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ブレグジット騒動、危機感薄いEU本部周辺

4/8(月) 15:01配信

ニュースソクラ

【EU首都から】欧州議会選見越す北アイルランド候補、離脱派ファラージ氏も立候補を準備

 大騒動の英国のEU離脱問題だが、 実はとっくに落としどころがこしらえてあるのだという――。 それをEUの「奥の院」から耳打ちされたのは、 昨秋のことだった。

 なんでもその「落としどころ」 の一環として今年五月下旬に実施する欧州議会選挙で、 英国の一部である北アイルランドに二議席だか三議席だかが割り振 られていて、 ブリュッセルに活動拠点を置く北アイルランド人の有力候補者は毎週のように地元選挙区に通い着々と選挙活動を始めている。

 「 それでは第二回国民投票へ導き離脱自体を葬るシナリオが出来ているのか」と私が問うと否定せず、「 それには自発的に英国内で高まる要求に押されて実施する形が不可欠だ」と含みを持たせた。

 たまたま日本から現地視察に訪れた旧知の財界関係者にこの話を披露すると「とても信じられない」と一笑に付された。

 だが、その後の事態の展開を眺めているとなんだか「奥の院」 情報通り、ことが運んでいるような節がある。 このまま行けば英国は第二の国民投票を実施し、その結果、 EU離脱は中止になる可能性さえ出てきた。

 呆れたことにボリス・ ジョンソン前英外相とともにEU離脱を扇動した欧州議会のナイジ ェル・ファラージュ議員(英国) は五月の欧州議会選挙にちゃっかりと出馬を表明しているのだそう。

 万一、英国離脱が中止されたら引き続き、 散々こき下ろした欧州議会の禄を食み議員特権に浴し続けようとの 魂胆である――厚顔無知をはるかに超えている。

 「英国のメイ首相が険しい表情で現れました!」。先日、 ブリュッセルで開かれたEU首脳会議のプレスセンターで日本のテ レビ局放送記者が実況中継ならぬ「絶叫中継」をしていた。

 今月10日に再招集されるEU首脳会議ではさらに多くのテレビ局 が詰めかけ、同様なレポートをするだろう。視聴者にはお気の毒というしかない。

 実は、 現場のEU関係者たちは「困ったことだ」 と大袈裟に困惑顔をして見せるが、その実、危機感は薄い。 仮に英国離脱に突入しても破滅的な事態にはならないと高をくくっ ているのだ。

 三年近く前、 英EU離脱の国民投票直後のソクラの拙稿で述べたように、 EUと非EU加盟国間の協力の受け皿として欧州経済地域(EEA)の仕組み があり、 英国離脱に伴いタコの糸が切れたような大混乱に陥るようなことはない。

 そんなことよりも日本のプレスは、 日本の国益にはるかに重要な日・ EU間の出来事を見落としている。今年2月1日に発効した日・ EU戦略パートナーシップ協定(SPA)だ。

 昨年7月、 抱き合わせで調印された日・EU経済連携協定(EPA) の影に隠れ、国会での実質審議もなく、 批准もほとんど気づかれぬ間に行われてしまったはずだ。 目立たぬうちに作り上げるのが当局者の意図だったともいえる。

 美辞麗句に彩られたSPA協定は、衰える欧州が、 優秀な軍事技術や兵器・兵員をもつ日本の褌によって、 今後もアフリカや中東などグローバルな土俵で相撲を続けられるよう日欧が協力する、というのが真の狙いだ。

 これはNATOをめぐる米欧関係とも密接につながっている。 メイ首相の表情に一喜一憂する時間があるなら、 日本の外務省ホームページでこのSPAの協定全文を精査することこそ日本の記者、政治家の仕事ではないだろうか。

■谷口 長世(国際ジャーナリスト、在ブリュッセル)
毎日新聞ブリュッセル支局長を経て1998年、独立。ブリュッセル在住、安全保障&国際問題を中心に月刊「世界」など内外の雑誌に多数寄稿。著書に「アンネ・フランク 心の旅路」(講談社)、「NATO 変貌する安全保障」「サイバー時代の戦争」(共に岩波新書)。現在、世界第2の規模の外国特派員組織・国際記者連盟(ベルギー)財務理事。

最終更新:4/8(月) 15:01
ニュースソクラ

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