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【尊厳ある介護(70)】 認知症患者に合った施設を選ばないと

4/3(水) 12:06配信

ニュースソクラ

本人が拒否感を示すなら現場で理由を見つけよう

 米田太郎さん(仮名90歳)が私どもに施設に入られたのは、いまと同じちょうど春先のことでした。

 以前利用していたデイサービス(昼間の介護)の施設では、性的な言葉を女性スタッフにかけるので、職員は対応に苦慮していたと聞いています。

 その上、ゲームをするとルールが理解できず、他の利用者とつかみ合いの喧嘩なったことは1度や2度ではなかったそうです。

 また、何度も「家に帰りたい」と訴え、介護スタッフが側に座って話を聞いても、要求が通らないと興奮して手をあげました。

 そんな米田さんでしたから、何度も施設を移りましたが、なじめず在宅に戻るのですが、ご家族は在宅介護に疲れきっていました。

 そこで、周囲の勧めもあって通いのサービスだけではなく、宿泊できる施設をということで、私どもの施設に来られたのでした。

 ある日のことです。午後3時頃でしたでしょうか。施設のリビングルームで利用者の方々が集まってお茶を飲んでいた時でした。

 米田は、歌の本を手に取り突然、大きな声で歌い始めました。

 近くに座っていた山形市子さん(仮名93歳)は、「うるさい」「うるさい」と言って手で耳を塞ぎました。そこにいた他の利用者の方々もちょっと迷惑そうにしていました。

 米田さんは認知症の進行によって放歌(あたりかまわず大声で歌うこと)があるだけでなく、歌うと止まらなくなるのです。

 歌うことは認知症の進行を遅らせるなどの効果があったり、肺活量が増えて健康にもいいので、施設ではできるだけ大勢でいっしょに歌う機会を意識的に設けているのですが、米田さんは止まらなくなるので、介護スタッフは米田さんがいる時は歌うのを控えていたほどです。

 ところが、その日は五木勉さん(仮名81歳)が、米田さんの背中をゆっくりとリズムを取りながらたたき、一緒に歌い始めました。

 それを米田さんは嫌がらず、少しずつ五木さんに合わせて歌うようになったのです。そして、五木さんが歌い終えると、米田さんも歌うのを止めたのです。

 介護スタッフが考えもしなかった対応を、五木さんはごく自然に行ったのです。教員をしておられたという教育者としてのキャリアのなせるわざだったのではないかと思います。

 五木さんも認知症です。でも軽度なので物忘れはありますが、コミニュニケーションは良好です。一方、米田さんは五木さんよりは進行した認知症で、他の施設では前述したように暴言・暴力・興奮・性的な言動がありました。

 これまでも、いくつもの介護施設を転々としていた米田さんが新しい施設に慣れることができるのかご家族やケアマネジャーは心配していました。

 しかし、それが取り越し苦労だと分かるには時間を要しませんでした。

 利用し始めた頃に出ていた性的な発言は、その後はほとんど言わなくなりました。

 暴力や暴言についても、他の利用者が読んでいる本を無理に取ろうとしたので注意をした介護スタッフの手を叩いたことはありましたが、「これは米田さんの本ではありませんよ」と言って否定的な注意をするのではなく「こちらの本を読みませんか」と肯定的な言葉をかけるようにすると、少しずつ治まったのです。

 以前の施設のなかには、きめ細かかったかどうかは別にして、同様な声かけをしていたところもあったようです。どうして症状が改善したのでしょうか。

 考えられるとすれば、今の施設は米田さんより高齢で古くからの男性利用者が多くいるだけでなく、男性スタッフの割合も高いのです。それが重石になって米田さんの言動にブレーキがかかったのではないでしょうか。以前おられた施設は、米田さんより若い方が多く、女性が多かったようです。

 そして何より、米田さんを温かく受け入れている五木さんのような存在が、米田さんを変えたのではないのかと思うのです。

 実は、米田さんのように介護サービスに拒否反応を示す利用者は少なくないのです。

 もしかしたら、その施設の対応ぶりや利用者の構成などが利用者に合っていないのかもしれません。

 ご家族の方は、施設を訪問し、当人にあっていないかもしれないと思い当たるようなら、施設を変えてみるのも一つの方法です。

 特に認知症の人の場合、コミュニケーション能力が低下しているので、利用定員の多い一般のデイサービスでは友達ができないことも多いのです。

 孤独になり利用を拒否した利用者が、少人数の認知症専門の施設に変わることで利用につながり、ご家族が喜ばれたことが何度もありました。

 しかし、リスクがないわけではありません。認知症の人は変化に弱いので、環境を変えると認知症が悪化することもあります。次々と変えるのはいいことではないので、移転先を吟味して選ぶ必要もあります。

 認知症の方は拒否する理由を施設やご家族などに対し適切に説明することは困難です。ご家族やケアマネジャーなどがその施設に見学に行かれ、利用を嫌がる原因を見つける必要があります。原因はきっとどこかにあるはずです。

(注)個人が特定されないよう配慮をしています。

■里村 佳子( 社会福祉法人呉ハレルヤ会呉ベタニアホーム統括施設長 )
法政大学大学院イノベーションマネジメント(MBA)卒業、広島国際大学臨床教授、前法政大学大学院客員教授、広島県認知症介護指導者、広島県精神医療審査会委員、呉市介護認定審査会委員。ケアハウス、デイサービス、サービス付高齢者住宅、小規模多機能ホーム、グループホーム、居宅介護事業所などの複数施設の担当理事。2017年10月に東京都杉並区の荻窪で訪問看護ステーション「ユアネーム」を開設。

最終更新:4/3(水) 12:06
ニュースソクラ

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