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【マンションが危ない(17)】 マンションのスラム化 防止へ動いた豊島区

4/10(水) 12:11配信

ニュースソクラ

ワンルームマンション税や管理状況届け出制度、悪質マンション公表も

 マンションのスラム化は、そこの住民だけでなく、周辺の地域、自治体にとっても由々しき問題だ。

 福岡市の中心街には、11階建て全130戸が、一時、丸ごとスラム化した築後40年超のマンションがある。もとは低層階にテナントが入り、4階以上に中流家庭が入居する、ごくふつうのマンションだった。

 ところが、バブル期に開発業者が「地上げ」狙いで多数の住戸を買い取り、状況が一変する。住民と業者が対立し、維持管理が暗礁に乗り上げ、電気や水の供給がストップ。居住者が続々と転出し、マンションは荒廃への坂を転がり落ちた。

 空室に浮浪者や不審者が入り、混乱に乗じて暴力団事務所も入居。不審火で空室が焼け、発砲事件が起きる。白骨化した変死体も発見された。荒れ放題に荒れた後、現在は一定の管理機能が回復し、住民もかなり入っているが、スラム化の記憶は残っている。

 福岡の例は他人事ではない。かつて自治体はマシンョンを私有財産の集合体とみなし、かかわろうとしなかった。だが、社会的影響力が高まったマンションを放置すれば、維持管理の停滞でスラム化が始まり、地域が崩れる。そこで自治体も動きだしている。

 先鞭をつけたのは、東京都豊島区だった。豊島区は「狭いワンルームに住む単身者が多い」ことで知られる。区内の全住宅の8割以上が分譲マンションを含む共同住宅で、全世帯の56%が単身者。しかも広さ30平方メートルに満たない狭小の集合住宅が全住宅の約4割を占めている。

 過去に豊島区では、池袋駅周辺にワンルームマンションが大量に建設されてきた。JRと私鉄が乗り入れる池袋駅は交通の便が良く、学生や独身会社員が集まる。彼らは分譲ワンルームに賃貸で入り、隣近所とのつきあいはなく、短期間暮らしてどこかへ移る。

 ワンルームは節税用の投資物件が主で、所有者はばらばらだ。管理組合の活動は低調で、賃借人が退出したら管理費を滞納する所有者も少なくない。少子化でワンルームの需要は確実に減っていく。豊島区には、家族世帯が賃貸や分譲で住みたくても良質の住宅が足りない。長い目でみるとワンルームはスラム化の火種となる。豊島区は英断を下した。

 2004年6月、「狭小住戸集合住宅税(ワンルームマンション税)」を施行する。狭小住宅を建てようとする建築主に対し、一戸50万円の税を課した。仮に30平米未満の住室10戸のマンションを建設しようとすると、建築主は500万円の税金を払わなくてはならない。ワンルーム供給の入口に課税したのである。その税収は年間3億円程度に上り、良質な住宅の整備につぎ込まれる。豊島区の高野之夫区長は、課税の意図をこう語っている。

 「ワンルームマンションは、投資目的で、景気のいい時、金利の低いときにつくられ、池袋を抱える豊島区は、地の利がいいとして狙われました。ワンルームマンションは、管理はお任せで、しかもできるだけ管理費を削る、入居者の半分以上は、住民登録もしない。このころから、この町に対する危機感が生まれてきました」 (特定非営利法人日本住宅管理組合協議会のインタビュー・2013年3月8日)

 そして、2013年にはマンションのスラム化を防ぐ「マンション管理推進条例」を公布した。この条例によって、区内のマンション管理組合は管理状況の届け出を義務付けられる。届けを出さない、もしくは届け出内容が規定に適合しない場合は、区が指導、要請・勧告し、マンション名を公表すると罰則も定められた。自治体が、マンション管理にここまで踏み込んだのは全国で初めてだった。高野区長は、マンション管理推進条例への思いをストレートに語っている(前同)。

 「修繕費もかけない、計画修繕もしない、修繕費積み立てもしないマンションが増えると、マンションはどんどん劣悪化して、建て替えもできなくなる。ほかのひとと縁もない状況、ただ寝に帰るだけという町では、いけないと思いました。自分の投資したものを回収できればいいというのでは、住宅はどんどん劣化してゆく」

 「町内会に入って、地域との縁をつくっていただいて、そうして30年以内に来るという首都直下型地震に備えるマンションの防災態勢をつくることも大事ですよ。そのことに積極的に参加してもらって、防災は町全体でやっていかないといけない。しっかりした管理組合、住民が行政とともに地域のコミュニティをつくってもらいたい」

 マンション住民の関心の的は「罰則」で名前が公表されるかどうかだった。高野区長は「不適格のお墨付きをもらったとなれば、それは価値がさがりますよ。ずいぶん効くんじゃないですか」と言いつつも、「指導して協力を求めて、それでも従わないときしか、伝家の宝刀は抜きません。最後の最後ですよ。やるのは。良好な住環境をつくる、それがまさに狙いですからね」と抑制気味だ。

 実際、条例施行後、指導や要請、勧告に従わず、名前を公表されたマンションはないようだ。これを指して「条例は努力目標に過ぎない」と批判するむきもあるが、野放しに比べれば大きな変化だった。

 豊島区が住環境の向上に取り組んでいたさなかの14年5月、「日本創成会議・人口減少問題検討分科会(座長・増田寛也元総務大臣)」が、10年の国勢調査をもとに30年間で女性人口が半分になる「消滅可能性都市」に東京23区で唯一、豊島区が入ると発表した。

 豊島区の名誉のために言っておくと、日本創生会議の予想と、同区の住環境向上の実践との間にはタイムラグがある。その後、子育て世代の定住に向けた施策も活発化し、大手不動産情報サイト「HOME'S」がユーザーを対象とした19年調査では、池袋が「借りて住みたい街」の第一に輝いている。

 豊島区と同趣旨のマンション管理条例は、墨田区、板橋区、千代田区へと広がり、東京都も「分譲マンション適正管理促進に向けた届け出制度」の概要を2018年12月にまとめ、条例化に踏みだした。管理不全の兆しがあるマンションへのアドバイザー派遣や、改良修繕費用の助成も盛り込まれている。

 マンションの維持管理が「コミュニティ価値」の視点から見直されつつある。

■山岡淳一郎(作家)
1959年愛媛県生まれ。作家。「人と時代」「21世紀の公と私」をテーマに近現代史、政治、経済、医療など旺盛に執筆。時事番組の司会、コメンテーターも務める。著書は、『後藤新平 日本の羅針盤となった男』『田中角栄の資源戦争』(草思社)、『気骨 経営者 土光敏夫の闘い』(平凡社)、『逆境を越えて 宅急便の父 小倉昌男伝』(KADOKAWA)、『原発と権力』『長生きしても報われない社会 在宅医療・介護の真実』(ちくま新書)、『勝海舟 歴史を動かす交渉力』(草思社)ほか多数、『神になりたかった男 徳田虎雄』(平凡社)『木下サーカス四代記』(東洋経済新報社)

最終更新:4/10(水) 12:11
ニュースソクラ

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