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山谷のおじさんたちが教えてくれた大切なこと

4/2(火) 9:05配信

Yahoo!ニュース

日雇い労働者の街だった「山谷」

 東京都の台東区と荒川区をまたぐ場所に位置する「山谷(さんや)地域」。かつて安い宿や働き口を求め日雇い労働者や路上生活者が多く集まる地域だったが、現在はそうした人々が高齢化し生活保護を受給するようになったことで、「福祉の街」へと姿を変えた。

 ここで支援活動を行う、筆者所属の認定NPO「山友会(さんゆうかい)」の事務所前の路地にも、30~40人ほどの路上生活者らが日々やってくる。事務所で提供される昼食や無料診療所、生活相談、さらには話し相手を求めてのことだ。この「おじさん」(※1)たちと接していると、「怖い」「汚い」「怠け者」といった路上生活者に対しての一般的なイメージが覆され、逆に教えてもらうことも少なくない。その「おじさん」たちのストーリーに少しだけお付き合い願いたい。

「またズボン下げてるおじさんが来たよ!」

 60代後半の小村さん(仮名)は山友会の事務所を訪れる常連だ。小村さんは長年路上生活を送ってきた。そして、身なりにはほとんど関心がない。Tシャツ、ズボンは食べこぼしや飲みこぼしなどでひどく汚れている。さらにゴムが緩んだズボンがかなりずり落ち片手で押さえて歩くが、それもさほど気にしていない様子である。

 山友会では事務所に来たおじさんたちにお茶を出している。他のおじさん同様に小村さんもお茶を求めるのだが、そのたびにタバコをねだる。タバコはおじさんから事務所に差し入れがあったときには来所の人にお裾分けしているが、差し入れは1カートン(10箱)ほどのタバコなのですぐになくなってしまう。身なりには無関心な小村さんだが、タバコは違う。スタッフやボランティアが「今日はもうタバコはないんだよ」と伝えても、小村さんは何度も「あるだろう!」と訴える。

 4、5年前の夏頃、小村さんが山友会を訪れ始めた。その押しの強さや汚れた身なりから、周囲のおじさんたちは蔑むような眼で小村さんのことを見ていた。なかには、「そんな格好で来るなよ!」「ケツが見えてるじゃないか!」と不快感をむき出しにする人もいた。

 この様子をスタッフは心配して、小村さんに新しい服を渡して着替えるように促していたが、肝心の本人は「いらない!」とどこ吹く風。結局、小村さんを叱りつけるおじさんたちをスタッフがなだめるという日々が続いていた。

 そうした日々が半年近く続くと、周囲のおじさんたちも小村さんに慣れてきたのだろう。小村さんが山友会を訪れると「小村さんが来たよ!」「またズボンを下げてるおじさんが来たよ!」と教えてくれるように。さらには、事務所前に並べている椅子に座っていたおじさんが席を譲ったり、しつこくタバコをねだる小村さんに「仕方ないなぁ」と苦笑いでタバコを渡すおじさんも出てきた。

 なかには、「また汚い格好をして!」「何だよ、また来て!」と厳しい言葉を浴びせるおじさんもいるが、表情はにこやかである。言葉の調子も強くはなく、皮肉っぽく茶化しながら迎え入れているように見えた。

 ある日、「パチンコに行ってきた!」と話す小村さんに、「そんな金持ってないだろ!」と笑いながら突っ込みを入れる周りのおじさんたち。「もらった3000円でやってきたんだ」と返す小村さんは「そんなお金で玉が出るわけないだろ!」とまたしても突っ込まれる。

 しかし、「俺はパチンコ好きだからやめられないんだ。昔はそのくらい(のお金)で儲けたことがあるんだ」と小村さんがつぶやくと、周囲のおじさんたちからは「そうだよなぁ」「俺もそうだったなぁ」と共感する人も。見た目の異様さや強情さから煙たがられていた小村さんを、周囲のおじさんたちはいつの間にか受け入れていたのだった。

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最終更新:5/9(木) 11:14
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