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【中国ウォッチ(11)】 パリでの習主席、対トランプで欧と共闘体制

4/1(月) 12:02配信

ニュースソクラ

ファーウェイなどで欧も接近

 フランスで、中国に関する3つの興味深い出来事が起こった。以下、順に見ていきたい。

〈1〉4首脳揃い踏みで「共闘」

 一つ目は、習近平主席、エマニュエル・マクロン仏大統領、アンゲラ・メルケル独首相、ジャンクロード・ユンケル欧州委員長の4首脳が3月26日に一堂に会したことである。習近平主席のフランス訪問に合わせてパリで開かれた「フランス・中国グローバル・フォーラム」の閉会式に、4首脳が顔を揃えたのだ。これは、マクロン大統領が急遽、メルケル首相とユンケル委員長に呼びかけて実現したものだった。

 それというのも、EUは現在、「3つの危機」に見舞われており、習近平主席を「媒介」として3首脳が集まることで、EUの結束を示そうとしたのだ。

 EUの「3つの危機」とは、第一に、周知のイギリスの離脱問題(Brexit)である。3月21日、22日にブリュッセルの本部で開かれたEU首脳会議では、27ヵ国(イギリスを除く)から集まった首脳たちの間で、「もういい加減にしてくれ」という疲労感が充満していた。

 第二に、米トランプ政権との確執である。アメリカとEUは、NATO(北太平洋条約機構)という軍事同盟を結んでいるが、EU各国の負担分をGDPの2%以上にというトランプ大統領からの圧力に、辟易している。EU内部では、「NATOを解体して、EU軍を作ろう」という声も飛び交い始めているほどだ。

 自由貿易とグローバリゼーションを巡っても、トランプ政権とEUは水と油だ。さらにマクロン大統領は、地球温暖化を防止するパリ協定から勝手に脱退してしまったトランプ大統領に、恨み骨髄である。

 第三に、5月下旬に実施されるEU議会選挙で、極右が台頭しそうなことだ。EU各国の極右政党は、揃ってEUの解体を標榜している。EU議会選挙で右翼政党が議席を大幅に増やし、それによってEUが解体に向かうというジョークのような状況が、起こりかねないのだ。

 要は、EUは1993年にマーストリヒト条約によって発足して以来、最大の試練を迎えているのである。そんなEUがすがるのが、世界第2の経済大国にのし上がった中国というわけだ。

 一方の中国も、やはり「3つの危機」に見舞われている。

 第一に、中国経済の悪化が止まらないことだ。EUとの関係を再構築することで、何とか中国経済の悪化を食い止めたい。  

 第二に、長引くアメリカとの対立である。習近平主席は、何とかトランプ大統領との直接会談によって、貿易戦争の収集を図ろうとしていたが、2月28日の米朝首脳会談の「ハノイの決裂」を見て、たまげてしまった。間違っても、「第二の金正恩」にはなりたくない。それでまずは、EUとの結束を示すという「迂回戦術」に出たのだ。

 これは、「中国+EU 〉アメリカ」という方程式による。3月10日にエチオピア航空が墜落事故を起こした時、真っ先にその「ボーイング737MAX8型」の航空機を飛行禁止にしたのは中国だった。ほどなくEUが追随した。すると、アメリカも飛行禁止措置を出さざるを得なくなった。そこで中国は、EUを取り込めば、アメリカに対抗できると考えているのだ。

 中国は、次世代通信規格「5G」を巡っても、華為技術(ファーウェイ)を前面に押し立てて、一気呵成にアメリカを追い抜こうとしている。逆にアメリカは、華為を叩くことで、中国の技術覇権の野望を粉砕しようとしている。アメリカ国内は、8月までに華為を追い出すことを決めており、逆に中国国内は、華為と二人三脚で5G時代を迎える。そんな中、米中が角逐する最大の戦場が、EU市場なのである(その次の決戦場はインドだ)。そのため習近平主席は、「華為は安全である」とヨーロッパで宣言し、EUを取り込みたい。

 第三に、習近平政権の外交戦略である「一帯一路」(ワンベルト・ワンロード)の危機である。習近平主席は、自らの政権を発足させた2013年以降、中国とヨーロッパを陸路と海路でつなぐという「一帯一路」を、外交スローガンにしてきた。だがトランプ政権から、「ユーラシア大陸の軍事覇権取りを目的とした新植民地主義」と非難され、中国からの借金地獄に苦しむ中小国からも悲鳴が上がっている。

 そんな中、習近平主席は、4月下旬に北京で「第2回『一帯一路』サミット・フォーラム」を開催する。もしも2年前の5月に北京で開かれた第1回のフォーラムを下回る規模と盛り上がりならば、習近平政権の威信は一気に失墜してしまう。そうならないためにも、「終着点」であるヨーロッパの協力を、固めておきたいのである。

 かくして、双方の異なる「思惑」によって、3月26日に4首脳がパリに参集した。もとより、習近平主席から「エアバス300機の購入」を約束されたマクロン大統領は、気分が悪かろうはずもない。一刻も早く忌まわしい「黄色いベスト運動」を終わらせるのに、最高のプレゼントだからだ。ちなみに、フランスでデモに使われている「黄色いベスト」は、中国浙江省烏義で作られており、中国は「黄色いベスト特需」に沸いているため、そんなに早く収束しなくても構わないのだが。

 この日、EUの3首脳を「証人」として、習近平が強調したのは、箇条書きにすると、以下のようなことだった。

・世界のグローバリズムと自由貿易を維持し、保護する。

・国連が重大な問題において積極的な力を発揮することを支持する。

・全地球を統治する規則を民主化していくことを、積極的に推進する。

・「同じものを求めていても異なるものが存在する」(求同存異)、「一緒に集い異なるものを混ぜ合わせていく」(聚同化異)ことを堅持する。

・冷戦やゼロサム和的な旧い思考を放棄する。

・世界の争議は平和的な方式で解決していく。

・世界各国の「一帯一路」への積極的な参加を歓迎する。

・「パリ協定」を全面的に定着させる。

 興味深かったのは、どこへ行っても「皇帝然」としている習近平主席が、慣れない笑顔で記者の前に現れたことである。しかも他の3人の首脳と「同列」という姿は珍しい。ちなみに習主席は今回の訪欧で、25日のマクロン大統領との首脳会談後と、その前の22日のイタリアのセルジョ・マッタレッラ大統領との首脳会談後にも、記者会見に応じた。

 「皇帝様は記者会見などしない」という精神の習近平主席からすれば、これはかなり無理していることになる。換言すれば、そこまで追い詰められているのである。

 また、決して表には出てきていないが、習近平主席は「4首脳会談」の席で、これから述べるように、EUが華為を追放しないよう、念を押したに違いない。

<2> EUが華為をすぐには排除しないことを決定

 3月21日と22日にブリュッセルの本部で開かれたEU首脳会議の最大のテーマは、イギリスのEUからの離脱問題だったことは、論をまたない。だがこの一大問題の陰に隠れて、あまり話題にならなかったが、各国首脳はもう一つ、重要な問題を話し合った。それは5Gに関連して、米トランプ政権の求めに応じて華為を排除するかどうかということだった。

 この問題に関して、最も中国寄りなのはポルトガルで、早くも昨年12月5日に、ポルトガル最大の通信会社アルティス・ポルトガルが、華為と5G設備とサービスの覚書を交わしている。その4日前に、アメリカの求めに応じたカナダが、華為の創業者の長女である孟晩舟副会長を逮捕していることを考慮すると、ポルトガルはかなり勇気を持った行動をしたものだ。

 逆に、最も中国を警戒しているのはポーランドで、今年1月8日、華為の中国人社員を、スパイ容疑で逮捕してしまった。トランプ政権との友好な関係を維持することでロシアの脅威を減らそうと考えているポーランドは、アメリカ寄りが顕著だ。

 他の多くのEU加盟国はというと、アメリカとも中国とも友好関係を維持したいと考えている。そのため米中2大国の一方を、敵に回したくはない。

 そんなEUの心中が透けて見えたのが、3月26日に欧州委員会がストラスブールで発表した「5Gネットワークのセキュリティに対するEUの共通の取り組み勧告」だった。要は、EUとしての5Gと華為に関する公式見解だ。その全文は、このサイトで見られる。

 この勧告のポイントは、EU加盟国の取り組みとEUの取り組みを分け、華為とどう付き合うかを、とりあえず加盟国に委ねてしまったことだ。EUの共通見解に至らず、苦渋の選択をしたのである。

 具体的には、以下の通りだ。

・国家レベル……各加盟国は、今年6月末までに、5Gネットワーク・インフラの国家リスク評価を終える。その際、各加盟国は、国家安全上の理由で、国家の標準やレベルの枠組みに適用しない企業を、市場から排除する権利を有する。

・EUレベル……各加盟国は、ENISA(欧州ネットワーク情報セキュリティ庁)のサポートを受けて、相互に情報交換を行う。そして今年10月1日までに、関連するリスク評価を終える。そしてEUのネットワークと情報システム協力グループは、今年12月末までに、国家及びEUレベルで識別されたサイバーセキュリティのリスクに対処するための対策を落とし込んでいく。

<3> 華為が最新型スマホを発表

 このように中国とEU間の「影の主役」となりつつある華為は、大胆不敵なパフォーマンスに出た。習近平主席のパリ訪問に合わせ、3月26日夜にパリで、約1時間半にわたって、「P30シリーズ」の最新型スマホの発表会を行ったのである。

 この最新型スマホの最大の特長は、カメラの精度アップである。二重レンズにし、「P30 prо」の場合、前側は3200万画素。後ろ側はライカ製の4000万画素レンズを主体に、800万画素の偏光レンズと2000万画素の超広角レンズを搭載している。

 この最新型スマホ、中国では4月11日から発売開始というが、本国に先駆けて、習近平主席のフランス訪問を援護射撃したのである。

 ともあれ、今後とも彷徨えるEU・アメリカ・中国の角逐は続く――。

■右田 早希(ジャーナリスト)
25年以上にわたって中国・朝鮮半島を取材し、中国・韓国の政官財に知己多い。中国・東アジアの政治・経済・外交に精通。著書に『AIIB不参加の代償』(ベスト新書、2015年)

最終更新:4/1(月) 12:02
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