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銃乱射事件容疑者の「名前を口にしない」決断をしたNZ首相、メディアはどうすべきか

3/25(月) 12:40配信

The Guardian

【記者:Gaby Hinsliff】
 彼の名前を口にしてはならない。

 容疑者がライブ配信した犯行時の動画を拡散したり、容疑者が書いたまとまりのない青臭いくだらない犯行声明とみられる文書「マニフェスト」を読んだり、新聞の1面を彼の幼少期の話で埋め尽くしたりしてもいけない。

 ニュージーランドの南島クライストチャーチにあるモスク(イスラム礼拝所)2か所で銃乱射事件が発生して以来、容疑者ではなく犠牲者に注目しようという動きが広がっている。

 同国のジャシンダ・アーダーン(Jacinda Ardern)首相も議会で、「彼はテロリストで、犯罪者で、過激主義者だ。しかし彼は、私が話すときは、名前を持たない」と述べ、公の場で容疑者の名前を口にしないと宣言した。

 現実的には、この決定に限界があることは明らかだ。マニフェストは、不快な仲間内の冗談や、したり顔で拡散されるミーム文化にあふれていて、これを書いた容疑者や容疑者が想定していた読者は、どこかのリベラルな女性政治家が言うことなど気にも留めないだろう。

 現状に満足していない怒れる人々が、このぞっとする動画を繰り返し投稿し、インターネットはこの動画であふれかえった。ユーチューブには毎秒、新しい動画が投稿され、フェイスブックは事件発生の初日だけで動画のコピーを150万本削除した。この数字を見て、人間が殺されていく動画を執念深く拡散するような人に対し、主流文化はあまりにも無力で無意味だと絶望するのは簡単だ。

 それでも、容疑者の男の意図に反して、そのアイデンティティーを奪ってしまうのは効果的といえる。これが通常は女性に対して行われる行為であることが、一層の意味を持つ。

 人身売買をテーマにしたカナダ映画『She Has a Name(原題、彼女に名前はないの意味)』の作品名は、被害者の人間性を奪う行為に抗議する草の根運動にちなんでいる。この言葉自体は、売春あっせん業者が、客に買った女性の名前を聞かれたときに答える「彼女に名前はない。あなたがなってほしいと思う女性になる」というセリフからきている。

 殺人の記事で被害者が付け足しのように扱われていると、その存在がひどく軽視されているように私たちは感じる。交際相手の女性を射殺した南アフリカの両脚義足のランナー、オスカー・ピストリウス受刑者の裁判に関する報道で、被害者のリーバ・スティンカンプさんの名前が出てこなかったことが批判を集めたのはこのためだ。スティンカンプさんの名前は見出しだけではなく、記事全体に出てこなかったこともあった。

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最終更新:3/25(月) 12:40
The Guardian

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