカーは撮影終了後にすべてリビルドされ、逐次改良も施されていった。塗装する時間がなかったために金属がむき出しだった部分も、今では滑らかに仕上げられ、カーペットまで敷かれている。


レンジローバー・スポーツSVR

黒ずくめのSVRには苛酷な仕事が待ち受け、用意された7台すべてが破壊された。あの厳ついディフェンダーと並んだら、どんな車でも弱々しく見えてしまいそうなものだ。だが、『007 スペクター』のレンジローバー・スポーツSVRは違う。ホイールからLEDのライトバーに至るまで黒一色で、少しも負けていない。7台のSVRは苛酷な仕事をやりきった。ディフェンダーに正面から激突し、衝撃でSVRの乗員がフロントガラスを突き破るシーンもあるが、このクラッシュシーンは4回撮影され、そのたびに新しいフロントノーズが必要となった。最後のテイクでは、ステアリングを握ったベン・コリンズ(BBC『トップギア』の元"スティグ")が少々力を入れすぎたため、冷却ファンがラジエターにめり込んでしまった。4台のうち1台は今も撮影時の状態で保存されており、フロントガラスがボンネットの上に横たわったままだ。

7台のSVRはすべて撮影中に深刻なダメージを負ったため、写真の車はレプリカである。本物には目立たないようにロールケージが取り付けられていたが、それも付いていない。SVRにとって最大の問題は、電子制御システムが車と完全に一体化していることだった。安全に振り回せるように、新しいプログラムを組み、電気系統をカスタマイズする必要があった。これには、ランドローバー・スペシャル・ヴィークル・オペレーションズ(SVO)の技術者も、クラッシュによるダメージ以上に頭を悩ませたという。


ランドローバー・ディフェンダー

ディフェンダーに求められたのは、凄みのある外観だった。ランドローバーSVOは、この要望に見事応えた。製造された10台はすべてブラックで装備も同じ。目も眩むばかりのライトバー、ルーフラック、アクセスラダー、ブルバー、ウォーン製ウィンチを備え、オーバーサイズのホイールに37インチタイヤを履く。また、全車にロールフープを取り付け、消火システムと電気系のキルスイッチ、スタントで役立つ油圧式ハンドブレーキも装備した。

ディフェンダーは重心が非常に高いため扱いにくいのだが、完成したアクションシーンを見てもそんな苦労は微塵も感じない。うち3台は『007 スカイフォール』にも出演したベテランだ。

圧巻なのは飛行機が建物に突っ込み、さらにディフェンダーとぶつかるシーンだ。この撮影では、ディフェンダー2台からエンジンやトランスミッションなどすべてを現場で取り外した。代わりに取り付けた火器で前方へと押し出し、さらに火を付けたのだ。ぶつかった衝撃で1台のボディシェルはねじ曲がったが、ディフェンダーは無事に生き延びて、再び走行できる状態になっている。

ディフェンダーにとって最大の問題は、通常のトレッドタイヤとスパイクタイヤとを何度も交換した際に、巨大なタイヤのバランスを取ることだった。ルーフに取り付けたライトは、明るすぎてカメラが対応できず、一度も出番がなかった。

Octane Japan 編集部

最終更新:3/22(金) 17:08
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