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【平成の事件】19人殺害の植松被告 接見19回と手紙34通から見えたゆがんだ正義と心の闇

4/8(月) 10:00配信

カナロコ by 神奈川新聞

 「平成」が暮れる。新たな時代の到来を目前に、神奈川で起きた「平成の事件」を振り返る。戦後最悪とされる19人が犠牲となった相模原障害者施設殺傷事件では、殺人罪などで起訴された植松聖被告(29)の障害者への差別的な言葉が社会に大きな衝撃を与え、今なお同調する意見がはびこる。初回は、19回にわたる接見と34通の手紙のやりとりから、被告の「実像」を追った。(神奈川新聞記者・石川泰大)

 古びたクリーム色のドアが、音もなくゆっくりと開く。室内に入ってきたその男は、小柄な体をくの字に折り曲げて深々と頭を下げ、はっきりとした声で言った。

 「本日はお忙しい中、ご足労いただきありがとうございます」

 4日、横浜拘置支所(横浜市港南区)の面会室。少し痩せて髪が肩下まで伸びたが、礼儀正しく、言葉使いが丁寧な「どこにでもいる普通の青年」という印象は初めて接見した2年前から変わらない。

 「障害者はいなくなればいい」―。2016年7月26日未明、神奈川県立障害者施設「津久井やまゆり園」(相模原市緑区)で19人が殺害され、職員を含む26人が負傷した。平成に入って犠牲者が最多の殺人事件を起こした男は元施設職員だった。

 17年3月以降、植松被告と勾留先の横浜拘置支所などで19回にわたって接見をし、34通の手紙をやりとりしてきた。なぜ道を踏み外し、凶行に及んだのか。いまだに本心が見えない。

「心なき者」むき出しの敵意

 背中にかかる黒髪が時間の経過を物語る。逮捕後から一度も切っていない長髪を後ろで束ね、印象的だった金髪は毛先にわずかに残る程度。逮捕時のにらみつけるような鋭い目つきはどこにもない。かしこまった様子で伏し目がちに事務用椅子に腰掛ける姿は、どちらかと言えば気弱そうにさえ映る。

 なぜ事件を起こしたのか。質問を変えながら、これまで何度も疑問をぶつけてきた。答えは決まって同じようなものだった。

 「事件を起こしたことは、今でも間違っていなかったと思います。意思疎通のできない重度障害者は人の幸せを奪い、不幸をばらまく存在。絶対に安楽死させなければいけない」

 さも常識であるかのような口ぶりで、彼は笑みを浮かべながらこうも言い放つ。

 「私が殺したのは人ではありません。心失者です」

 逮捕時から変わることのない強固な差別意識。無抵抗の入所者に次々と襲いかかった「凶悪犯」の顔が、そこにあった。むしろ、常に監視された自由のない生活がそうさせるのか。事件から時間がたつにつれ、彼は自ら芽生えさせた思想をさらに先鋭化させているようにさえ思えた。

 「心失者」(しんしつしゃ)―。この耳慣れない言葉は植松被告の造語だ。事件を象徴するキーワードと言っていい。17年10月に送られてきたイラストには、よだれを垂らし、目の焦点が合っていないヘッドギア姿の男性が描かれていた。彼の目に映る「心失者」を表現したという。同封されていた手紙には「社会がひた隠す雰囲気が伝われば」と記されていた。

 日を改めて、語源についても尋ねた。記者にとっては大きな関心事だった。彼は「恥ずかしいんですが…」と口ごもりながら、人気ロールプレーイングゲーム「キングダムハーツ」に登場する敵キャラクター「ハートレス」に由来することを明かした。心が闇に完全に支配された漆黒の怪物だ。

 「ハートがレス。つまり、心がない。心がなかったら倒していい存在なんだ、と」。あまりの短絡さに拍子抜けしつつも、言い知れぬ不気味さを覚えた。

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最終更新:4/8(月) 12:41
カナロコ by 神奈川新聞

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