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【舛添要一の僭越ですが】 支離滅裂なトランプ外交、退陣こそ世界の安定に寄与

4/1(月) 14:00配信

ニュースソクラ

中東で対立煽り、北朝鮮問題も解決できず

 トランプ大統領は、イスラエルが1967年の第三次中東戦争でシリアから奪って占領を続けているゴラン高原について、イスラエルの主権を認めることを表明した。そして、3月25日、ホワイトハウスでイスラエルのネタニヤフ首相と会談し、その旨を記した文書に署名した。

 第二次世界大戦後の世界は、武力による領土の拡大を認めておらず、それが国際社会の原則となっている。したがって、国連もこのイスラエルの行為を承認しておらず、イスラエルの撤兵と占領地の返還を求めている。 アメリカは、クリミアを武力で併合したロシアを批判し、制裁を課しているが、同様な国際法違反を犯したイスラエルには異なった態度をとるというのは、首尾一貫しない。

 それだけに、トランプのこの独断は世界の顰蹙を買っている。トランプをノーベル平和賞候補に推薦した安倍政権も、さすがにこのアメリカの愚行には追随しなかった。 先にイスラエルの首都をエルサレムに移したのも、パレスチナ問題の解決に長年尽力してきた国際社会に対する背信行為であったが、今回のゴラン高原の件もまた、非常識な決定である。

 辞任したマティス国防長官が、トランプのことを「小学校5~6年の理解力しかない」と言ったが、歴史すら全く勉強していないことを露呈する愚行を続けている。 トランプは、次期大統領選での再選のことしか念頭にない。親イスラエルを強調することによって、キリスト教保守派の支持を調達する狙いである。

 ネタニヤフのほうも、4月9日に総選挙を控えて、汚職容疑などのマイナス・イメージを払拭するために外交成果が欲しく、両者の思惑が一致したのである。 しかし、この決定に対しては、領土を奪われたシリアは当然のこと、イラン、レバノン、ヨルダンなどアラブ諸国は猛反発している。

 トランプは、イランとの核合意から一方的に離脱したが、国際社会が努力して合意案をまとめたこと、IAEA(国際原子力機関)はイランが合意を遵守しているとの査察結果を出していることは一顧だにしなかった。

 イランでは、アメリカの制裁によって、穏健派のロウハニ大統領に反対する強硬派が勢力を拡大している。また、ロウハニ大統領は3月中旬に、イラクを訪問し、アブドルマハディ首相と会談し、アメリカの制裁に対抗する姿勢を示している。 イスラム革命から40年を迎えた中東の大国、イランは、シーア派の支援に力を注いでおり、シリア、レバノンのヒズボラ、イエメンのフーシ、イラクのシーア派民兵などを支援している。

 サウジアラビアなどスンニ派諸国とは対立関係になっているが、トランプ政権による政策転換は、中東のバランスに微妙な影響を与えている。 そして、シリアでは、米国に支援されたクルド人主体の民兵組織「シリア民主軍(SDF)」が、3月23日、シリア東部に位置するISの最後の拠点、バグズ村を完全に掌握し、壊滅させたと宣言した。

 シリア内戦で、36万8千人が死亡し、避難民は国内に660万人、国外に560万人も発生している。 因みに、トルコ、シリア、イラクなどにはクルド人が約3000万人いるが、国家を持たない世界最大の民である。悲願の独立国家を持つためにも ISと戦って貢献したが、トルコをはじめクルド人の住む諸国家は独立構想には真っ向から反対している。

 昨年12月には、トランプはシリアからの米軍の撤収を表明したが、これに反発したマティス国防長官は「小学校5~6年」発言とともに政権を去った。ISの壊滅とともに、もし米軍が完全に撤退すれば、シリアに対するロシアやトルコやイランの影響力が強まっていく。トランプには、そのことを懸念している様子もない。

 シリアからの撤退も、アジア、とくに北朝鮮との交渉に際して、二正面作戦を回避するためのトランプ戦略だと理解されてきた。しかし、米朝首脳会談は決裂し、先の展望が見えなくなっている。 北朝鮮では、北西部にある東倉里のミサイル発射場で、撤去した施設の一部を復旧する動きが見られている。これは、アメリカに対する牽制の意味があり、対米交渉戦略の再構築の一環であろうが、金正恩は、暫くは様々な手段で試行錯誤を繰り返すであろう。

 北朝鮮の非核化は、容易には実現しないであろうし、米朝関係が緊張する可能性も捨てきれない。対北朝鮮政策が成功していると判断することはできないであろう。 北朝鮮は非核化に応じるどころか、核施設再稼働の動きを見せているが、そのような中で、トランプ政権は、同盟国に駐留米軍経費の5割増を要求してくるという。

 また、米露はNF全廃条約を廃止した。まさに日本をめぐる国際環境は厳しさを増している。 米中貿易摩擦の解決もまだほど遠い状況である。トランプ流の保護主義は、世界経済を収縮させている。農業をはじめ、様々な分野でアメリカの産業にも大きな被害が出ている。再選戦略から見ても、この状況がプラスになるとは断言できまい。

 世界経済減速の懸念が強まり、景気後退の前兆とされる金利の長短逆転現象(逆イールド)が米、カナダ、メキシコ、中国、トルコで起こっている。そのため、3月22日以来、世界の株式市場は、大幅な株安に見舞われ、投資家の心理を冷やしている。 3月24日にまとめられたモラー特別検察官のロシア疑惑についての報告書に関して、司法長官によれば、トランプ陣営とロシアとの共謀は認定されず、司法妨害の十分な証拠はないという。

 大統領は弾劾はされないだろうが、不明確な部分も多く、議会側の反発は免れまい。 3月16日には、上院は、国境の壁を建設する非常事態宣言を終結させる決議をしたが、これに対して、トランプ大統領は就任後初めてとなる拒否権を発動した。この件をめぐっても、大統領と議会、とくに民主党の対立は深まっていっており、トランプの思惑通りに再選戦略が進行するかどうか不明である。 いずれにしても、国際秩序の安定という視点からは、トランプ政権に終止符が打たれることが望ましい。

舛添 要一 (国際政治学者)

最終更新:4/1(月) 14:00
ニュースソクラ

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