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【平成の事件】19人殺害の植松被告 接見19回と手紙34通から見えたゆがんだ正義と心の闇

4/8(月) 10:00配信

カナロコ by 神奈川新聞

「美」への憧れと劣等感

 手元に15枚のイラストがある。赤や黄色など数種類の色鉛筆を使って色鮮やかに描かれた鯉と龍。鉛筆1本で濃淡を付けた人物画。筆書きの牡丹の花が添えられた年賀状も届いた。繊細で精緻。どれも彼が拘置所で描いたものだ。

 絵を同封した理由は手紙に書かれていた。

 〈私は人間性が未熟であり容姿も歪な為に、人を不快にすることもあると思います。せめて少しでも奇麗な絵を描くことで、私の考えをお伝えする助力になれば幸いです〉

 彼は「美しさ」に対する強い執着と、自身の容姿への強烈なコンプレックスを隠さない。その感情を決定付けたトラウマとして挙げたのが、事件を起こす3、4年前のハロウィーンでの出来事――「パンダ事件」だった。

 パンダの着ぐるみで外を練り歩くと、すぐに周囲に人だかりができた。経験したことのない状況に戸惑いながらも高揚したという。だが、かぶり物を脱いだ途端、波が引くように人はいなくなった。

 「着ぐるみの中に入っていた私を見て、これじゃあなって思われたんですよ」

 物心ついた時から容姿に引き目を感じていた。回りからからかわれたり、いじめられたりしたことはない。しかし、その劣等感は成長するにつれて膨らみ、格好よくなりたいという一心で美容整形を繰り返し、背中に入れ墨まで彫ったのだという。

 目と鼻の整形に70万円、全身の永久脱毛に10万円…。金額に驚く記者を尻目に、彼は「美しさには、それだけの価値があるんです」と邪気なく笑った。こんな穏やかな表情をするのか。事件とのギャップに衝撃を受けながら、友人から「気さくないいやつ」と評されていた「さと君」を垣間見た気がした。

「社会のため」称賛疑わず

 検察側の起訴前の精神鑑定で「自己愛性パーソナリティー障害」と診断され、起訴後の弁護側請求の鑑定でも同様の診断が出た。自分を特別な存在と思い込んだり、周囲からの称賛を求めたりする特徴があるとされる人格障害の一つだ。

 彼は「才能がない」「器の小さい男」と自らを卑下するような言葉をよく口にする。精神鑑定の結果についても「多かれ少なかれ、誰にでも当てはまる。何かしらの診断を下さなければいけなかったんでしょう」と興味なさそうにつぶやいた。

 一理あるとは思いつつ、だが確かに彼の一面を言い得ているように思えた。

 〈どれだけの金と人手、物資が奪われているかを考え、泥水をすすり飲み死んでいく子どもを思えば、心失者の面倒を見ている場合ではありません〉。記者のもとに届いた手記に、そんな一文があった。

 「社会のために、という使命感はどこから来るのか。人生を賭してまで事件を起こさなければならなかったのか」と問うと、彼はしばらく考え込んでこう答えた。

 「社会の役に立たない重度障害者を支える仕事は、誰のためにもなっていない。だから自分は社会にとって役に立たない人間だった。事件を起こして、やっと役に立てる存在になれたんです」

 ぞっとした。ヒトラーを否定し、自らをリンカーンに重ね合わせる植松被告の心の深淵をのぞき見た思いがした。ゆがんだ正義感を振りかざし、周囲からの称賛を疑わず、心の中の闇を増幅させていったように思えてならない。その闇にのみ込まれ、いつしか「心失者」になっていたのは彼自身ではなかったか。

 事件から2年8カ月。面会が終わると深く腰を折り、頭のてっぺんをこちらに向けたまま、ゆっくりと閉まる扉の向こうへと消えていく。いつものように。彼は一体どんな人物なのか。その問いに胸を張って答えられる自信は、まだない。

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最終更新:4/8(月) 12:41
カナロコ by 神奈川新聞

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