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国有企業の改革を無視、市場より党優先の習近平政権

3/27(水) 13:00配信

ニュースソクラ

【けいざい温故知新】中国バブル崩壊で、転換迫られる恐れ

 米国の政治学者イアン・ブレマーが書いている。「国民の繁栄と体制の安泰、どちらか片方を選ぶよう迫られたら、国家資本主義の国の政府は判で押したように体制の安泰を選ぶはずだ」と。

 先週終わった中国の全国人民代表大会で、この説を思い出した。対米貿易戦争と28年ぶりの低成長という危機に直面しながら、半端な景気対策でお茶を濁し、経済も政治も、抜本的な構造改革はスルーした。

 昨年40周年を迎えた「改革開放」は、1989年の「天安門事件」を境に二分される。最初の10年は、経済のみならず文化大革命路線の清算など、政治改革にも取り組んだ。だが、改革派指導者の胡耀邦、趙紫陽が失脚し、「天安門」を機に保守派から、共産党一党支配を危うくした、と改革開放への反発が噴き出した。

 そこで、とう小平が92年に編み出したのが「社会主義市場経済」だった。政治は一党独裁体制のまま、経済のみ、市場化や外資導入を進める折衷路線だ。木に竹を接いだような体制の存続には暗黙の条件がつく。繁栄=高度成長の持続。それが崩れつつある。

 2018年の成長率6.6%は、「天安門」の翌年の90年以来の低成長だが、この公式発表値に粉飾疑惑がつきまとう。前年の6.8%成長から0.2ポイント減の穏やかな減速では、中国依存度が高い海外企業の相次ぐ業績下方修正や、中国国内の自動車やスマホの販売不振などと平仄(ひょうそく)が合わない。

 中国人民大学の向松祚教授(マクロ経済学者)は昨年末の講演で、有力機関の試算値として「1.67%か、マイナス成長」と明かした。そちらが実態に近いなら減速ではなく「失速」だ。

 米国との貿易摩擦は、下ブレの一因に過ぎない。もっと大きな構造問題が潜む。

 第1に、1人当たりGDPが1万ドルに近づき、成長が頭打ちする「中所得国のワナ」の警戒圏にある。

 第2に、生産年齢人口がピークアウトする一方、「一人っ子政策」を撤廃したが出生数減少に歯止めがかからない。人口ボーナスがオーナス(重荷)に転じた。

 第3に、リーマン危機後の4兆元対策に始まる投資主導の景気対策が(1)企業(国有を含む)の過剰設備、過剰債務をもたらし(2)インフラ投資の受け皿になった国有企業が幅を利かせ、民間企業を圧迫する「国進民退」が顕著になった――ことなどだ。

 実は、こうした構造要因を的確に指摘し、高所得社会への戦略を示した官製リポートがある。国務院発展研究センターが世界銀行との共同研究として12年2月に公表した「2030年的中国」(China2030 )だ。

 その要点は、市場経済化の徹底。官に優遇・保護されながら、民間企業に比べ収益性も生産性も劣る国有企業のリストラを迫っている。国有銀行が牛耳る金融部門も、国の介入を減らし金利自由化を目指せ、と勧める。政府の役割も、無駄なく、クリーン、透明、高効率で、法の支配の下に運営せよ、と注文した。

 しかし、習近平指導部は、政権発足の直前に出た同リポートを無視した。国有企業改革は民営化ではなく「より強く、より優秀で、より大きく」と集約・巨大化を進める一方、民間企業へのグリップを強めた。

 上場企業や外資系企業にも社内に共産党組織の設置を促し、世界ランキング上位企業が居並ぶIT産業にも、「インターネット安全法」の施行で、国への協力を義務づけ、監視を強めている。

 習政権は「一党独裁のまま先進国入り」を目指す構えのようだ。昨年の憲法改正で、国家主席の任期を撤廃したのは、その証左だろう。

 「独裁制の先進国」が実現すれば歴史的“怪挙”だ。同じ東アジアで一足先に先進国水準に達した韓国にしろ、台湾にしろ、「開発独裁」の一時期を経て、政権交代を伴う民主制に脱皮した。中国は特別なのか。

 英FT紙によれば、北京大学の張維迎教授(経済学)は昨年10月のスピーチで、こう述べたという。「過去40年の中国の高度成長は、いわゆる中国モデルより、むしろ市場経済への移行、起業家精神、西側からの技術的学習によってもたらされたものだ」「中国モデルを強調することは、国有企業の強化、政府の権限拡大、産業政策への依存につながり、改革プロセスを逆転させる。経済はいずれ停滞に陥るだろう」。

 最近、政権に批判的な中国の複数の経済学者が「ミンスキー・モーメント」を口にするようになった。資産の投げ売りが始まる瞬間のことだ。

 中国経済の負債総額は、リーマン危機後の10年ほどで4倍以上に増えた。非金融機関の企業負債のGDP比は、日本のバブル期を上回る。

 リーマン危機直後に出たカーメン・ラインハートとケネス・ロゴフの共著「国家は破綻する」(原題はThis Time is Different=今回は違う)は古今東西の金融危機を分析し、共通点を浮き彫りにして評判を呼んだ。

 そこで述べられているのは、債務が過剰に積み上がると、好況期に予想もしなかった金融システムリスクが高まること。民間借り入れの大幅増と資産価格の急上昇に続き、マクロ経済の破綻と政府債務の急拡大が起きるのは典型的な症状とも。

 「中国は違う」(China is different)なのか。そうは思わない。私見だが、今後、不動産バブルが崩壊し、企業のデフォルト(債務不履行)が頻発する金融危機が発生、経済が停滞局面に陥る確率が高いと思う。

 そこで中国は、一党独裁の共産党にまかせてきた資源配分を、市場にゆだねるかどうか、の究極の選択を迫られるのではないか。

■土谷 英夫(ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1948年和歌山市生まれ。上智大学経済学部卒業。日本経済新聞社で編集委員、論説委員、論説副主幹、コラムニストなどを歴任。
著書に『1971年 市場化とネット化の紀元』(2014年/NTT出版)

最終更新:3/27(水) 13:00
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