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82歳、川淵三郎氏が熱く語る「日本のスポーツ界は、宝の山」

3/25(月) 6:00配信

アスキー

2019年1月に開催したスポーツアナリティクスジャパン2019の基調講演に登壇した川淵三郎氏はまだ衰えぬ熱い情熱でスポーツビジネスを語った。
 2019年1月に開催した、日本アナリスト協会が主催するイベントである「スポーツアナリティクスジャパン2019(SAJ)」も今年で第5回を迎える。
 
 基調講演を務めたのは日本トップリーグ連携機構の川淵三郎会長(82)、タイトルは『夢があるから強くなる』。JリーグやBリーグの創設に力を注ぎ、80歳を過ぎても堂々と未来への夢を語る姿は、日本のスポーツ界にとって唯一無二の存在だろう。
 
 講演の冒頭で高野連に対して若干怒りをにじませながら語ったことが会場を大いに沸かしクローズアップされ、話題にはなった。しかし、ここ最近、事あるごとに口にする“日本のスポーツ界は宝の山”の内容へ移ると、多くの観客は川淵氏の言葉に釘付とされることになる。
 

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 川淵氏の真意は何なのか。どのようなビジョンを描いているのか。どんな行動を起こそうとしているのか。80歳を過ぎて衰えぬ日本スポーツ界への改革の熱情と、2021年以降への取組みは興味が尽きないものだ。そんな基調講演の川渕氏の言葉をお届けしたい。
 
日本のスポーツ界はなぜ発展しないのか?
 今の日本において、私は日本のスポーツ界は宝の山だと思っている。それはなぜか?
 
 答えは簡単で各競技団体が何もしていないからです。
 
 一つの例がお金の稼ぎ方が非常に下手です。理由は各競技団体のトップが競技の元日本代表であったり、社会的地位が高かったりで、たまたまその地位に就いている方が多い。経営のプロではありません。スタッフの大半も元選手などが占めている場合が多く、つまりビジネスの素人が集まっている団体なわけで、それではお金の稼ぎ方がわかるわけがありません。
 
 さらにいうとお金を稼げる優秀な人が集まらない。競技団体側にお金がないからで優秀な方に見合う待遇ができないからです。優秀な人がいない、資金は増えない、という負のループに陥っている。これが日本スポーツ界の現状です。
 
新しい世代の台頭に期待
 ただ明るい話題もあって、去年フェンシング競技の元五輪銀メダリストの太田雄貴さんが協会の会長になりました。彼はどうしたらフェンシングを日本に普及促進できるかということを四六時中考えています。競技の見せ方を工夫して会場を劇場に変えたりした。結果として全日本選手権が満員になりました。彼のような会長が各協会にいて優秀なスタッフがいればその競技団体はどんどん発展していくでしょう。
 
 Jリーグでいえば、楽天の三木谷さんやサイバーエージェントの藤田さんも新しい経営者像です。彼らは経営のプロでビジネスとしてスポーツをしっかりと捉えている。ヴィッセルのスタジアムは現状最大で2万5千人しか入らないので、これは仮の話ではありますが、埼玉スタジアムであれば最大6万人は入ります。レッズは年間の平均入場者数が3万5千人くらいなのですが、去年の神戸戦ではイニエスタ選手を見たさに5万5千人入りました。
 
 年間でホームゲームは約20試合なので、単純計算すれば年間40万人プラスとなるわけです。仮に3000円だったチケットを5000円にすると収益は全部でプラス34億円になる。イニエスタの年俸は推定32億円といわれていますが充分賄えるわけです。こういう計算や経営判断をできる人材が少ないのです。
 
 新しい視点で取組みを初めた三木谷さん、藤田さんがオーナーになられた町田ゼルビアは現在J2ですが、様々な展望をお持ちでいらっしゃる。ただ彼らのような例は現時点の日本において特例であって少数派なんです。
 
スポーツビジネスを教える場所が欲しい
 では、どうすべきか?
 
 人財の輩出を仕組みにするのはやはり教育です。アメリカにはコロンビア大学やオハイオ大学などスポーツビジネスを教える学部があります。日本では早稲田にスポーツ科学研究部がありますけど各協会に入って活躍している人材はまだまだ少ないです。日本はもっと教育の場をつくってスポーツの発展に志を持った人が現場で活躍できる土壌をつくるべきです。スポーツはする、見る、支えるという3つの柱があるけれども。特に支えるという部分では日本はアメリカに比べてまだまだですから。これが今後の鍵を握っています。
 
観客動員なしにプロスポーツの成功なし
 僕が一番プロスポーツで大事で評価される基準と考えるのは観客数です。これしかありません。サッカーでいえばメッシやロナウドが日本に来て凄い試合をする。でも動員は1万人です、なんてことでは世界中で盛り上がりません。やはり5万人が入った、20万人が入った、それで初めて競技の人気が上がり多くの人々の関心を集めることができます。観客数がすべてで、観客動員が少なくて成功するということはありえません。
 
鹿島アントラーズの本気が地域を変えた
 あと大事な要素があります。試合の興行を成功させるか否かの肝は「ビジョン」があるかどうか。
 
 Jリーグのオリジナル10(1993年開幕時の10チーム)を決める時のエピソードです。9チームは既に決まっており、残り1枠を6チームの中から決める段階でした。ただ僕は鹿島、当時の住金については最終選考で落とそうと決めていたのです。なぜかというと鹿嶋市は人口4万5千人しかおらず、人口比率も高齢者が多い。
 
 コンビニも映画館もボーリング場もない、本当に何もない町だったんです。あまりにも何もないので住友金属の社員の間では鹿島症候群なんて言って会社を辞める原因の一つになっていると言われたくらいです。だからこそ住金側としてはJリーグに加盟して町興しをと考えていたようです。僕はそんな所でサッカーをやっても成功するわけがないと思い、いよいよ引導を渡そうと思い関係者を呼んだのです。当時鹿島の社長だった中村さんをはじめ7名の方に東京まで来てもらいました。
 
 いきなり「Jリーグ加盟の可能性は100%ありません」というには忍びなくて「申し訳ないけど99.9999%ありません」と言ったのです。そうしたら中村さんの顔が急にぱっと明るくなって「0.0001%あるんですね! それは何ですか?」と言ってきました。そんなつもりで言ってないから、それでは絶対できないことを言ってあきらめてもらおうと思い「今の日本にはない、観客席に屋根の付いたサッカー専用の1万5千人収容の競技場をJリーグ開幕までに完成すること」という非常に厳しい条件を出しました。
 
 当時彼らは3000人収容のスタジアムを作ると言っていたことに加えて、その時点で開幕まで2年を切っていました。鹿島側の皆さんも元気なく帰られて行きましたが、ようやく諦めてくれたなと思ったのです。そうしたら程なくして知事の了承を得て「スタジアムを作ります」と言われたのです。開幕までに具体的な策を提示して間に合わせますと言い出したのです。
 
 いやいや、作ったところでガラガラのスタジアムで試合をやられても何にもならないと泡を食いました。ボランティアはどうするだ? 若手の育成はどうするだ? 宿舎その他はどうするだ? 私はそのあとも結構な無理難題を出しましたが、全部潰してきたのです。理事会としても屋根付きサッカー専用のスタジアムの前例ができるということをよしとして、最終的に全会一致で鹿島が10チーム目として登録されたわけです。
 
 開幕戦こそチケットをさばくのに苦労したみたいですが、テレビで試合を見た人たちにジーコやアルシンドの大活躍が刻まれたようです。それ以降、圧倒的にチケットが入手困難なチームとなりました。ビジョンのあるイベントは成功するし、逆に言えばそれがないイベントは成功しないということです。鹿島アントラーズ誕生の姿を見て痛感しました。
 
日本のスポーツのビジョン、具体的な施策の必要性
 日本のスポーツ産業は政府からも大きな期待を寄せられていて、現在の産業規模である6兆6千億円を、2020年までに倍にすると言っています。
 
 さらにスポーツ審議会は「一億総スポーツ社会」と唱え、スポーツ好きな中学生を現状の58.7%から2020年には80%に、またスポーツ嫌いな中学生を16.4から8%にしようという目標を掲げています。目標は目標でいいのですが、残念なのはその目標に対して、どんな施策を打っているのかが僕らにはあまり聞こえてこないです。スポーツにおける問題で一番気になるのは指導者、スポーツを行なう場所、そこに対してどんどん施策を打っていければスポーツ業界全体が活性化していきます。
 
 しかし現状は今年ラグビーW杯が開催され、2020年東京オリンピック・パラリンピックが開催され、という流れに任せるだけで具体的なことについては無為無策に見受けます。当然何かをやっているのでしょうが、世の中に対しては見えていませんし、そういう行動が起こっているようにも思えないです。もっとどんどん仕掛けていく、本当の意味でスポーツが発展する社会をつくっていって欲しいです。
 
 
文● 上野直彦 編集● ガチ鈴木/ASCII編集部

最終更新:4/19(金) 7:06
アスキー

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