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英国のEU離脱騒動、3人の戦犯政治家

4/8(月) 13:20配信

ニュースソクラ

キャメロン前首相、ジョンソン前外相、メイ首相

 英国のEU離脱を巡る混乱と騒動は欧州大陸でも「ブレクジット疲れ」を起こしている。もう飽き飽きした、聞きたくない、ということだ。全く同感である。

 世界の7つの海を制覇して陽の落ちることがない、とも称された英国が世界中にその醜態ぶりをさらしたことは大のイギリスびいきであった筆者にとっても悲しい出来事であった。

 いつまでたっても大英帝国へのノスタルジアに浸っている保守党の頑迷固陋な欧州懐疑派が英国を誤らせた元凶である。ブラッセルだけで2万5千人もいる選挙も経ていないEUの官僚主義が気に食わない、英国の国家主権を取り戻すのだ、と意気揚々であった。

 しかし、冷静に考えれば、EUの関税同盟と単一市場のメンバーとして貿易、サービスの拡大を遂げてきたのは事実であり、貿易・サービス取引でこれを上回る条件はあり得ないではないか。

 しかも、英国は通貨ユーロに加わらず、金融・為替政策の自主性を保持した。さらに、難民受け入れ等で問題になっているシェンゲン協定にも加わらない、という極めて優遇された条件を享受してきた。

 シティーの金融機関がいわゆるパスポートを喪失することを恐れてフランクフルトやダブリンに一部機能を移したほか、製造業でもホンダの工場閉鎖が大きく現地で報道された。16年6月に行われた国民投票のときにはEU離脱が及ぼす貿易、経済面への悪影響は中心的なテーマではなかったとはいえ、今になってあわてても遅きに失する。

 イングランド銀行が試算していたように仮に「合意なき離脱」の場合、GDPは1年で8%とリーマンショック後も上回る大幅な縮小、英ポンドも30%暴落する。英国が窮乏国家に転落する事態を予想している。

 ブレクジットそのものは英国という中規模経済国家が反グローバリゼーションの道を選択したものともいえる。ブレクジットは英国自身に激震が走り、欧州にとの経済には多少の影響を及ぼすとはいえ、世界経済全体を揺るがすようなインパクトはない。

 EU諸国は英国政治の混乱ぶりから合意なき離脱の可能性も高いと踏んで17年12月ころからその準備を行ってきたので大きな混乱はあるまい。混乱に陥るのは殆ど準備のできていない英国だけである。

 今回の元々の混乱はキャメロン前首相のおっちょこちょいな振る舞いにある。他には良い仕事もしたが、一直線にEU残留か離脱かという国民投票を仕掛けて英国社会を混乱に陥れた張本人として英国憲政史上、最低の宰相という汚名を着せられるであろう。

 キャメロン氏は「保守党が総選挙で勝てば、国民投票でEU離脱か、残留かを国民に問う」と啖呵を切ってしまった。狙いは国民投票で残留を決めて、当時台頭してきたEU離脱を掲げる英国独立党(UKIP)、保守党内に最大100名はいる、とされたEU懐疑派の勢力を削いで、自らの政権基盤を強固にすることにあった。

 キャメロン首相が盟友のオズボーン財務相(当時)が強硬に反対したにもかかわらず国民投票を強行したのは万が一にも負けることは考えていなかったからだ。16年6月の国民投票の結果は、離脱派が52%、残留派が48%と僅差ではあった。

 しかし、当初、残留派が僅差で上回るという予想に対して計算違いを起こしたのは、キャメロン自身の政策に対する一般国民の強い反発であった。つまり、キャメロン・オズボーン・コンビは財政の健全化に力を注いだ。とくに「ゆりかごから墓場まで」と称されて手厚かった社会保障費、教育費などを思い切って大きく切り込み、財政事情は大きく改善した。

 しかし、これが地方の豊かではない農民層や中小企業者の反発を招き、国民投票がキャメロン政権に対する一種の信任投票の観を呈した。

 地図を見ればわかる通り、イングランドではロンドンと豊かな南東部でこそ、残留派が勝利したものの、北部、中西部など「麗しきイングランド」の原型をなした農村部では、あまり離脱の経済的デメリットなどを考慮せず、貴族的な首相、財務相中心の政権への反発から政府の推す残留に反対をしたのであった。

 次に責められるべきは保守党内の強硬派であるボリス・ジョンソン前外相やUKIPのファラージ党首(当時)のウソを含めた国民へのEU離脱をあおる扇情的なキャンペーンであった。

 「EU拠出金を止めれば毎週3.5億ポンドのお金が戻ってきて毎週、病院が一棟建設できる」
 「東欧の移民は子供を母国において来て出稼ぎしているにもかかわらず、子供手当をもらえるのはけしからん」

 といったキャンペーンを張ってきた。EU拠出金から英国の農業、漁業への補助金が出ているといった真実は伝えられなかった。こういう大衆迎合政治家がのさばるところに英国社会の分断を感じさせる。

 ボリス・ジョンソン前外相は保守党支持者の間では辞任を表明したメイ首相後継としてトップ候補に擬せられている。本人もそのつもりか、ボサボサの髪をきれいにカットして、党首選に備えていると巷間伝えられている。

 オポチュニストとして過激な言葉で批判を繰り返すボリス・ジョンソンだけは首相にしてはいけないとの良識派の声は大きい。しかし、知識層から嫌われている一方で大衆人気の高さはロンドン市長時代から一貫しているのが心配の種だ。

 最後に糾弾されるべきはテレーザ・メイ首相その人である。元々、国民投票では残留に投票していたのだが、首相になってから離脱に方針を切り替えた。無能、凡庸、秘密主義との批判も多い一方で、善良・真面目で宗教心に厚いという英国人好みの徳目の持ち主であるため、一般国民から大きな批判は生まれていない。

 メイ首相は国民の民意が示された国民投票の結果をあくまでも尊重して離脱を推進してきた。しかし、それでは政治家、また宰相としての資格に欠ける。チャーチル首相があくまでも対独戦を戦い抜くという強固な意志で国民を率いたのと比較するとその差は明らかである。

 指導者たるもの、国家の危急存亡の時に民意に迎合するようではいけない。まして国民投票で示された民意は、グローバル化の下でのサプライチェーンが寸断されて英国経済が立ちいかなくなる、英国内から欧州大陸の諸国に自由にネットワークを構築できる「パスポートを失う」といったデメリットを必ずしも理解していた民意ではない。

 厳しく言えば、メイ首相が国民投票への結果に執着を示したことは、自らの政治的信念の欠如、信念ある政治家というより単なるテクノラートに甘んじている証明でしかない。メイ首相の本来の仕事は、国民に勇気をもってEU離脱後の陰鬱な真の姿を説明して、国民を説得することにあったと思う。

俵 一郎 (国際金融専門家)

最終更新:4/8(月) 13:20
ニュースソクラ

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