ここから本文です

コーチ自らが語る上田桃子優勝の舞台裏 王貞治氏も育てた“荒川流”の正しさ証明を目指す【辻にぃ見聞】

3/26(火) 12:16配信

ゴルフ情報ALBA.Net

13年ぶりとなる日本選手開幕3連勝で盛り上がりをみせる国内女子ツアー。第3戦では、プロコーチの辻村明志氏が指導する上田桃子が2季ぶりとなるツアー14勝目を挙げた。そこで、今回はコーチだからこそ知る上田優勝のヒミツを聞いた!

右手のテーピングが痛々しい【写真】

■“心・技・体”をテーマに掲げる2019年

「オフの合宿から“ガマンする”ということを意識して取り組みました。これからの目標は“心・技・体”を整えること。それが整った時の景色が見てみたい」

これは優勝会見で上田の口から出た言葉だ。シーズン開幕に向け、メンタル面の充実をはかったことがうかがえたが、その言葉にあった上田の思いを辻村氏はこのように明かした。

「1年間、自分のスタイルを見つけることができず、昨年はくやしい思いをしました。年末に行ったミーティングで、桃子から『精神面にまだ伸びしろがあると思う』と言われ、僕もそれは感じていた部分だと伝えました。そしてこれからのテーマとして“心・技・体”を掲げました」

これまでの上田は、オフの取り組みで、少しでも違和感を覚えると“これじゃない…、これでもない”となり、グチをこぼす…、この繰り返しで万全の状態で開幕を迎えることができないというケースも多かった。しかし、今年の合宿中は「意見は出しても、グチは一切ありませんでした」と黙々と練習に取り組んだ。

上田はその様子を、「アプローチやパット練習も、これまで以上に長い時間をかけてやりました。他の競技を見てもガマンすることが重要だということは強く感じる部分です」と明かす。こうやって自らを研ぎ澄ました。

■コースでの“もう1球”を禁止… ガマンすることの大事さ

ガマンする心を養うため、「コースで2球同じ球を打たない」という取り組みに着手したと辻村氏はいう。たとえ練習ラウンドであっても、ティショットをミスした時、“もう1球”というのを禁止。ミスしたまま、セカンド地点に向かった。この狙いについて辻村氏は、こう説明する。

「1球に対して真剣になることが狙いでした。試合で“もう1球”は通用しない。コースのなかで起きたことは、それがミスだとしても受け入れなければならない。そうやってガマンすることを身につけて欲しかった」

この生活のなか、上田にどんどん変化が見られたという。ガマンすることが当たり前になり、ガマンすることの楽しさすら感じている…、辻村氏は上田の姿からそのような成長を感じたという。

■チーム辻村の根底にある“荒川流”

この「心が大事」という考えは、辻村一門の根底に流れる、いわば哲学といえる。それは、辻村氏が師と仰ぐ故・荒川博氏の教えによるものが大きい。プロ野球・巨人軍の打撃コーチとして王貞治氏を指導し、一本足打法を生んだ名伯楽は、合気道の『氣』という言葉を大事にし、巨人軍のV9にも大きく貢献した。辻村氏、そして上田もかつてその指導を受けている。

「チーム辻村は荒川流ですから。桃子はもちろんのこと、(小祝)さくら、(永井)花奈、(松森)彩夏にも、今その魂を叩きこんでいるところです。荒川先生の教えを毎年毎年確認して、それをゴルフに結びつけるのが僕の役目。心を落ち着かせるために稽古をするんです。稽古を重ねないと“氣”は出ませんから。これからも荒川流が正しいと証明していきたい」

最終日を前にし、原因不明の右手中指痛に襲われた上田。しかし、「手の痛みを朝聞いた時、右手で良かったと思った」という辻村氏は、まな弟子に「スイングに右手はいらないことを証明してこい」という言葉をかけて、コースに送り出した。そして「右手がスイングの邪魔をする」ということを見事に“証明”。最後は、テーピングが巻かれたその痛々しい手で、誇らしげに優勝カップを掲げた。

優勝から一夜明け、辻村氏と上田は、小祝さくら、永井花奈を連れ、荒川氏の墓前で手を合わせ優勝を報告した。

「やっと荒川先生に報告することができました。でもまだ1勝。あとはこれを1年間維持させることが僕の目標です」

辻村氏は、かつて荒川氏から言われた、『目で見えているものだけを追い求めていると、人生の半分は損するよ』という言葉を指導者となった今、自らの指針にしている。「言われた当時はその真意は分からなかったけど、今分かるようになりました。追い求めるべき形のないもの、それが“心”なんです」。それだけに今回の上田の優勝には大きな意味があった。

この日、墓前を訪れた後、昼食時に荒川氏の弟・富男氏に祝勝会をしてもらったという辻村氏は、兄の博氏とともに野球道を追求してきた富男氏に、打撃の神髄を聞いた時も、こんな答えが返ってきたという。『心でしょ』と。これからも信念を曲げず、“荒川流”を追い求める。

手の痛みに耐えて、申ジエ(韓国)との死闘を制した上田。これからも“心・技・体”を追い求め、天国の荒川氏を喜ばせる勝利を挙げ続ける。

解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアンツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアンツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、小祝さくら、永井花奈、藤崎莉歩、松森彩夏、山村彩恵などを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。

(撮影:佐々木啓)<ゴルフ情報ALBA.Net>

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事