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飯塚翔太、7センチが生んだ人生最高のバトンパス…リオ銀400Mリレー振り返る

4/2(火) 6:06配信

スポーツ報知

 スポーツ報知が振り返る平成のスポーツ最終回。平成28年(2016)のリオ五輪の陸上男子400メートルリレーで、飯塚翔太(27)=ミズノ、藤枝明誠高=が、第2走者で銀メダル獲得に貢献した。アジア新の37秒60をマークして世界を驚かせた。本番直前では、考案した刀を抜くサムライポーズのパフォーマンスでも注目を浴びた。日本中を沸かせた静岡生まれのスプリンターが、日本の裏側で起こった快挙を振り返る。(塩沢 武士)

 今でもまだ、脳裏に焼き付いている。平成28年8月19日(ブラジル時間)。リオ五輪陸上の男子400メートルリレー決勝の舞台に飯塚が立っていた。会場となったエスタジオ・オリンピコ・ジョアン・アベランジェのスタンドは超満員だった。日本のほぼ裏側で、時差は11時間。静寂の中、号砲が鳴り、第1走者の山県亮太(26)がスタートした。スタンドは一転、まるで、ライブ会場のような絶叫に変わった。

 飯塚「いい緊張感だった。舞い上がることなく、スタート位置についた。普段、短距離は静寂の中でスタートするけど、僕は、歓声の中でスタートするリレーが好き。あの日も一走の山県が、スタンドの大歓声を、しょってくるような感覚だった」

 前日の予選では、37秒68をマーク。ひとつ前の組で中国が樹立したアジア新を、塗り替える全体2位で決勝進出を決めた。ただ、他の強豪国は予選でエースを温存していた。決勝前夜、代表スタッフを交えてミーティングが行われた。「助走の距離を(スパイクの)半足分、広げては」という意見が出た。飯塚の足のサイズは28・5センチ。予選では31・5足分、距離にして8・975メートル地点に目印のテープを貼った。「半足はちょっと(長い)。4分の1でいいですか」と、返答した。

 「予選は思った以上にいいタイムだった。日本代表で初めて37秒台が出た。ただ、僕のところはバトンはもらう時も、渡す時もちょっと詰まった感じだった。決勝は、他国もメンバーも入れ替えてくるし、一発狙ってくる。予選より(タイムを)上げないとメダルは取れないと思っていたから、助走距離を伸ばして勝負しようって意見でまとまった。4分の1足分だから、長さにして約7・1センチ。桐生(祥秀、23)は僕より足が小さい(25・5センチ)けど、そこも4分の1足分(約6・4センチ)。ただ、桐生とアンカーのケンブリッジ(飛鳥、25)のところだけは、確か、半足分、広げたかな」

 予選の6レーンから1つ内側の5レーンに入った決勝。一走・山県がいつもの好スタートで、勢いよく飯塚に向かってきた。

 「もらうのはいつも、左手。あの時、中指と薬指の間にバトンが入ってしまって、ちょっと焦った。ラスト10メートルは足がもつれそうだったけど、(次走の)桐生とのバトンは、バチンって、はまった。今までのリレー人生で一番のバトン渡しだった」

 日本自慢のアンダーハンドパスに寸分の狂いもなかった。飯塚―桐生の間で、助走距離を6・4センチ広げて生まれた最高のパフォーマンス。あとは、信じるだけだった。ゴールの瞬間、第3、4コーナーの中間地点にいた。近くにあったモニターを見つめた。

 「銅は取れたと確信したけど、もしかしたら、と思った。すぐに電光掲示板に結果が出て、銀だと分かった。近くのスタンドにいたブラジル人の観客が、『日本おめでとう』と言ってくれた。その笑顔がすごく印象的で、今も記憶に残っている」

 快挙を達成した4人が、日の丸を掲げてウィニングランしている姿に日本中が歓喜した。夜はテレビ局回りで大忙しだった。

 「現地の夜中3時までひっきりなしだった。その後、メンバー4人でマクドナルドに行った。数年ぶりに食べたビッグマックとポテトはおいしかった」

 前回は苦い経験があった。12年のロンドン五輪でも400メートルリレーに出場。予選3位通過も、決勝は5位(後日失格が出て繰り上げ4位)に終わった。

 「決勝でアンカーの僕と一走だった山県の2人が、予選よりタイムを落とした。僕にとっては、リオはリベンジの機会だった。その2人が一、二走でメダルを取れて良かった」

 リオではレース前に、テレビに向かってパフォーマンスした「サムライポーズ」が、大会後に評判になった。直前に飯塚が考案した。

 「最初はまったく考えてなかった。大会の運営から決勝に残った国は入場する時に、テレビカメラに向かってワンポーズするように、と言われた。何か、かっこいいポーズはないかなって。日本人らしくて、海外の人にも分かるもの。サムライだ。刀を抜くポーズをしようと。山県は、やりたくなかったみたいですが(笑い)」

 その思いの原点が、リオ五輪だ。日本人の快挙を、自国の快挙のように祝福してくれたブラジル人の笑顔だった。「こんなに喜んでくれるんだ」。走ることの「力」を知った。人を幸せにすることで自分への「力」になった。

 2020年東京五輪は29歳。男子リレーメンバーも若手が成長している。山県、桐生、ケンブリッジ飛鳥だけでなく、多田修平(20)、サニブラウン・ハキーム(19)、昨年のアジア大会200メートルで優勝した小池佑貴(23)ら、ライバルも多い。代表メンバー入りするのも容易ではない。

 「後輩たちの活躍はモチベーションにつながる。僕自身、東京五輪が最後とは思っていない。プラス2回(24年パリ、28年ロサンゼルス)ぐらい走りたい。年齢は関係ない。壁を自分で決めたくない」

 1日、新元号が「令和」に決まった。新しい時代に初めて開催される五輪が自国の東京。リオを沸かせた飯塚はまだまだ、若い選手に主役の座を譲るつもりはない。

 ◆飯塚 翔太(いいづか・しょうた)1991年6月25日、御前崎市生まれ、27歳。小3の時に陸上を始める。藤枝明誠高3年時に全国総体200メートルで優勝。中大3年時にはロンドン五輪の400メートルリレーに出場して4位(当初は5位で大会後に繰り上げ)。2014年ミズノ入社。日本選手権は13、16年に200メートルで優勝。17年のロンドン世界選手権400メートルリレーの第2走で銅メダルを獲得。186センチ、80キロ。独身。

 ◆バトンゾーン 正式名称はテイク・オーバー・ゾーン。陸上のリレー競技で、バトンを受け渡すことができる範囲。18年度から長さ30メートル(17年までは20メートル)の区域で、これ以外の場所での受け渡しは失格となる。バトンパスは、受け取る走者(次走者)にバトンが触れた瞬間に始まり、渡す走者(前走者)の手を離れ、次走者のみが持っている状態になった瞬間に終わる。一連の動きをテイク・オーバー・ゾーン内で行われなければならず、選手の身体には関係なく、バトンの位置で決定。選手の身体がゾーン外であってもバトン全体が中にあれば失格にならない。

最終更新:4/17(水) 11:24
スポーツ報知

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